小生意気な合法ロリ先輩を『わからせ』てやる
「ウェーイ唐瀬ぇ! 差し入れ持ってきてやったぞー!」
「ゲッ」
俺が一人暮らししている安アパートに、今日も菅木先輩が合鍵で勝手に入って来た。
「……先輩、いつも言ってるじゃないですか。来る時は事前に連絡くらいくださいよ」
「キャハハ、ごめんごめ~ん。そうだよなぁ、唐瀬も健全な男の子だもんなぁ。自分磨きに勤しんでるところをアタシに目撃されたら、恥ずかしくて泣いちゃうよなぁ」
「またそういうことを……」
先輩が下卑た笑みを浮かべながら、俺の股間を見下ろしてくる。
「先輩も一応は大人の女性なんですから、もっと慎みを持ってくださいよ。まあ、見た目は小学生ですけど」
「ウォイ唐瀬テメェ!? 見た目の話はすんなっていつも言ってんだろうがオラァ! 握り潰すぞ!」
「何をですか」
菅木先輩は大学の一個上の先輩で、21歳のれっきとした大人なのだが、身長140センチほどのロリ体型なので、俺と並んで歩いていたら傍から見たら完全に事案である。
2人で街中を歩いている時も、何度周りから白い目で見られたことか……。
「フン、人がせっかく差し入れ持ってきてやったってのによー」
プニプニの頬をプクーと膨らませながら、先輩が缶ビールが入ったコンビニ袋を差し出す。
「……それはいつもありがとうございます」
コンビニ袋をうやうやしく受け取る。
貧乏学生にとって、タダで飲める酒ほどありがたいものはない。
「キャハハ、わかればいーんだよわかれば。なあなあ、何かツマミ作ってくれよ」
「はいはい」
のっそりと起き上がり冷蔵庫を開けると、豚バラ肉とキムチとモヤシが目に入った。
うん、豚キムチでも作るか。
フライパンをコンロに乗せゴマ油を引き、そこにチューブの生姜を投入。
火をつけたら水洗いしたモヤシを入れ、さっと炒める。
モヤシが少ししんなりしてきたら一口大に切った豚バラ肉を加え、火を通す。
ジュウジュウというモヤシと肉の焼ける音が、食欲をそそる。
「うっはぁ~、メッチャイイ匂いしてきたぁ~。なあなあ唐瀬ぇ、早く早くぅ! アタシもう、待ちきれねーよー!」
「はいはい、もう少しで出来ますから」
俺のすぐ隣に来て、キラキラした目でフライパンの中を覗きながら、先輩は缶ビールの蓋をプシュッと開け、グビリと飲み始めた。
おいおい、もう飲んじゃうのかよ。
まだツマミ出来てないのに。
それにしても、いつもながら小学生にしか見えない先輩が缶ビールを飲んでると、絵面がヤバい……。
おっと、今は料理に集中しなきゃ。
仕上げにキムチを入れ軽く水気が飛ぶまで炒めたら、中華だしと鶏ガラスープの素と醬油で味を整えたら完成だ。
「はいどうぞ先輩」
皿に盛った豚キムチを、狭いテーブルの上に置く。
香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。
「FOOOOO!!!! ドチャクソ美味そおおお!!!! いっただっきまーす!」
先輩は俺の家に置いてある自分用の赤い箸で豚キムチを豪快に摘まむと、あーんと大口を開けてそれを一口で食べた。
「んん~!! モヤシのシャキシャキ感とキムチの絶妙な辛みが、豚肉とベストマッチ! ビールが進むぜえええ!」
「ハハハ」
缶ビールでゴクゴクと喉を鳴らす先輩。
先輩はホント、俺の作ったものを美味しそうに食べてくれるよなぁ。
見てて飽きないぜ。
「ほらほら唐瀬も食ってみろよ!」
「え」
先輩が豚キムチを自分の箸で摘まんで、それを俺の口元に押し付けてきた。
むむ!?
「い、いや、いいですよ。自分の箸で取りますから」
「キャハハ、あれあれ~? ウブな唐瀬くんには刺激が強すぎたかなぁ? ゴメンゴメーン」
「む」
先輩がいつもの小生意気な顔を向けてくる。
……くそぉ。
「そういうことでしたらありがたくいただきます。あーん」
「えっ!?」
俺は恥を忍んで豚キムチをパクリと食べた。
うん、我ながらなかなかに美味い。
「おや? どうしました先輩? 顔が真っ赤ですよ?」
「そ、そそそそそそんなことねーし!! ちょっとビールで酔っただけだしッ!!」
はいはい、そういうことにしておきますよ。
まったく、ウブなのはどっちだよ。
「なあなあ唐瀬ぇ、今日はこれで遊ぼうぜぇ!」
「?」
豚キムチとビールで程よく小腹が膨れたところで、唐突に先輩はバッグの中から一本のゲームソフトを取り出した。
それは『公務員ファイター』という、各種公務員を操作して戦う格闘ゲームだった。
これは……!
「……珍しいですね、先輩が格ゲーをやろうなんて。先輩、アクションゲームは苦手って言ってませんでした?」
「へっへーん! 実は陰でコッソリ練習してたんだよ! 唐瀬をこれでブチのめして、吠え面かかせるためになぁ!」
「……へえ」
ある意味先輩らしいっちゃらしいが。
「俺は正直格ゲーは、あまり好きじゃないんですが」
「あれあれ~? そう言って逃げる気ですかぁ~? キャハハ、アタシに負けるのが怖いんだ唐瀬はッ! まあ気持ちはわかるようんうん! そういうことなら、土下座すれば見逃してやらんこともないよ、キャハハ!」
「……!」
菅木先輩は今日イチのメスガキムーブをかましてきた(厳密にはガキではないが)。
……このぉ。
俺の中で、何かがプチプチと切れかけた。
「……わかりました。やりましょう、公務員ファイター」
「キャハハ、初めからそう言えばいーんだよー。じゃあ先に3勝したほうの勝ちな! 負けたほうは罰ゲームとして、勝ったほうの言うことを何でも聞くんだぞ!」
「ええ、いいですよ」
もう今更後悔しても遅いですからね。
「アタシは消防士を使うぜ!」
「俺は警察官にします」
「キャハハ、あー、唐瀬の罰ゲーム何がいっかなー。女装させて唐瀬の恥ずかしい写真撮りまくるとかもいーなー」
「試合始まりますよ、先輩」
「へいへーい。どうせアタシが勝つんだから、ちょっとくらい目を離してたってへーきだ、よっ!」
「――!」
先輩は開幕早々、大技の『放水』を当ててきた。
なるほど、練習してきたっていうのは嘘じゃなかったらしい。
「キャハハ、まだまだいくぞオラァ!」
その後も先輩は『ロープ結び』からの『人命救助』。
そして必殺技である『バックドラフト』のコンボを淀みなく決め、あっという間に俺の体力はゼロになり負けてしまった。
「キャハハハハハハ!! アタシの勝ちー!! ヘイ、ざぁーこ、ざーこ、ざぁこ、ざーこっ」
「……!」
温厚な和尚さんですら、木魚で頭をカチ割りたくなるレベルの顔で煽る先輩。
……ふぅ。
「まだ勝負はこれからです。次の試合始まりますよ、先輩」
「キャハハ、負け惜しみ乙ー! まっ、どーせ次もアタシが勝つけどねー! ほーらよっと!」
「なっ!?」
今度はいきなり『マッチポンプ』を繰り出してきた。
『マッチポンプ』は当たればデカいが、隙も大きい博打技だ。
それをここで躊躇なく出すとは……!
なかなかの勝負根性じゃないですか。
「オラオラオラオラァ!!」
「……」
そこから流れるようにコンボを決められ、またしても俺は負けてしまったのであった。
「キャハハハハハハッ!!! まったアタシの勝ちー!! マジ唐瀬弱弱じゃん! さっきから逃げてるだけじゃねえか! そういうゲームじゃねえからこれ! ヘイ、ざぁーこ、ざーこ、ざぁこ、ざーこっ、ざっこ、ざぁーこぉぉおお」
「――!!」
孤児院を経営する神父ですら、十字架を土手っ腹にフルスイングしたくなるレベルの顔で煽る先輩。
この瞬間、俺の中で何かが確実にブツリと切れた。
「……わかりました、遊びはここまでです。次からは、本気でいきますね」
「キャハハ、絵に描いたような三下ムーブ! 今なら全裸で土下座すれば、特別に手加減してあげないこともないよー」
「大丈夫です。――先輩こそ、覚悟してくださいね」
「え? ――なっ!?」
3試合目が始まった瞬間、俺は『青切符』で消防士を拘束した。
「うわっ!? うわわわっ!?」
そこから『ニューナンブ』と『ミニスカポリス』のコンボ。
そして必殺技の『ソードオフ・ショットガン』で、ちょうど消防士の体力はゼロになったのであった。
「あ……あ……あ……」
状況が理解できないのか、金魚みたいに口をパクパクさせる先輩。
「大丈夫ですか先輩? 今なら全裸で土下座すれば、特別に手加減しますよ?」
「ウ、ウルセェ! 今のはちょーーっと油断しただけでい! まだ2勝1敗でアタシのが有利なんだってこと忘れんなよオラァ!」
「はいはい」
その強がり、いつまで続きますかね。
「喰らいやがれぇ!」
4試合目の開始早々、先輩はまたしても『マッチポンプ』を繰り出してきた。
やれやれ。
「ほいっと」
「なぁっ!?!?」
俺はそれを『ジーパン』で受け流し、そこからカウンターのコンボでまたしても消防士の体力を一瞬でゼロにしたのである。
おいおい瞬殺だよ(迫真)。
「あ……あばばば……ば……」
今度は例のFXで有り金全部溶かす人の顔になる先輩。
うむ。
「『マッチポンプ』はさっき見ましたからね。同じ手は通用しませんよ」
「な、何で……」
「ん?」
菅木先輩?
「何で唐瀬はそんなに上手いんだ? 格ゲーは好きじゃないって言ってたじゃないか!」
「……好きじゃないですよ。だって俺が強すぎるせいで、誰も俺と戦ってくれないんですもん」
「――!?」
「……俺、高校の頃は格ゲー大好きで、毎日毎日寝る間も惜しんで練習してたんです」
「……」
「そのお陰で仲間内で一番上手くなったんですけど、強くなりすぎたせいで、みんなから『もうお前とはやりたくない』って言われちゃって」
「……唐瀬」
思い出すだけで胸の奥がチクリと痛む、俺の苦い青春だ。
「だから今日、久しぶりに先輩と格ゲーで遊べて、楽しかったです、俺」
「か、唐瀬……!」
ありがとうございます、菅木先輩――。
「ま、それはそれとして、勝負は決めさせてもらいますけどね」
「ハァッ!? お、お前、今のはそんな空気じゃなかっただろうが!?」
何をヌルいこと言ってるんですか。
勝負の世界は弱肉強食ですよ、先輩。
「ほらほら最終試合が始まりましたよ先輩。――これで負けたほうは、勝ったほうの言うことを何でも聞くんでしたよね?」
「ま、待ってくれ……! アタシが悪かった! 謝るから、どうか今回だけは見逃してくれぇッ!」
「絵に描いたような三下ムーブ。でもダメでーす。絶対に許しませーん」
「そんなああああああああ」
さーて、小生意気な合法ロリ先輩を『わからせ』てやりますかね。
「ほいほいほーいっと」
「ぴえええええええええええええ」
俺は一分の隙も与えず、先輩を完膚なきまでに叩きのめしたのであった。
めでたしめでたし。
「う……うぅ……うっ……」
先輩は大きくクリッとした瞳を潤ませて、今にも泣きそうだ。
「さーて、これで勝負は俺の勝ちですね。――先輩には何をしてもらおっかなー」
「ヒイッ!?」
露骨に怯えた表情になる先輩。
俺の中のイケナイ扉が開きそうになるのを、必死に抑える。
「何でも言うことを聞いてくれるんですよ、ね?」
「あ……、あ……、でも……、でも……」
俺は先輩にグイと詰め寄る。
先輩は奥歯をカチカチとかき鳴らしている。
うむ。
「――じゃあ先輩」
「ひぐっ!」
恐怖に耐えきれなくなったのか、先輩は目をつぶってしまった。
「――菅木先輩は、俺のこと男としてどう思ってますか? 正直に答えてください」
「…………は?」
あまりにも予想外の要求だったのか、先輩は目をパチクリさせポカンとした。
「ど、どどどどどどどうってお前!?」
やっと言葉の意味を理解したのか、先輩は途端に耳まで真っ赤になった。
ふふ、先輩は本当におもしれー女だな。
「――俺は好きですよ、先輩のこと」
「んなぁっ!?!?」
更に赤みが増す先輩。
「え? え?? えええ??? すすす、好き!?!? 唐瀬がアタシのことを、好きぃ!?!?」
「やれやれ、もしかして気付いてなかったんですか? 普通男は、好きでもない女の人に合鍵渡したり、料理作ったりしませんよ」
「そ、そういうもんなのか……?」
キョトンとする先輩。
まったく、ウブだな先輩は。
まあ、そういうところも含めて好きなんだけどさ。
「で? 今度は先輩の番ですよ。俺は自分の気持ちを言ったんですから、先輩の気持ちも聞かせてください」
「っ! そ、それは……」
露骨に目を泳がせる先輩。
まあ、今までの諸々の態度で、何となく予想はついてるけどな。
それこそ普通何とも思ってない男の家に、女の人が一人で何度も来ることはないだろう。
「…………じ、自信ない、よ」
「ん?」
が、返答は予想外のものだった。
自信??
「唐瀬の好きとアタシの好きは、きっと同じものじゃない」
「――!」
「唐瀬はカッコイイし料理も上手いし女の子にモテるだろ? でもアタシはこんな体型だから、一度も男から女として見られたことないし……。唐瀬のアタシに対する好きっていう感情は、猫とか犬とかが好きっていうのと同じものなんだよ」
「……先輩」
この期に及んでここまでヘタレるとは。
いつもの強気な態度はどこにいったんだよ。
……いや、むしろこっちの先輩が、本当の先輩なのかもな。
女としての自信のなさを必死に隠すために、あんな態度を取っていたのだろう。
やれやれ、随分と面倒くさい人を好きになっちまったもんだな、俺も。
「……なるほど、じゃあ――」
「え!? 唐瀬???」
――俺は先輩を、その場に押し倒した。
「今からたっぷりと、俺がどれだけ先輩のことが好きか、『わからせ』てやりますよ」
「~~~!?!? ちょ、ちょっとだけ待ってくれ!? まだ心の準備が――んふぅ」
グダグダ言う口を、キスで無理矢理塞いだ。
――このあと滅茶苦茶『わからせ』た。