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太陽と私 第二話 逃亡

太陽と私


登場人物

ミホ(24歳)コールセンター派遣社員だが退職

アヤナ(24歳)中学校教師

アヤナ母(56歳)中学校教頭、校長試験を控えている

アヤナ父(57歳)中学校教師、生徒の母親との不倫が発覚

タツヤ(55歳)ミホの父親、地方公務員

サキヨ(55歳)ミホの母親、タツヤと同僚だったが、結婚を期に専業主婦になる


あらすじ

ミホとアヤナは同郷で同じ大学卒。

ミホは中堅どころ健康食品「やすらぎ」お客様お困り相談室とは名ばかりのクレーム対応で四苦八苦。

アヤナは両親の期待通り都内中学校教師だが、そこは正に地獄絵図、都内有数の荒れた学校に着任。

二人共に出口の見えない迷路に迷い込んでいた。


第二話 逃亡

「あのさ、毎日毎日、電話してのよ。こっちは。お宅の商品信じて半年。半年も飲み続けたわけ。でもさ。まーったく効果ないのよ。逆にだるくなっていてるわけ。分かってんでしょ。お宅、やすらぎの大人気商品「エナジーエイジ」あれが全く効果無い事!困らせないでよ。誠意を見せて欲しいんだよね。週刊誌に売っても良いのよ。「エナジーエイジ」で健康被害出てるってさ!いやね、金で解決なんて私と妻も思っていないけど。それっきゃないと思うよ。これでも十分譲っているつもりよ。誠意よ。誠意見せてくれって言ってんの。」

インカムで一部始終聞いていたパワハラ上司小林は、いつも通りただ黙ってうつむいたまま一方的に相手方のクレームを聞いていたミホのヘッドセットをやわら取り上げ「エナジーエイジ担当代表小林でございます。不在でなかなかお話出来ずに申し訳ございませんでした。お客様の今までの貴重なご意見は担当を通し伺わせて頂いております。御存知だとは思いますが、今までの会話全て録音させて頂いております。しかし、お客様の金額請求の兼になりますと、完全な脅しと捉えこちらとしては避けたいのですが、警察の方に通報の義務が生じますがよろしいでしょうか?」

「いや、そういう意味では…。分かりました。」

クレーマー様は急にしどろもどろになり、明らかに動揺。

ガシャーン 通話が途切れた。

「これでおしまい。もう電話かけてこないよ。ご苦労さん!」

呆気に取られているミホを尻目に、小林は黙ってデスクに戻った。

要は小林は相手方の脅し文言を待っていたのだった。

ミホはデスクに隠し持っていた退職願小林に差し出した。

驚く様子もなく小林は黙って受け取り「ご苦労さん」っと一言だけ残し、また一人PCに向かった。

ミホは常に用意していた大き目のバッグに身の回りの持ち物全て詰め込んだ。

「お世話になりました。必要な書類は送ってください。」

「分かったよ。」

ミホは静かに「お客様お困り相談室」を後にした。

誰一人として、ミホを見送る者もいない。


「あちゃ~、また、殺されちまった!」

「あんた、バカ、ドン位、銭払ってるんだよ!」

アヤカは一人黒板上にチョークで今日習うべく単語を書いている。

Abroad accept accident

段々と気が遠くなっていく…。

一番前座る、この気がふれている学び舎で唯一まともな生徒、高橋ルナが「先生、顔色悪いよ。」

心配そうにこっちを見つめているが、アヤカの頭は霧でかすんだようだ。

「今日はここ迄、後は自習、来週、単語テストやりますから、しっかり個々で勉強するように!」

そう答えるのが精一杯。

知らず知らずのうちに、彼女の足は校長室に向かっていた。

退職願を胸に持ちながら。

案の定、校長は校庭の様子を見入っている。

先週、サッカーの授業中に幾人かの生徒が勝手に校庭から抜け出し、近くのコンビニで買い物をしていたことが近所の住人の通報によって学校関係者、警察に知れ渡っていた。

青白い顔をした校長にアヤカは「退職願」を提出し、「今日で辞めさせていただきます」っとだけ言い残し、校長室を後にした途端、突然アヤカは大声で笑い始める。

「あはははははは!!!」

「辞めてやったぜ!くそったれ!」

アヤカの両親が聞いたら腰をぬかすであろう汚い言葉で。

その声は叫びにも聞こえなくはない。

だが、その笑い声はとどまるのを知らず。

校内中に、響き渡った。

アヤカはそのまま走って校庭を抜け、駅まで走り、汗を吹きながら最寄りの駅にその姿を見せていた。

奇妙な笑みを浮かべながら。

自然と回りの人々は彼女から距離を取る。

マンションに着くまで、その奇妙な微笑みは消える事は無かった。

ドサッ、ベッドに倒れ込むと、風に吹かれぐちゃぐちゃになった教師らしい黒髪が頬に張り付いている。

アヤカの両親がその姿を観たらおそらく気が狂うだろう。

「間違いない」アヤカは子供の頃、たまに見せてもらったテレビに映ったいたなんて言ったけなー。芸人の十八番の芸を口ずさんでいた。

「そうだ、もう学校には用事は無いんだわ。電話帳真っ白にしてやる。

まってな!」

一人息巻くとやわら電話帳から同僚、上司、等全員のアドレスを消してやったぜ!

すると、早速校長から電話が来た。

「あのー君ーどういうつもりか皆目わからないが、急に退職願をだされれても、なんとかならない?」

「私の中では確定なんです。私教師に向いてないんです。それ校長先生も感じていらっしゃていましたよね」

「いや、君はまだ若い。これからって時に、教科担任に慣れて貰う所だったのに。(間)ところで君はこれからのことどう思っているんです。なんていうか当校そのーーー、生徒たちの態度、今流行りのどこぞの週刊誌に売るなんてこと考えていないですよね!」

やっと出たーーー!校長の本音。

要は、自分が校長の時に面倒を起こしたくはないだけなんだ。

完全、自己保身に走っている。

こんなんばっかだから私は教師を辞めるんだ。

分かってんのか、このうすのろやろう!!

好くなくとも着任時、この学校を生徒たちを正しく理解しお互い励ましあい、人生の中での不安定な時期を乗り越えたいとの希望をアヤカは持っていた。

底抜けのお人よし。

例の両親 校長試験を控え、末はどこぞの大学教授にでもなりたいと大志を抱く母親と、教頭試験にも女性問題で落ち、今も40代派手目の生徒の母親と不倫中ながら、教師とは生徒の模範にならねばいけないなどどほざくいかれた父親と暮らしていた自堕落な家族。

こんな家庭に生まれながらも、いや、こんな家庭に生まれたからこそ純粋に世の中に役に立ちたいと本気で思っていたアヤカ。

全く世の中の人の冷たさが分かっていない、要はお花畑で育った、本物のお嬢さん。

世に放たれたってわけ。


一方、ミホはアヤカとは違い、多少は世の中の矛盾を知っていた。

だが、頬には意外にも汗ではなく涙が光っている。

通りを行きかう人々の視線にまんじりともせずただひたすらマンションへと向かっていたミホだったが…。

「自分なりに、お客様相談室(クレーム対応、飲むだけで元気いっぱい、貴方の活力にコミット がモットー健康食品 やすらぎ の仕事生きがいを感じてたのか?」

んなこちゃない!!

心の声は案外と正確にミホの気持ちを鏡に映してたのかも?

やっとこさっとこ、マンションのベッドに座り込み、気持ちも落ち着いてた。

涙で曇るその眼でやっぱ例の動画を見ている。

ミホと同じくらいの年齢の若い女性が楽しそうにヤシの木の下でカクテルを飲んでる。

大きく色鮮やかなパラソルの下で。

気が付くと、アヤカの番号を押していた。

「はい、ミホだね。何かあったの?」

スマホ越しの彼女の顔も疲れているように見える。

「私、やすらぎ辞めたんだ。」

「私も学校辞めた。」

「え、ホントに。」

「ホントよ。」

心なしか、アヤカの声もくぐもっている。

「ねえ、アヤカ何処か行こうか。お金ためたんでしょ。」

「うん、いいわね。」

「明日、アヤカんち行っていい?」

「うん、いいよ、待ってるよ。」

いつしか、二人は子供時代に戻っていた。

つづく

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