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4 緑




「じゃあ、母さんが作ったかぼちゃのタルトならあるけど」


 俺が提案した途端、娘さんは顔を盛大に顰めて、親父さんは揺らぎを止めて直立不動になった。心なしか目も開いたような気がする。ほんのちょっと。


「不要だ。私たち親子は洋菓子を食さないからな」

「へー」


 腕を組んだ娘さんは顔を横に向けて鼻を鳴らしたが、親父さんは肩を盛大に落としているように見えた。

 あれもしかして親父さんは食べたいんじゃないか。

 閃いた俺は娘さんと親父さんを引き離して話を聞こうとしたのだが、それよりも先に娘さんに鋭く、それはもう刃物のような鋭さで睨まれて、咄嗟に首に手を当てた。

 あ。ちゃんとくっついている。

 首の無事を確認した俺は同じように睨み返した。


「なんなんですかね?」

「おまえ。驚きが少なすぎないか?」

「はい?」

「監視カメラの録画に映っていた私たち親子が突然おまえの前に現れたのだ。もっと驚いてもいいだろう。それを何故もう平然としているのだ」

「事なかれ主義だから?あんまり深く考えない性格だから?脳が思考を拒否しているから?まあ、危害が加えられているわけじゃないから逃げる必要も警官を呼ぶ必要もないし、俺んちのかぼちゃを守ってくれてんだろ。なら礼も兼ねて俺もご馳走を捧げようと思ったわけだけど」

「っち。つまらん」

「はいはい。つまらなくてすんませんしたー。で」


 俺は睨みを解いて普通に見たが、娘さんは睨んだままだった。

 まあいいけど。


「で。とは何だ?」

「いや。おまえは洋菓子はだめなんだろ。ってことは、和菓子はいいんだろ。かぼちゃのどら焼きならいいのか?」

「………それしかないのか?」

「そうそう。タルトかどら焼きか」

「………致し方あるまい。では、どら焼きを頂く」

「じゃあ、持ってくるから。そこら辺でくつろいどいて」


 俺は事務所兼じいちゃんの自室でもある部屋から出て、長い廊下を歩き始めた。











(2022.10.10)



 

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