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太陽と私 第一話 あこがれ

太陽と私


登場人物

ミホ(24歳)コールセンター派遣社員だが退職

アヤナ(24歳)中学校教師

アヤナ母(56歳)中学校教頭、校長試験を控えている

アヤナ父(57歳)中学校教師、生徒の母親との不倫が発覚

タツヤ(55歳)ミホの父親、地方公務員

サキヨ(55歳)ミホの母親、タツヤと同僚だったが、結婚を期に専業主婦になる


あらすじ

ミホとアヤナは同郷で都内の同じ大学を卒業した。

それぞれ、コールセンター派遣社員、中学校教員として働き出していたが、ミホはクレーム対応で四苦八苦。

アヤナは赴任先が事もあろうに、都内有数の荒れている中学校でクラス担任まで任され、精神は限界。

二人共現実の世界から逃げるしかなかった。


第一話  あこがれ

「お宅さん方の態度が気にいらないんじゃないのよ。上の方とお話がしたいだけなんですよ。」

「分かっておりますが、なにせチーフの小林は今不在で。」

「不在、不在って、何時もですね。お宅さんの会社の理念をお聞かせ願いたい。」

チーフ小林は両手を「ダメダメ」っと振っている。

代わる気が無いのは知っているが、毎回こうだと正直気が狂いそうだ。

この客は私が担当だって言っているようなもんだ。

無言の圧力。

「もういい!また明日だ!」

言い終わるや否や、「ガッシャーん」

耳が割れんばかり大きな音でクレーマー様対応終了。

ミホは健康食品会社や「やすらぎ」の「お客様お困り相談室」とは名ばかりで、要はクレーマー対応の部署に配置されている。

「やすらぎ」は(飲むだけで元気いっぱい貴方の活力にコミット)?がモットーでテレビCMも打っている中堅どころの企業。

ここだけの話だが、製品の製造過程も曖昧で厚生労働省役人の天下り先になる事で成り立っているようなもんらしい?

錠剤もなんで固められているのか分かったもんじゃない。

いつ、健康被害が出るかも知れないとまことしやかに囁かれている。

ミホ達、末端のコールセンター派遣社員にも噂が入っているのだから、結構マジかも。

でも、そんなこと、どうでもいい。

「もう、限界、パワハラ上司。小林、一回くらいクレーム対応してみろってんだ!!」

明日にでも退職届出しそうな気分でミホの精神は崩壊寸前、いや、既に崩壊していた。

心の中ではいつも辞表をチーフ小林に突き出している。

まことに、限界状態。

疲れた切った身体で帰宅すると、何時ものように、コンビニで買ってきた缶ビールと缶詰めの焼き鳥を「パッカーン」っと開け、愚痴をこぼし始める。

「もう、信じられんわ!あの変態クレーマーなんで私が対応しなくっちゃいけないの?皆が押し付けてくんのよ!完全いじめだわ!もう辞めてやる!」

このような汚い言葉を発し、暫くすると酒の力もあってか、勝手に涙が両の頬をつたい始め、何時ものようにスマホ片手にじっと黙り込み、例の動画を見る。

画面には、何処か知れない南国で優雅な日々を送るミホと同年代であろうユーチューバーが映っている。

「ここに、行きたい。」

いつの間にか、頬につたっているものは渇き、ミホは薄い眠りに入り込んでいた。


幼いころから両親が中学校教師で、教師になる事以外に選択肢がない圧の中、アヤナは育ってきた。

父親は事あるごとに「教師とは、人の上に立つ身。常に自分を律し、皆の手本となる様に行動すること」

耳にタコが出来るほど聞いて育った。

が、アヤナは知ってしまった。

父親が教え子の母親と不倫関係を続けて居るのを。

アヤナは塾帰りに見てしまったのだ。

父親と40代位の派手目な女性が腕を組みホテルに入っていくのを。

迷った、迷いに迷ったが、母親に話した、が、以外な答えが帰ってきて仰天した。

「知ってるわよ、もう、教員仲間では有名な話よ。今回の相手は教え子の母親だってさ。」

「こ、今回って、お母さんそれで平気なの。」

「今更、離婚だなんて、来年、校長試験が控えてんのよ、そんなことで私のキャリアに傷が付いたらどうすんのよ!あんたも、騒がないでね。」

以前、父親も教頭試験に挑戦したが、母親の様には上手く行かなかった様で…。

母親曰く「わきが甘いのよ」とは…。

どうやら、父親の女好きは有名なようで…。

母親の頭の中は自分のキャリアを積む事しかなく、いづれは人脈を酷使し、大学の教授になりたいと言っていた記憶もある。

アヤナが一人っ子だったのも子供が居れば、仕事に集中出来ないからだ。

アヤナは都内にある大学の教育学部に見事現役合格し、晴れて両親同様、中学教師になったが、運悪く、そこは都内一荒れていた。

「おーい、お前さ、何それ、カッコつけんじゃねえよ。似合ってねえんだよ。今時茶髪なんて。」

「おれの勝手じゃんか。似合ってんだろ。ホントの事言えよ。」

「きっしょーい」

わきから、これまた緑に染めたロン毛の木山がチャチ入れている。

「おい、全クリ出来たか。武器買うのに300円課金したじゃん」

「だまれ!クッソ!」

英語の授業中だ。

これが、この学校の通常運転。

教頭も、校長も、知らんぷり。

「どうか、私の赴任中に生徒の問題行動が表に出ませんように!」

祈るばかり。

アヤナは思った、日本の教育システムは崩壊している。

それは違う。

崩壊しているのは、アヤナの神経だった。

現実、出来の良いお子様を持つ上流家庭は皆、小学校から私立に通う。

アヤナの住む世界はあまりにも狭かった。

教育機関の終了ではなく、この国日本の格差社会がもたらす現象なんだとは、アヤナは想像もつかなかった。

それほど、彼女は大っ嫌いな両親の影響を良くも悪くも受け過ぎていた。

良い面、素直で最初は本当にいい教師になり、生徒を正しく?育てたいとの希望があった。

悪い面、世間知らずの両親の元で何不住なく育ちあまりにも世間を知らな過ぎた。

そんなアヤナにはただ一人大学時代の親友と呼べる人物、ミホがいた。

彼女だけはアヤナの世離れした話を聞いてくれたのだ。

大学時代のアヤナは本当に純真で、日本の教育を良くしたい。

その一翼を私は担いたいと日頃からミホに話していた。

だが、現実の厳しさはその信念を簡単に覆す。

アヤナは思った。

教師を辞めたいと、真剣に。

気が付くといつの間にかアヤナの手にはスマホが握られて、ミホの番号にコールしていた。

アヤナとミホは同郷で都内の同じ大学卒。

教育学部と文学部それぞれ学部は違うも、高校の頃から何故か馬が合い、それぞれの家を行き来していた。

何度目のコール音が鳴っただろうか、ミホの消え入るようなくぐもった声が聞こえた。

「はい。」

久しぶりのミホの声だったが、明らかに様子がおかしい。

「貴方、大丈夫。」

アヤナの声に対し、返答したミホの声は明らかに泣いている。

「もう、いやだ!」

ミホはそう言い残し、スマホの通話は途絶えた。

ミホったら、どうしたんだろう。

アヤナの心は自分の事よりミホの事でいっぱいになった。

明日、また電話してみよう。

そう、アヤナは思った。

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