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9 金




 あれもしかして俺。

 血を、吸われちゃって。


「………えーと。俺は何をされているのでしょうか?」


 ぱさぱさ。

 不自然な瞬きと一緒に長くもない睫毛が立てる音が聞こえる。

 不思議と。

 俺は俺の肩に刀を真っすぐ突き刺している娘さんを虚ろな目で見た。

 いや、え。こんなに深く突き刺さってるってのにどうして俺は立っていられるのでしょうか?

 

「吸血鬼に操られないように処置を施している」

「なるほどー」


 なるほどー。

 特別な処置をしているから痛みと脱力感はあるけど立っていられるのかー。

 もしかして俺がここに来たのも吸血鬼の仕業だったのかー。

 なっとくー。

 やっぱりかぼちゃのどら焼きを食いたかったんだろうなー。

 けどもうないしな。

 よし。


「邪魔だ。親父様の所まで下がっていろ」

「いや。かぼちゃのタルトを持ってくる」

「不要だ。確かに戦闘により消耗しているので栄養を欲してはいるが、洋菓子は食さない」

「いや。おまえにじゃなくて吸血鬼にあげるんだよって何だよ!?」

「敵に活力を与えてどうする莫迦者。そこで寝転んでいろ」


 あ、めっちゃキレてる声が超低い。

 まあそうだよな娘さんの言う通り、吸血鬼を元気づけてどうすんだって話なんだよな。かぼちゃの料理を渡したって素直にじゃあもうかぼちゃの味は吸いませんって円満解決するとは限らないわけだし。


 いつの間にかかぼちゃの蔓で縛られて床に寝転がらされている俺は、今迄どうやって吸血鬼の動きを止めていたのかは不明だが、俺の肩から刀を抜いて戦闘を再開させた娘さんを見て、不気味なくらい立ったまま動かない親父さんを見た。

 もうかぼちゃのどら焼きは食べ終えたようだけど。

 やっぱりかぼちゃのタルトじゃないとだめだったかな。

 けど俺縛られていて動けないから持って来れないし。


 よし。予定通り傍観しよう。

 歌いながら。

 やっぱり、この刀と鎌の音はなー、痛々しいからなー。

 少しでも和らげよう、うん。

 思って、歌い出したら。

 刀と鎌の切り合う音と、俺の歌声とは別の音が聞こえて来た。

 鼻歌、だろうか。

 うわ。

 これならまだ刀と鎌の切り合う音だけの方がいいかもしれない。

 不協和音がおどろおどろしく渦巻いている。

 聞きたくねーでもどうしてか口が止まらねー耳を塞ぎたくても縛られているから手が動かせねー。

 うげー。

 だんだんだんだん力が。

 力が、なくなって、いく、ような。




 ごめんじいちゃん。

 今年のかぼちゃの味は、まずい、かも。




「大丈夫だ。わしが来た」


 空耳だろうか。

 じいちゃんの声が聞こえて、俺の意識は途絶えた。












 


(2022.10.24)



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