プロローグ
とある王国に、たいそう国王の寵愛を受けた側妃がいました。
彼女は下級貴族の出ながら、美しくも珍しいピンクブロンドが似合う可憐な容姿で、多種多様な美姫が集う後宮においてもひときわ目を引く存在でしたが……やがて、一人の娘━━第三王女を産み落とした直後、難産のために命を落としてしまいます。
自らの生と引き換えに母を亡くした王女を、国王はことのほか可愛がり、その様子は目に入れても痛くないほど。
数いる兄弟姉妹の中でも、父王の寵愛をほぼ独り占めしながら、第三王女はすくすくと成長していきます。
十六歳になり王立学園に入学する頃には、第三王女は母親に生き写しの美貌もあって、老若や貴賤を問わず、数多くの男性を魅了するようになりました。
それは無論、姉姫や高位貴族の令嬢の婚約者も例外ではなく━━
ある日のこと。
第三王女お気に入りの、学園の裏庭にある温室で。
どこまでも儚げな様子でひとり、孤独な時間を過ごす王女の前に、不意に現れた男子生徒━━入学してからずっと、彼女が近しい友人として親しくしていた相手が膝をつき、挨拶と名乗りをするや否や、秘めていた苦しい心を吐露し始めました。
「第三王女殿下……私は貴女を心よりお慕いしております。婚約者のある身でありながら、他の女性に魅入られた不誠実な愚か者に対して、美しくもお優しい純粋な貴女に同じ想いを返していただきたいなどと望むのは、あまりに身のほど知らずというもの……ですがどうか、心の内でただ密かに、貴女を一生想い続けることだけは、どうかお許しくださいますよう━━」
「まあ……」
切々たる訴えに心動かされたか、はたまた彼女も彼と同じ想いを抱いていたのでしょうか。
王女の頬はたちまち美しい薔薇色に染まり━━けれど一方で、夜空に輝く星を思わせる瞳には、どうしようもない憂いの色が蘇ります。
「……私のような、王女とは名ばかりの生まれであるばかりか、お父様よりも年長である遠国の王の、末席の妻として嫁ぐ女には、あまりにも勿体ないお言葉ですわ。私も貴方のお気持ちは生涯忘れず、この胸に刻んでおきますわね……」
じわりとにじむ涙をこぼさぬように耐えながら、それでも王女は目の前に跪く男を、口には出せない切実な想いを訴えるように見つめ続け……やがて、ふと目を逸らし、あふれてしまった涙をぬぐいながらも、ただただ切なげにこうつぶやいてしまうのでした。
「ああ……私も貴方も、ただ愛する御方と側で支え合い、ともに幸せになれる未来があればよろしいのに……」
━━お互いの、意に染まぬ婚約さえなければ━━
そんな、声に出されぬ言葉が男の耳には確かに届き、瞬く間に頭の中を、唯一の選択肢で埋め尽くしていきます。
ややあって、静かに立ち上がる男の目には、危うくも頑なな決意が確かに宿っていました。
━━かくして、今日もまた。
第三王女に魅入られた男が、将来を約束していた女性に対して、高らかに婚約破棄を言い渡すのでした。




