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3−8 黒龍との攻防

隠密結界の膜が波打ちドラゴンの鼻先が結界の中に侵入して来る。

身構えるラムとアガベ、メグミはガタガタと腰を抜かしたまま震えている。

ジェラルドが声を潜めて呟く。

「皆、まだ大丈夫、魔法使いならともかくドラゴンなら、匂いも音もまだごまかせる、少しずつ後退を……」

ジェラルドが静かに逃走を促したその瞬間。

「ブフゥッ!」

ドラゴンの熱い鼻息が結界の中に充満する。

「うぐっ」

「熱っ!」

記憶の中に張り付いて取れない熱波と竜臭、聞き覚えのある息遣い。

「アあああぁぁっ!!」

トラウマを完全に抉られたメグミが絶叫する。

そしてそのまま詠唱破棄でドラゴンの鼻先目掛け――

【鉄貫飛雷針っ!】

雷の槍がドラゴンの鼻先で爆発。

仰天し悶絶するドラゴン。

「メグミさん!?」

「チッ、早まっちまったか」

皮肉な事ではあるが、克服訓練をしていなければここでメグミは魔法で反撃するほどの余力もなく気絶していたであろう。

中途半端に耐性がついてしまっていたために恐怖に耐えきれず思わず反撃をしてしまったのだ。

「バオォオォオオッ!」

突然の驚きと怒りをそのままぶつけるかの様にドラゴンは察知した結界に向かってその巨大な靭尾を縦に叩きつける。

そのまま地割れが起きそうな一撃、だが靭尾の下に影二つ。

ジェラルドがその一撃を受け止めメグミを護っている。

――こいつか不届き者は――

狼藉を働いた者を見定めたドラゴンはワイバーンには無い巨大で逞しい前腕でジェラルドに殴りかかる。

【凍てつき震え、空から水奪り煌めき落とせっ!】

【凍刺氷柱っ!】

ドラゴンの横面に鋭い氷塊が着弾。

ネモの攻撃魔法が炸裂する。

「手は出させないよ」

「ゴガァアァアッ!」

ドラゴンはバラバラに砕けた氷塊を吹き飛ばし怒りの形相でネモに標的を変えその長い首で噛み付きにかかる。

【銀錬一喝っ!】

今度はドラゴンの両足に銀色の巨大なハンマーが振り下ろされる。

ラムとアガベの攻撃魔法。

どうやら三人はメグミをジェラルドに任せて素早く反撃態勢をとっていたようだ。

「グッウガァアァッ……グギアアアアアッ!」

ドラゴンは苦悶と苛立ちを満載した咆哮で一帯の空気を震撼させる。

森と山にいた周囲の生物たちはその豪圧に一斉に逃げ出す。

だがそのビリつく空気を気にせず涼しい顔をしてネモは指をクイクイと動かし挑発する。

「かかってきなよ、雑魚専のチキン野郎!」

――舐めやがって――

ドラゴンは鋭く身を翻しラムとアガベにテールスイングを繰り出す。

「うおっ!」

「速っ!」

飛び跳ねギリギリで交わす二人。

だがドラゴンは返す刀で宙に浮いた二人を筋骨隆々の腕でぶん殴る。

「ヤバいっ!」

その巨体に似合わぬスピード、ラムとアガベの脳裏に死が過ぎる。

とんでもない衝突音、砂塵が舞う。

「危なかったね、ラムさん、アガベさん、大丈夫?」

ドラゴンと二人の間に飛び込み、魔法で造った氷の剣で殴打を受け止めるネモ。

「ありがとうございますっ!」

そう言うと二人は左右に散りドラゴンを挟み込む形で詠唱破棄で魔法を放つ。

【月光岩穿っ!】

細く輝く鋭いレーザーがドラゴンの顔面に命中する。

「グオアァアッ!」

流血するドラゴン。

目眩ましを喰らい視界を遮られたドラゴンは我武者羅に宙に飛び立つ。

「逃げる……わけないよね」

天に舞うドラゴンは大きく息を吸い込み下に向かって巨大な火炎弾をネモに向かって放つ。

巨大な大爆発がネモを襲う

「ネモさんっ!? なんてパワー……」

一瞬ネモの生還を諦めるラム、しかし獄炎の中から巨大な魔法陣が出現する。

【氷狼公凍獄大咆っ!】

魔法陣から放たれる巨大な冷気の奔流がドラゴンを襲う。

「ゴギャアアアッ!!」

空中で羽根を凍らされてもんどり打って落下するドラゴン。

落下の衝撃で地響きが起こる。

爆煙の中からネモが飛び出しアガベの隣に着地する。

「詠唱を切ったせいで威力がイマイチだね……起き上がってくるよ」

「ネモさん……思ってた異常に強え……」

驚嘆するアガベ。

「バオォオォオオッッ」

自身の体熱を利用し身にまとわりついた氷を振り払うドラゴン。

もはや怒りを通り越して発狂したドラゴンは暴れ狂う。

ネモ、ラム、アガベはなんとか距離を取りながら遠距離魔法でいなし、躱し、応戦する。

「さて……俺はどうするかな……」

震えるメグミを戦いの余波から守るように仁王立ちするジェラルド。

「あの三人なら……イケるか?」

圧倒的な力を持つドラゴンだがネモがヘイトを稼ぎラムとアガベが巧妙に横槍を入れる形で戦っている。 

「流石、優秀な政務官だ……自分の力足らずを一瞬で把握してネモのサポートに専念し始めた」

だがジェラルドは一つの懸念があった。

――ネモが熱くなって力を見せすぎている――

正体を隠して行動したいネモとジェラルドは自身の力量がバレることはできるだけ避けたい。

どこまでどう本気を出すかを逡巡するジェラルド。

「だが……ここで手を抜くのもあの二人には申し訳ないな」

結局は性根の人の良さが抜けきらないジェラルド、自身もメグミを防護壁で護ってから参戦しようと足を踏み出したその瞬間。

「…………」

唐突に俯き静かになるドラゴン、戦闘をしていた三人も困惑する。

ネモを睨みつけそして――。

「キエェエェエエエッ!」

突然甲高い高音で雄叫びを上げる。

あまりの音量に流石にネモもジェラルドも耳を塞ぐ。

「くそっ……うるさすぎるでしょっ!」

悪態をつくネモ。

だがそのイラつきも吹き飛ぶ様な不気味な変化がドラゴンに起こる。

靭尾が黒く光り、奇声を上げながらドラゴンがどんどんと痩せ細っていく。

ゴキゴキと音をさせながら体の形が変化する。

「やはり……これは……」

細る体、しかしそれに反比例してドラゴンの存在感、迫力が増していく。

まるで自身の肉体を生贄にして力を得ているかのようだ。

「ブフゥ……」

耳障りな奇声が止む。

そこに佇むのは痩せ細り、そして神々しいまでに禍々しいオーラを纏う漆黒のドラゴンの姿だった。




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