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婚約破棄の明と暗  作者:
公国伯爵令嬢マルガレータ編
16/20

新たな主従

実は他国にもいたシャルティナ被害者のお話。

ドアマット系統な境遇ではありますが、本人淡々としているので悲壮感はほぼありません。

「なるほど。イサーク留学中の婚約者が、あちらの第三王女に熱を上げ婚約破棄を告げてきたがゆえに、繋ぎ止めておけなかった不手際を家族に責められた、と。……悪いのは浮気者であるあちらであって、間違ってもそなたではないとわらわは思うのだが?」

「仰る通りにございます。ですがご存知のように、私は家族との折り合いが悪く……今のままでは近い未来、喜ばしくない相手との結婚を父と義母に決められてしまうのは目に見えております。ですのでもしよろしければ、ガブリエラ殿下がアクティ王国へ嫁がれるにあたり、増員する侍女の中に私を入れていただければと存じまして……」


 カロン伯爵令嬢マルガレータの申し出に、バルト公国第一公女ガブリエラは、美と気品にあふれる(かんばせ)に鷹揚な笑みを浮かべ快くうなずきを返す。

 二十二歳の彼女にとって三歳年下のマルガレータは、幼い頃から仕えてくれていた女官の忘れ形見であった。マルガレータ本人とは幼馴染というほど親しくしていたわけではないけれど、母亡き後の彼女の置かれた状況はとても気にくわなかったので、こうして頼ってくれたのは正直とても嬉しい。


「よかろう。何せわらわは世に知られた変わり者ゆえ、側近く仕えようと思ってくれる者自体が少ないのでなあ。そなたの申し出は非常にありがたい。末永くよろしく頼むぞ」

「光栄至極に存じます」


 どうやらおかしな相手に嫁がされずに済みそうだと確信できたマルガレータは、こっそりと安堵の溜め息を漏らすのだった。




 数ヶ月が経ち、マルガレータが仕事に慣れてきた頃、ガブリエラがアクティへ行く日がやってきた。

 のんびりと馬車に揺られながら会話を交わす。


「今更だがグレタ、そなたがアクティに参るのは大丈夫か? イサークよりアクティに嫁ぐのは、問題の第三王女と聞いておるぞ」


 愛称で呼び心配してくれる主人へ、マルガレータはごく淡々と答えた。


「そのようですね。ですがそこに元婚約者が同行してくるわけもございませんし、あちらの王女殿下はおそらく私の名前も知らないでしょうから、あえてこちらから関わろうとしない限り問題はないかと」

「ふむ、それもそうか。わらわの本音としては、他者の婚約者を誑かして憚らぬ悪女(アバズレ)の顔を是非一度は拝んでみたいものだがな。噂によると、天使とも見紛う美少女とも言うし」

「天使ですか。それは、見た目通りに純粋すぎて男性たちと近づく意味を理解できないほどなのか、見た目とは正反対に男心を弄ぶ(すべ)に長けた悪女かのどちらかでしょうね」


 穏やかな口調で結構な毒舌を披露したマルガレータだが、実はこれが彼女の素だったりする。

 ガブリエラも慣れたもので、ふはっと淑女らしからぬ笑いをこぼす。


「ああ、やはりグレタは見た目も中身も母親似であるな。楚々とした外見からその舌鋒の鋭さ、とても小気味良くて好ましい」

「恐れ入ります」


 家族からは何度生意気だと言われたか知れない特徴を、笑って肯定してくれる主人に出会えたのは幸運だったとしみじみ思う。

 ガブリエラの侍女になると告げた時の両親や異母妹は、嫁き遅れの変人公女に仕える傷物侍女か、とそれはそれは見下げてくれたものだけれど、マルガレータがいなくなったカロン家が今後どうなるかを本来は心配すべきである。

 マルガレータが嫁ぐはずだったカペル男爵家━━嫡男を留学させられる程度には裕福な家との縁は切れた。彼女の亡き母の実家である子爵家は、数年前の洪水による領地の被害が酷く、一族総意のもと爵位と領地を国へ返還している。現伯爵夫人の義母は貧乏な男爵家の生まれによる反動か浪費が酷く、その娘で両親からお姫様扱いされている異母妹の評価は「婚約もせずに美男子たちの間を熱心に渡り歩いているのは、次期当主として次代の血を確実に残すためなのだろうな?」と社交界から皮肉られる程度によろしくない。

 客観的に見ればこれほど詰んでいる状況もなかなかないはずなのだが……それを一切指摘することなく、これ以上巻き込まれまいと家から逃げ出したマルガレータなので、気に掛けるのも今更だろう。


「イサーク第三王女のことはさておき、ガブリエラ殿下はアクティではどのように動かれるおつもりですか? 本来の趣旨は、未婚の王子方の妃選びとのことですけれど……やはり名目である、国王の第五妃をお狙いに?」

「うむ。知っての通り、わらわは二十代以下の殿方にはどうにも食指が動かぬでな。三十代も悪くはないが、若さと言う名の未熟さがまだ残る年代ゆえ……やはり殿方というものは、四十(しじゅう)を超えて初めて備わる円熟味こそが本来の魅力だとわらわは思うのだよ。無論、異論は認めるが」

「は、はあ……」


 好みというのは人それぞれなので否定するつもりはないものの、基本的に敬愛すべき主であってもこればかりはついていけないと思うマルガレータであった。別についてくることを強制するガブリエラでもないので、そこは安心だが。

 そんなガブリエラは昔から自らの男性の好みを公言して憚らなかったため、バルト公国では変わり者や腫れ物のような扱いをされていたのである。「あくまでも個人的な趣味というだけであって、政略とあれば誰に嫁ぐのもやぶさかではないのだがなあ?」というのが本人談だが、国内では母公妃に次いで高貴な立場にある第一公女の言葉となれば完全に無視するのも難しい。バルト公国では慎ましやかな女性が好まれる傾向にあるのもまた、彼女が無礼にならない程度に遠巻きにされた理由と言えた。

 そういうわけで昨年、アクティから持ち込まれた縁談━━「孫が複数いる国王の、末席の妃」を求める名目で、実質は未婚の王子たちの見合い相手を集める話に、何の迷いもなく手を挙げたのがガブリエラであったのだ。当然ながら彼女が狙うは国王の第五妃の座一択である。さっくりと振られるかもしれないが、それからはそうなってからの話だ。


「ふふふ。国王陛下にお会いできる日が楽しみだのう」

「素敵なお方だとよろしいですね」

「うむ」


 結局のところ、ガブリエラにとってもマルガレータにとっても、アクティで会うかもしれないイサーク第三王女シャルティナへの関心は二の次以下であった。





というわけで、お待たせしました。サーラベル編で出てきたおじさま趣味の妃候補、ガブリエラ公女が登場です。

とは言え今回はあまり活躍しないので、ご期待いただいていた方には肩透かしになるかもしれません。

マルガレータ編では主に、サーラベル編の隙間や裏側を書く形となります。裏サーラベル編と言える内容になるかと。

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