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婚約破棄の明と暗  作者:
伯爵令嬢ニノン編
12/15

はじめての婚約破棄

サブタイトル通り、シャルティナが最初にぶち壊した婚約絡みの話になります。

入学早々やらかしてますこの王女。でも意外と影は薄め。

「ごめんなさい、ニノン様……不肖の妹が大変なことをしでかしてしまって」


 マイツァー伯爵令嬢ニノンは、クラスメイトの第二王女シルヴァーナから心底すまなそうに謝罪され、透き通るような美貌に苦笑を浮かべつつ首を振ってそれに応えた。


「シルヴァーナ殿下が謝罪なさることではありません。今回のことで非があるのはフィル様、もといローデス伯爵子息ですし……それに、あえて挙げるならもうお一方(ひとかた)も」


 と、ニノンが教室の窓から外を見ると、春の花が咲き乱れる中庭の中央、噴水そばのベンチで談笑している一団が目に入る。彼らはもう小一時間ほどそこにいるが、今日は試験の最終日で午前中のみの日程のため、のんびり過ごす彼らが咎められることはない。教室に残って雑談をしているシルヴァーナとニノンも同様だ。

 一団の中心で楽しそうに微笑んでいるのは、新入生の第三王女シャルティナ━━シルヴァーナの腹違いの妹で、天使のような美貌を誇る国王鍾愛の娘である。

 そして、彼女を囲む三人の男子生徒のうち一人が、問題のフィルクロード・ローデス伯爵子息。彼はニノンやシルヴァーナと同学年の二年生であり、つい先日までニノンの婚約者だったのだが……




『というわけで、すまないが婚約を破棄してくれ。私はこれから、愛するシャルティナ殿下に我がローデス家へ降嫁していただくにあたり、全力を尽くして努力しなくてはいけないんだ』

『…………とりあえず、いくつか確認させてください』


 突然の申し出に頭痛をこらえつつ、ニノンは質問に答えてもらう形で事態の把握に努める。

 要するに、フィルクロードはシャルティナ王女と恋に落ちてしまったため━━話を聞く限り、シャルティナ側は彼を思っているというようなことは言っていないが、とにかく愛しの王女とは両思いだという認識の彼は、ニノンとの婚約を正式に破棄して王女の婚約者となる道を模索したいということらしい。確かに伯爵家嫡男のフィルクロードならば、王女の降嫁をぎりぎり願える立場にはあるけれども……

 ニノンとしては、他の女性に惚れ込んでいるのが分かりきった男と夫婦になるというのは、政略結婚だとしてもできれは遠慮したい。なので婚約破棄自体には賛成だ。

 とは言え問題はあれこれある。


『婚約については家同士が絡む話ですし、破棄するにはそれぞれの両親をどうにか説得するとして……一年次修了後にアクティへ嫁がれるというシャルティナ殿下のお役目に関しては、一体どうお考えなのです?』

『そこは大丈夫だ。シャルティナ殿下は陛下最愛の王女だから、「どうしてもローデス家に嫁ぎたいのです!」とでも陛下へ言っていただければ、融通は利かせてくださるはずさ。アクティ国に嫁ぐべきはあくまでも「王女」であって、シャルティナ殿下でなければいけない理由はない。それこそシルヴァーナ殿下でも特に問題ないだろう』


 ちっとも大丈夫ではないし問題しかない。

 まず突然出された別の名前に、ニノンはフィルクロードの正気を疑った。


『━━シルヴァーナ殿下()()、というのは、王女殿下に対してあまりにも無礼すぎでは? それに確か、シルヴァーナ殿下はツィルト侯爵家ご嫡男の婚約者ですのに、そちらを破談にしてまでアクティへ嫁げというのも……』

『何を言っているんだよ。シルヴァーナ殿下は貴族ですらない、平民出身のビアンカ側妃から生まれたんだぞ? ビアンカ側妃の実家は商家だし、商人なら侯爵夫人になるよりも、末席とは言え一国の王の妃になる方がずっといいって損得勘定くらいはするものじゃないか? ツィルト家のエリック殿だって、平民の血を引く王女()()()よりも、両親ともに真っ当な貴族である令嬢を娶りたいだろうし』

『…………』


 偏見と差別意識が酷すぎる上に、それを常識だと思い込んでいるらしいのが手に負えない。確かにシルヴァーナの母は平民だが、父は間違いなく国王であり、シルヴァーナ自身もしっかり王女として振る舞っている以上、「なんか」扱いなどをされる筋合いはどこにもないのに。

 この時点でニノンは既に、フィルクロードとの婚約破棄を大いに歓迎する心境になっていた。今まで気づかなかった欠点を気づかせてくれたという意味では、むしろシャルティナには感謝すべきかもしれない。

 ……そもそも、シャルティナの亡き母親も貴族ではあれど男爵令嬢でしかなかったということを、フィルクロードは一体どう考えているのか。気にはなるが知りたくもないニノンであった。


 彼女の様子をいいように解釈したらしいフィルクロードは、自信満々に笑ってこう言ってのける。


『心配してくれるのはありがたいが、その必要はないよ。私は全力を挙げてシャルティナ殿下の夫の座を射止めてみせる! 何ならフィルクロード・ローデスの名にかけて誓ってもいい!』

『はあ……』


 ()()婚約者である男が無駄に盛り上がりまくるのを、ニノンはただただ無感情な目で眺めていた。さっさと帰ってくれないかな……という本音を綺麗に隠しながら。




 回想を終えたニノンと同じ方を見たシルヴァーナは、呆れて深々とため息をつく。


「シャルティナは相変わらずね……ローデス伯爵子息からは、婚約破棄のことは聞いていないのだとしても、売約済の(婚約者のいる)男性ばかりを侍らせているのが周囲からどう見えるのか、考えもしていないんだわ」


 王女なのに……と言いながら、シルヴァーナは身についた優美な所作で席を立った。


「失礼させていただきますわね、ニノン様。これからあちらの方々に、シャルティナの姉として少しばかり説教しなくてはいけませんので」

「え。あの、シルヴァーナ殿下……! 今あちらにいらっしゃるのは、その……妹君の取り巻きの皆様が、殿下に無礼を働くかもしれませんし」


 フィルクロードの褒められない気性を明確に口にしたくはないため、どうしても遠回しな表現になってしまうニノンだった。元婚約者への気遣いなどではなく、シルヴァーナを心配してのことである。

 もっとも、それを察しないシルヴァーナでもなく。


「ご心配ありがとうございます、ニノン様。でも平気ですわ。私は存在自体が貴族の方々の試金石となっていて、その役割をよぉく心得ておりますから」


 ━━強い。よりは、たくましいと言うべきか。

 とても晴れやかな笑顔で言い切られては、それ以上の反論の余地はどこにもない。

 シルヴァーナが去った教室で一人、ニノンはぽつりとつぶやく。


「……試金石、か」


 その観点で言うと、シャルティナも本人の意図はともかく、ある種の男子学生たちの試金石となっているような気はする。

 第二王女と第三王女、そのどちらにも相応しくない態度を取っているフィルクロードはつまり、婚約者としても貴族としても明らかによろしくない存在であるということになる。それが目に見えて分かったのは、ニノンにとっては非常にありがたかった。


「でも……その『試金石』って、もしかして国王陛下のご下命だったりするのかしら?」


 ふとそんな可能性を思いついた。

 シャルティナの件はともかく、シルヴァーナに関しては十分に有り得る気がする。次女やその母への愛情の有無はともかく、「平民の血を引く王女」というある種異質な存在は、過ぎた偏見の持ち主と無能を見分ける踏み絵とするには確かに最適だろうから。


「……まさか、ね」


 三女への偏愛っぷりを見るに、そこまでのことを国王が考えているとは思えない。

 けれどその割には、三女以外の王子や王女たちは軒並み聡明であると評判なわけで……


「うーん……」


 答えの出ない疑問に頭を悩ませるニノンの耳に、中庭の会話が聞こえてきた。




「ごきげんよう、シャルティナ。学園にはすっかり慣れたようね?」

「シルヴィお姉様……ええ。仲良くしてくださるお友達のお陰です」


 ふわっと愛らしく微笑むシャルティナに、フィルクロード他二名の男子生徒はにへにへとしまりのない顔になった。

 そんな彼らに、シルヴァーナは冷静な視線を向ける。


「お友達、ねえ……不躾ながら皆様には全員、正式な婚約者がおいでですわよね? そちらを放ってまで我が妹を取り囲んでいらっしゃる皆様を見ますと、正直姉としては、婚約者の方々に申し訳ない気持ちになってしまいますのよ」

「それは失礼ながら下衆の勘繰りというものですよ、シルヴァーナ殿下。我々はこう見えても、婚約者とは何の問題もなく円満な関係を築いておりますのでご心配なきよう」


 ぬけぬけと言い放つフィルクロードに、離れたところから聞いているニノンは完全に呆れ果てた。

 何の問題もない? 円満な関係? どの口が言うか。おまけに下衆の勘繰りとは、王女相手に使っていい言葉ではない。

 おそらく同じことを思っているだろうシルヴァーナは、婚約破棄については素知らぬ振りで話を続ける。


「まあ、そうですの。けれど殿方は円満だと思っていても、女性側は必ずしもそうではないという場合が多々ありますから、どうぞ皆様はお気をつけくださいな」


 にこにこと、猫を思わせる可愛らしくも気の強そうな顔立ちに満面の笑みを浮かべてそう口にした。

 実のところ、中庭にいるのは彼女たちだけではない。フィルクロード以外の取り巻き男子二人、子爵子息と男爵子息の身内や婚約者の女生徒たちが、中庭の隅に固まってひそひそ言い合いながらシャルティナたちを見ており、その様子は誰がどう見ても「円満」という言葉とは程遠い。

 彼女たちの気持ちがとてもよく分かるニノンは、私もあそこに交ざりたい、と密かに思った。


 第二王女の皮肉めいた忠告をどう思ったのか、フィルクロードはこの上なく傲慢な表情になり嘲笑を込めた声音で返答する。


「それは女性側にも同じことが言えるのでは? 表面上は仲のいい婚約者同士であるとしても、男性が内心で女性に不満を持っていないとは言い切れません。例えば、高貴な生まれの婚約者にはその実、母方の()()()()が流れていて、そこが男性には大いに不満であるとか……」

「まあ! ローデス伯爵子息は、よりにもよってそんな風に()()()()()()()()()を思っていらっしゃるのですか!? いいお友達のようなお顔を妹になさっておきながら、何て酷いことを……!!」

「「「は!?」」」


 意図的に対象を取り違えて涙してみせるシルヴァーナに、そのシルヴァーナを当て擦ったつもりのフィルクロードと、同じくにやにやしていた他二名は思いきり焦った声を上げた。


「な、待ってくださいシルヴァーナ殿下! どうして私がシャルティナ殿下を指して言ったなどという誤解を……」

「あら、だって噂に聞き及んでいますもの。ローデス伯爵子息は、ご自分よりも身分の低い方々には殊更に厳しくも横暴な態度を取りがちであると。そちらのグレン子爵子息や、オルセン男爵子息も何かと被害に遭っているとか……となれば当然、男爵令嬢でいらしたシャルティナの亡き母君も、ローデス伯爵子息にとっては『下賤』という評価になるのだという解釈にもなりますわ。シャルティナには曲がりなりにも、アクティ国王という婚約者がいらっしゃいますし」


 ねえ? と少々膨らませた噂話を口にすれば、心当たりがないでもない取り巻き二人は顔を見合わせてから、フィルクロードとシャルティナを見比べた。


「な、何だ二人とも、その顔は!?」

「いえ。ただ……なあ?」

「はい。確かに言われてみれば……と」


 今にも仲間割れを起こしそうな彼らの傍らで、予想外の展開に焦ったシャルティナが姉に抗議してくる。


「シルヴィお姉様、何て酷い誤解をなさるんですか! フィルクロード様は勿論、アーネスト様もウォルター様も、私を悪く思うなんて有り得ませんのに!」

「あら。ではローデス伯爵子息が言っていた例え話は一体どなたのことなのかしら? シャルティナは分かるのよね?」

「う。そ、それは……!」


 真っ正直に「シルヴィお姉様のことです」と答えられる状況ではない。それが分かっていたならどうしてさっさと止めに入らなかったのかと、シルヴァーナならば間違いなく突っ込みを入れてくるからだ。姉妹二人だけならまだしも、第三者のいるこの場でそれを言われてしまえば、せっかく作り上げた「天使のように美しく優しい第三王女」という仮面が台無しになってしまう。


 シャルティナとフィルクロードが盛大に引きつり、外野の女性陣がこらえ切れず吹き出して肩を震わせる中━━


「シルヴィ」


 春の夜風のごとく優しくも凛とした声が、中庭のざわめきを容易く鎮めた。

 学園生多しと言えど、第二王女を呼び捨てにできる存在は一人しかいない━━第一王女サーラベルその人である。

 月の女神のごときと評されるその美貌はしかし、月とは違い陽光のもとでも全く霞むことはなく……それは、サーラベルに続いてやってきた銀髪の青年も同様だった。


「あなたにお客様よ、シルヴィ。最愛の婚約者を迎えに来たんですって」

「まあ、エリック」

「数日ぶりですね、シルヴィ様。お会いしたかった……!」


 数日どころか年単位で恋人に会えなかったような風情で、ツィルト侯爵家嫡男エリックはシルヴァーナの腰に手を回し抱き寄せると、手の甲と手首、そして滑らかな頬と耳元に慣れた様子でキスをする。

 きゃあああ! と、王女たちを除いた周囲の女生徒から黄色い悲鳴が上がり、シルヴァーナは耳まで真っ赤になる。


「え、エリック! もう、人前でこんなこと……!」

「つまり、人前でなければ存分にしていいということですね? では速やかに、二人きりになれる場所に参りましょうか」

「なっ……! お、お姉様、助けてくださいませ! このままだと私、心拍数の上がりすぎで死んでしまいます!」

「エリック、シルヴィが可愛いのは分かるけれどほどほどにしてあげて。それでなくともあなたの容姿は軽く凶器になるのだから」

「容姿についてのお言葉はそのままサーラベル殿下にもお返しいたしますが、ひとまず承知しました」


 よく似た従兄妹同士が微笑み合う中、シルヴァーナは婚約者(エリック)の腕の中でどうにか一息をつく。それでもまだ顔は赤いけれど。


 これからツィルト邸でお茶会があるということで、シルヴァーナとエリックは早々にその場を引き揚げていった。その時にシルヴァーナはさりげなくニノンへ目礼してきたが、やはり顔の赤みは引いておらず、その愛らしさにこっそり和んだニノンであった。

 二人に続こうとしたサーラベルは、ふと足を止めて噴水の傍らに座るシャルティナとその取り巻きを振り向いた。

 にこり、とそれは美しく微笑む第一王女の静かな迫力に、シャルティナを含めた全員が体を強ばらせる。


「フィルクロード・ローデス伯爵子息、アーネスト・グレン子爵子息、それにウォルター・オルセン男爵子息。あなたたちがシャルティナの()()()になってくださったのね」

「は、ははははい! 第一王女殿下におかれましては、どうぞ今後ともお見知り置きを!」


 盛大にどもる元婚約者(フィルクロード)の姿を見て、ニノンの彼への幻滅度合いは地の底を突き抜けるレベルとなった。


(格好悪い)


 婚約破棄の場では痛々しいほど自信満々に「シャルティナ殿下の夫となってやる!」と豪語していたというのに、更に格好悪さを更新することになるとは。

 隅っこを見れば、アーネストやウォルターの婚約者たちも似たような反応を示している。


 一方、彼らのぎこちない様子を正面から見ているサーラベルは、ゆったりと首を傾げてシャルティナにこう忠告した。


「シャルティナ、この際はっきり言っておくけれど。王女たる者、お友達にする相手はしっかり選別しなくては駄目よ。あなたの姉であり未来のツィルト侯爵夫人であるシルヴァーナを、聞こえよがしに貶めようとするような無礼かつ命知らずな輩を近くに置いておくのは、あなた自身の評判も著しく下げてしまうことに繋がるのだから。……ね?」


 表情や声音そのものは穏やかで優しいはずなのに、「ね?」の圧が凄まじい。

 何も返せないシャルティナとその取り巻きたちへ、サーラベルはこう言い残してからどこまでも優雅にその場を去った。


「次期ツィルト侯爵たるエリックが何故、シャルティナを含む皆様に見向きもせず立ち去ったのか、少し考えてみては如何かしら」


 と。


 ━━さぁぁぁぁっ、と。意味を理解したフィルクロードたち取り巻きの顔色が、見事なまでに真っ青になる。


(不味い不味い不味い不味い!)

(ヤバいヤバいヤバいヤバい! 俺たち、ツィルト侯爵家に思いっきり目をつけられた!?)

(どうしよう、ヤバすぎる! うちみたいな弱小男爵家、ツィルト家にかかれば一日でぷちっと潰される!)


 完全な身から出た錆に、溜飲を下げた女生徒たちは、ニノンを含め全員が速やかに下校していき。

 気づけばそこには、彼ら三人とシャルティナの四人がぽつんと取り残されることになったのだった。


 ━━ぎりっ、と。

 天使と称される王女が唇を噛み締めたことに気づく者がいなかったのは、果たして幸か不幸か。




「とは言え、わざわざ時間を割いてまでやらかした男子生徒を追い詰めたりするほど、我が家や兄上は暇じゃないんですよね」

「それはそうでしょうね……」


 後日、改めてツィルト邸に招待されたニノンは、シルヴァーナと一緒のテーブルで紅茶とケーキを食べていた。

 他に同席しているのはツィルト家長男エリックと次男セシリオ。現在二十歳の兄とは四つ離れており、シルヴァーナとニノンの一学年下、シャルティナとは同学年である(セシリオ)はしかし、その第三王女とは取り立てて親しくはしていなかった。曰く、「僕はサーラ姫様の従弟でシルヴィ殿下の未来の義弟ですから。姉お二人とは反りが合わない第三王女殿下にとっては、あえて親しくなりたい存在ではないんでしょうね。こちらも願ったりなのでそのままにしています」と至極あっさり片付けていた。実際、第一王女と第二王女を敬称つきの愛称で呼び、第三王女の呼称は肩書きでしかないあたり、セシリオのスタンスはとても分かりやすい。


「本当にこちらは何もしていないのに、何故かローデス家は息子が一人勘当されて、グレン家とオルセン家はいつの間にか嫡男が交代していましたからね。不思議なものです」

「不思議も何も、()()()何もしていない……と言うか、まともに相手をしないからこそ立て続けの廃嫡になったんでしょうに」


 顔色ひとつ変えず紅茶を飲むエリックに、呆れたシルヴァーナが突っ込みを入れた。

 ニノンも控えめに口を挟む。


「……普通に考えて、各家の当主や次男たちとはしっかり話をなさる侯爵家の後継者が、嫡男とだけはろくに話さず挨拶程度のやりとりしかしない……となれば、そうされるだけの心当たりがある嫡男は廃嫡やすげ替えをされて当然では」

「それは確かに、ニノン様の言うとおりではあるんですけど。兄上の基本姿勢は━━」

「第三王女の薄っぺらい魅力に骨抜きにされるだけならまだしも、調子に乗って後先考えず間抜けな発言を、それもシルヴィ様に関してやらかす連中など、まともに相手するなんてこの上なく馬鹿らしいじゃありませんか。付加価値があればその限りではありませんがね。貴族たるもの、自らの言動にはしっかり責任を持つべきですから」

「ということなので」

「…………」


 強い王女の婚約者はやはり強かった。色んな意味で。

 しかし同じく強い王女であるサーラベルの婚約者が、将来その「薄っぺらい魅力に骨抜きにされる」存在となるのは、この場の誰にも予想できないことだった。

 もっともその頃のニノンは、遠縁のミルドレッド伯爵家を継ぐことになったセシリオの婚約者として、あちこちの顔繋ぎに忙しい日々を送っていたのだけれど。


「あああもう! 第三王女の存在を悪用する連中まで出てきたから、そこはほんの少ーしだけ彼女に同情してたけど、そんな必要なかった! 僕が馬鹿だった!」

「……お疲れ様です、セシリオ様」

「ニノン様もね。……でも少しだけ、甘えさせてもらっていい?」

「はい、喜んで。セシリオ様に甘えていただけると、私も癒されます」


 微笑んで腕を広げるニノンに遠慮なく抱きつき、セシリオは目を閉じて彼女の柔らかさと甘い香りと、そして何より温かな優しさを堪能するのだった。




副題・口は災いのもと、あるいは(未来も含めた)ツィルト家無双。揚げ足取りのシルヴァーナ、正論でねじ伏せるサーラベル、そもそも相手にすらしないエリックと三者三様でお送りしました。セシリオも綺麗な年上婚約者をちゃっかり捕まえた模様。

なおこれだけシルヴァーナに惚れ込んでるエリックを、サーラベル編で落とそうと企んでたシャルティナ……無謀にもほどがある。この時にちゃんと反省して行動控えてれば幸せになれた可能性も……あったかな。どうだろう。


次はセシリオの言っていた「シャルティナの存在が悪用された話」を書く予定です。

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一介の伯爵令嬢にさえ「国王の人そこまで考えてないと思うよ」って思われる国王はやっぱり無能じゃないか! としか…娘可愛さに目がくらんでるとしても、現実に起きる諸問題を過小化して見てるからなぁ。
これを自信満々に寝取ろうとしたとは…ある意味王家の器な図太さ
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