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第4話 涙探しの迷い魔女−4

【夢中説夢の蒼き薔薇、外道が語りて日が昇る、

心底奥底煮凝る慟哭、明けても暮れても心の臓から引き摺り潰す、もう希望は要らぬ、大義等知らぬ、

辛く愛しき鬱屈よ、不条理とともに愉しく踊り、あの憎き、不平不服を磨り潰せ】

【動悸を鎮める鎮魂歌、血涙微笑傀儡ノ仮初】

天井の禍々しい紫が、四階を包み込む。

「ネモっ! 撤退だぁっ!」

二人は本棚の影へ滑り込み、最後の一歩で階段へ飛び込んだ。

蔵書会館四階で静かに炸裂する負のエネルギー。

それは何も揺らさず、何も壊さずにフロアの全てを包み込み、そしてゆっくりと収束していった。

少女はため息をつく。

「これで……終わり……あれ?」

いない。先程まで対峙していた獅子と青年。

「もしかして……逃げられちゃったのかな、ブラド」

「クゥン……」

「ブラドのせいじゃないよ」

少女は落ち込む友の頭を一撫ですると、また読書に耽り始めた。



「うぅ……はぁ……はぁ……」

「クソッ……とんでもねぇな……」

ジェラルドは呻くネモを抱きかかえ、裏口の扉を開ける。

裏口の見張り台にいたクリストが、物音に気づいて駆け寄ってきた。

「ジェラルドさんっ! どうでしたかっ!」

少し高揚した様子。話の出来る状態で戻ってきたのは二人が初めてだったのだから。

「すまんな、負けたよ」

「え……でも……」

困惑するクリスト。

「命からがら逃げてきたって感じだ。相棒はこのザマだ……」

「そうですか……」

消沈するクリスト。

「だが収穫なしだったわけじゃない。色々わかったよ」

「お教え願えますか?」

ジェラルドは一度逡巡した後に返す。

「我々に再度挑戦させて頂きたい。それで駄目なら、今回得た情報を全てお教えしましょう」

交換条件。今ここで全てを渡せば、別の挑戦者に同じ情報が回り、攻略の手柄を掠め取られる恐れがある。

「……わかりました」

クリストは苦い顔で頷く。

「ですがこちらも長く何もせぬわけにはいきません。あと三日以内に蹴りを付けてください。それで無理であれば、別口の戦力に切り替えます。それが条件です」

「感謝いたします」

ジェラルドはそう言うと宿場街の方へと歩き出した。



「……最悪の気分だ……」

朝、鳥の鳴き声と共にネモは目を覚ます。

「起きたか。調子は……悪そうだな」

そう言いながら準備していた紅茶を差し出すジェラルド。

「逃げ遅れちゃって掠っちゃったよ」

「近くにいたからしょうがねえ。で、どんな魔法だった」

ネモは一口温かい茶を啜る。

「親が殺された時、仲間の死を聞いた時、アヤセ様が負けた時……とにかく嫌だった、悲しかった時の気持ち。あれを全部、無理矢理引き摺り出されて、かき混ぜて、また頭に叩き込まれた感じだったよ……」

「精神汚染か」

「掠っただけでこのザマ。芯の部分を喰らってたら……」

「考えたくねえな」

暫しの沈黙。再度ネモが口を開く。

「ジェラルド、あの子の詠唱、聞こえた?」

「ああ、全部覚えてる。重くて苦しそうだったな」

「あの年でアレってさ……それに僕の喰らった、強くて、辛くて、悲しいあの魔法……ジェラルド……僕さ」

「解ってる。このまま倒して終わりってのは嫌だよな」

「……うん。負けた分際で偉そうかもしれないけど」

「再挑戦に三日の猶予を貰った。俺はこれから、彼女が何者なのか調べてみる。お前は今日は休んで、明日から手伝ってくれ。次の日にもう一度、彼女の下に赴こう」

「うん、ありがとう……」



ビッグピースの町中でジェラルドは考え込む。

彼女は何者なのか。何を欲しているのか。何故2週間前に事を起こしたのか。

「取り敢えず……怪しいのは……」

ジェラルドはメグミが提供してくれた情報を思い出す。

図書館が占拠された前日、県政の迎賓館の人間が病院に担ぎ込まれた事件。

調査を初めて直ぐにクリストと接触できたお陰で調べる暇も無かったそれを調べようと、ジェラルドは迎賓館へと向かう。


「ここから先は立ち入り禁止です」

厳しい県政職員二人がジェラルドの前に立ち塞がる。

職員が守るその先には六階建ての美しい大理石製の建物。

周りは高い漆黒の壁に塞がれている。

「ふむ……前にここに来た時は一階は一般にも解放されていたはずですが……閉鎖されてしまったのでしょうか」

とぼけながら質問するジェラルド。

「ニ週間程前に事故がありましてね、調査の為に今は完全に封鎖済みです」

「ほお、それはそれは、いったい何が?」

「現在、我々には箝口令が敷かれておりますのでお答え出来ません、一階で行なっていた事務手続きや施設使用予約等は基本停止、一部はビッグピース市役所等に移管されております、御用はそちらへ」

「わかりました、ありがとうございます」

「大変申し訳ございません」


その場を離れるとジェラルドはその施設を一周する

「……イヤに厳重だな」

黒い3メートルはある壁に囲まれ、裏手にある資材搬入口も頑丈そうな扉によって閉じられている。

そして−−

「壁の上に高度な隠蔽が施された警戒魔法……簡単に侵入出来ないようになっている」

たかだか県政の迎賓館、セキュリティが固すぎる。

自身で飛び込みしらべたいところだが二メートル超えの金毛の獅子面が潜入捜査などリスキーすぎると考えたジェラルド。

「明日ネモに潜入してもらうか……今日俺ができることは……」

おもむろに紙とペンを取り出すと突然絵を描き始める。

「うむ、珠玉の出来」

五分後には件の少女の似顔絵が完成する。

「まずは聞き込み調査だな」

当日の事件の様子の聞き込み、そして人探しを装い彼女の身元の特定をするためにジェラルドは街の喧騒に消えていった。

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