オリジナル:2 転生計画、始動
とてつもなく長いので、これを読めたあなたはすごく偉いです
話を進める前にこの世界について少し説明する…
この世界には"海"がない。"海"という言葉すらない。
この世界の空は常に雲で覆われていて、誰もその雲の先に行ったことも、想像したこともない。
広大な土地の大部分は不毛の大地であり、人間たちにとってその世界は不十分なものだった。人間たちは戦いを繰り返し、繰り返し、それでも減らない人口と発達した科学によって、やがては世界を飲み込む超大戦が起こった。
その中で"レボニア"と呼ばれる国は、比較的肥沃な土地を抑え、近代化を進めたおかげで大戦の中を生き残り、新兵器である人型機動兵器の開発と実戦での活躍を皮切りに勢力を広げた。大戦終結後、レボニアは世界の覇権を握る国家となる。
そして現在―レボニア軍のクジラのような形の空中空母が上空を飛んでいる。雲上まで高く飛ぶ技術は存在しないが、敵の目から隠れるすべとして、全身を高度な光学迷彩で包んでいる。この空中空母は人型機動兵器の輸送を担当しており、機体の収容に主に空間を割いているので、その巨体に反して中身はかなり空いていた。それと光学迷彩のぼやぼやした透明さが相まって、その輸送機は構造的にも外観的にも、巨大な泡のようだ。それから名前はそのまま"鉄の泡"となった。そしてメタル・バブル前方に、飛行している巨大な人影が近づいている。
「ニカイドウ機確認…着艦の支援を開始します。」
メタル・バブルのオペレーターがニカイドウの駆る機体を確認する。メタル・バブルは前方についた巨大なハッチを開け、滑走路を伸ばしニカイドウ機を迎え入れる態勢となった。その姿は羽虫をとらえるため舌を伸ばすカメレオンのようだ。着艦は機械に全自動で任せることもできるが、ミスが死に直結する状況で機械は信じきれないもので、彼女は半分マニュアルで行う。ニカイドウ機は無事に着艦に成功した。
「ニカイドウ機、収容を確認。…作戦終了。これより帰投します。」
ニカイドウのノトリヌスが、ケージに格納される。本来四機まで格納できるこの空間は、初めから空中空母に乗っていた機体が2機、そしてニカイドウの機体。ニカイドウは残り1機収容できたであろう空白を見つめ、それ以上は何も考えず、早々にコックピットから出た。
メタル・バブルは側部スラスターをふかして旋回する。我が国の方向へ体を向け帰投するその巨体の背後には、この世のものとは思えない光景が広がっていた。
天にくぼみのような穴が、凹んだ部分を地上に向けて開いており、その穴から漏れ出た紫の光が黒雲を照らしている。紫の光は心臓の鼓動に近い規則的なリズムで、ストロボのように強く光っている。その穴からは巨大な龍のような怪獣の頭部が首までが表れ、地上を覗いている。穴の奥にあるであろう体がどんな形をしているかわからないが、山を軽く一飲みできそうなその顔の大きさを見て、それの全体はかなりの巨体であろうことは容易に想像できた。その巨体にまとう漆黒の鱗の隙間から、小さくとげのようなものが生えている。このとげが排斥者であり、動けない主の代わりに攻撃、侵略を行っているのだろう。
怪獣がその穴から出てくる前――天に現れたその穴を"空裂隙"と呼称し、ニカイドウら20人からなる研究チームとその護衛部隊は"空裂隙"の調査に赴いた。しかし研究途中で怪獣が現れ、排斥者による襲撃を受けた。有用なデータは得られたものの、排斥者による攻撃で多くの犠牲が引き出され、データを持ち帰り生き残った者はニカイドウ一人となってしまった…
メタル・バブルはそのままレボニアの首都都市上空を飛び、軍事施設"アースダム"に着陸した。アースダムは幅の厚い二等辺三角形が立っているような施設であり、最上階(35階)を総司令部として、それより下の階になるにつれてその階で取り組む課題の重要度が下がっていくヒエラルキー的構造になっている。
ニカイドウたちはメタル・バブルから降りたあとアースダムの34階…「空裂隙及び未確認巨大生物対策部隊本部」に向かった。
ニカイドウが扉を開けたとき、SUM隊員達が彼女のほうを向いた。
「ニカイドウ少佐の帰還を祝します、敬礼!」
本部で隊長を任されたクトウバラが、他の隊員に檄敬礼を促す。ニカイドウも敬礼を返し、そのままSUMの面々を見回す。クトウバラ以外はどれも知らない顔だった。きっと空裂隙の調査で出張していた間に新しく入った新入りなのだろう。
「全員手を下ろせ。…まずはみんな、すまない。」
彼女は帽子を取って頭を下げる。
「想定外の事態があったとはいえ、多くの優秀な隊員を失った。すべて私の…」
「少佐。」
クトウバラが彼女の言葉を遮る。
「ここで謝ってもしょうがないことです。それに、彼らの犠牲が無駄になったわけでもありません。いや、彼らの犠牲を無駄にしないために、早急に問題に取り掛かる必要があります。」
彼は凛として言う。相変わらずしっかりしたやつ、だからここの本部も安心して任せることができたのだと、ニカイドウは思う。
「…うん、すまない、ありがとう。」
ニカイドウは持ってきたデータをもとに、モニターにとある風景を映し出した。
青い空、ぼうぼうと茂る雑草、木造の家。どれもこの世界の住人にとって見覚えのないものである。唯一見慣れたものとして人間がおり、奇妙な赤い服を着た女性の周りに子供たちが集まっている。
隊員たちはその風景を奇妙がって見た。
「青一色の…空?、なんか気持ち悪いな~…」
「この家、木造ですか?偉い人の家かな…」
「なんなんですか?この風景…」
とある隊員からの質問にニカイドウが答える。
「うん、結果から言うと…これは空裂隙の向こう側の世界、"異世界"といえばいいか…」
質問を投げかけた隊員が面を喰らう。
「い、異世界…?ラノベかよ…」
「では、未確認巨大生物もこの異世界から来たと?」
ニカイドウがうなずいて答える。
「そうだろうな。見たところ平和そうな風景ではあるが…」
「ど、どうやって異世界の風景なんか見れるようになったんですか。」
ニカイドウはうなずき、席を立って隊員たちの前方にあるホワイトボードの前に立った。
「空裂隙の構造を解析してそれを応用したのだ。まずは空裂隙の構造を解説せねばならない。簡単に説明するとだ、な…」
そうやって彼女はホワイトボードに数式やら図やらを書き、それについての解説をしていった。隊員たちは突然始まった講義に戸惑い、そして全く理解できなかった。
「…まあ、要するに…空裂隙は空間そのものをプログラム化し、空間の反転、変容を重ねて、異世界と私たちの世界を繋げている、ということだ。理解できたかな?」
「????????????」
「わかってくれたようだ。」
ニカイドウは微笑み、ホワイトボードを裏返してまた数式や図を描きだす。
「それで、どうして私たちが異世界を見ることができたかというと…」
「あ、あの…すいません。」
隊員の一人が手を挙げる。
「その…技術的なことよりも、とりあえず要点を…」
「…つまらん。」
ニカイドウは顔を渋るが、納得してホワイトボードから離れる。
「さっきも言ったように空裂隙は異世界と私たちの世界を繋げる。こいつは厄介なことにこっちからは干渉できず、空裂隙を通してあっちの世界に入ることはおろか、のぞいたりはできない。そもそもあの怪獣が塞いでるわけだしな。」
「え…だったらどうやって…」
「だから空裂隙をシミュレーションで再現したんだ。異世界の連中は空間そのものをコンピューターで操作するように自在に操作できるらしい。空裂隙もその技術を使って作られたようだ。私達はシミュレーターでやつらの技術に倣って空裂隙を作り、そこから覗ける異世界を再現することにも成功した。」
「じゃ、じゃあこれはあくまでシュミレーション上の光景、ということでいいですか…?」
ニカイドウがうなずく。
「そうだ。空や草の色は予測された光の当たり方から推定してつけている。空間に生じるミクロなブレを感知して、リアルタイムであちらの様子を見れる。多少タイムラグはあるだろうが…」
ニカイドウが話している最中に、モニターの映像に変化が生じる。
赤い服の女性が何か唱えた後、彼女の手のひらから炎が現れる。隊員たちが驚いているのも束の間、彼女はまた何かを唱えて、まるで手に乗せた小鳥を自然に帰すようにやさしく手を掲げると、炎はそのままゆっくり空中を飛んで行った。周りの子供たちは飛んで行った炎を目で追って楽しんでいる。
「なんだあ?魔法…?」隊員の一人がつぶやく。隊員たちの困惑をよそに――もっとも、あちらからはこっちの様子は見えないが――彼女は手を動かし、炎はその手の動きに合わせて動いていった。周りの子供たちは無邪気にもその様子を楽しんでいた。
その様子を一通り見た後、ニカイドウは口を開いた。
「今の彼女の…まあ、そのまま"魔法"と呼んでいるが…あっちの世界を観測していると、いたるところで魔法が使われている。ものを燃やしたり、魔法陣を描いてそこからものを引っ張り出したり…これらの原理に一貫性があるかどうかはわからないが、おそらく空裂隙も魔法の類の物だろうな。」
隊員の一人が不安げに質問する。
「魔法って…何かわかってないんですか?」
「原理も何もかも不明だ。あっちの世界に行かない限りは…」
総司令部に行き、任務の報告を終えたニカイドウが休憩スペースに向かうと、そこのベンチにクトウバラが座っていた。
「…おう」
「やはり来ましたか、少佐。」
ニカイドウが自販機でコーヒーを買う。
「ここは人の通りが少ないところだから一人でゆっくりしたいと思っていたんだが…」
「すいません。どうしても、聞きたいことがあって…」
「いや、大丈夫。それにさっきは君のおかげですぐに本題に入られたからね。誰も老いぼれの謝るところなんて見たくなかっただろうに…」
「いや、そんな…」
ニカイドウがクトウバラの隣に座ってコーヒーを飲む。
「あ~…久しぶりだな。基地の苦いコーヒー。」
「なにかお酒を飲んだ方が良いですよ。精神がずいぶんやられてしまっているようだ。」
「やけ酒するほど追い詰めちゃいないよ。私だってこう見えて年の功は積んでいるからな。…とはいえ、さすがに今回は…辛いな。」
クトウバラがうつむいて尋ねる。
「シナノハラ…俺の妹の最期を見ましたか…?」
「……ああ。」
ニカイドウは右手を見つめる。
「この手に空裂隙のデータを守って届けてくれたのは彼女だ。彼女がいなかったらこの作戦は成功しなかった。」
ニカイドウは見つめていた右手を握りしめる。
「いや…彼女だけじゃない。他の奴らも欠かせない奴らだった。ツルミシマ、サルヤナギ、ベニサクラ…そして…サカキバラ。」
「少佐…あなたのせいではありませんよ。」
「わかっているさ…ただ責任は取らねばならない。」
ニカイドウは決心がついたように顔を上げた。
「クトウバラ…私は、異世界に行こうと思う。」
「…少佐?今なんて…」
「空裂隙を作って異世界に飛ぶ。データを元にすれば理論上は作れるはずだ。異世界に飛んで、あの怪獣の真相をつかんでこの問題を解決する。」
「そんなこと…そんなことできるんですか!?」
クトウバラは困惑するが、ニカイドウは冷静に話を続ける。
「あの怪獣には現代兵器がまるで通じない。おそらくバリアーを貼られているんだ。どうなるにしろ、奴らの"魔法"とやらがよくわからん限り、あの怪獣は倒せない。」
「だとしても…少佐が行くべきではありません!異世界なんて何が起こるかわからないし、それにあなたは優秀な科学者だ…替えがきく存在ではないんですよ!」
「だからこそだ!」
ニカイドウはクトウバラに顔を向ける。
「研究チームで生きているのはもはや私だけだ…異世界に行って魔法のことを理解して研究できるのはもう私しかいない!」
「少佐…しかし」
「それにだ」
ニカイドウは微笑む。
「あの研究チームに入って…私なんかすぐ追い越せるくらいの優秀な若者を大勢見てきた。…今いるSUM隊員を私はほとんど知らないが、奴らに近い"眼"をしたやつは何人かいる。だから若い奴らに後を任せても大丈夫だと思うんだ。…少なくとも、お前のようないい"リーダー"がいればな。」
「少佐…わかりました。あなたがそう言うのなら…間違いない。」
――四か月後、アースダム33階会議室
ここにSUM隊員が集められ、ニカイドウによって計画のブリーフィングが行われた。
「まずは私が転移装置『REPRO』を使って異世界――仮称"アナザー"――に向かう。そこで私は魔法や怪獣の情報を集めつつ、アナザーからこちらの世界に干渉する方法も探す。その間SUM隊員たちは技術的に可能な限りのアナザーの観測と、怪獣からの防衛を頼む。」
「アナザーに行くのは少佐一人ですか?」
「そうだ。『REPRO』で転移できるのは一人が限界で使えるのも一回のみだ。うまくいくとも限らないしな。」
「もしアナザーで何か起こったら…」
「そうならないよう祈るのみだが…上との話し合いの結果、10年以内にアナザーからこちらの世界に何かしらの干渉ができなかった場合、私の作戦は失敗となり、別の人が送られるか、別の案が考えられることになる。しかしあまり時間をかけると、怪獣に手間取って弱ったところを他国が侵略に来る可能性がある。そして最もやばいのは…」
ニカイドウはモニターに怪獣の解析データを映す。
「怪獣は穴から徐々に這い出てきている。」
「…!」
「奴の全体像がどんなものか知らんが…おそらく20~30年…或いはもっと早く全身が露わになるかもしれない。もし奴がこの世界を自由に動けるようになったりしたら…」
ニカイドウは基地の崩壊を思い出す。
「世界の終わりだ。」
「…つまり、この作戦がほとんど最初で最後のチャンスってことですか。」
ニカイドウがうなずく。場が沈黙に包まれる。
「まあ、みんなそう神妙な顔をするな。幸いアナザーにも人間がいるようだ。ヘマさえしなければうまく馴染めるさ。技術的な面ではこちらの世界と違うが、すべてまるっきり違うというわけじゃない。」
「そういうわけじゃ…」
「そういうことだ。」
SUM隊員が苦言を言いそうになったのをクトウバラが遮る。
「今のところ案はこれしかない。ならばその限られた状況で最善を尽くすしかない。」
「ですが…いや、そうですね。これしかない以上、やってみるしかないですね。」
場の空気が変わるのを感じ、ニカイドウは自然と口角を上げる。
「諸君、これはもはやレボニアを超えた、世界を懸けた戦いだ。作戦を実行する私が言うのもなんだが…失敗は許されない。」
ニカイドウは今一度、自分の身にかかる重圧を認識し、それに反発するように隊員たちに向けて笑って見せた。
「だが安心しろ…こればかりは、絶対に成功させる。」
「少佐、作戦名はどうするんですか?」
「そうだな…魔法の世界に科学の力で殴り込みに行くわけだから…"叡智の鉄拳"作戦なんてどうだろう?(我ながらイカス、な…)」
「え~そりゃダサ…いや、いいと思います、ね…」
――作戦開始当日
ニカイドウはロボットになっていた。
「よし、この体になって一週間は経つが…段々慣れてきたぞ。」
ニカイドウは機械音をギシギシ鳴らしながら手足を動かす。
「少佐…ほんとに大丈夫ですか?そんな体で…」
隊員たちは彼女の体の変化を一週間前から知っていたが、それでもまだ慣れていない。
人間の肉体では時空転移に耐えられないため、ニカイドウは意識を肉体からロボットに移したのだ。ロケットに手足が生えたような姿をしており、アナザーの人間とのコミュニケーションをとるために、モニターに人間の顔を映し、人間性をアピールしている。その姿はさながらコミカルアニメのキャラクターだ。
「ああ、この体も案外いいぞ。わざわざ飯を食わなくても、日光浴(太陽光発電)していればエネルギーを得られるからな。」
「そういうことじゃなくて…」
「それより、『REPRO』の調整は終わっているのか?」
ニカイドウは奥にある円形の舞台のような形をした『REPRO』に目を向ける。
「万事OKです!『REPRO』に立ってもらえれば、あとはこっちでやっておきます!」
「そうか。じゃあ…」
ニカイドウは特に向き直りもせず、さっさと『REPRO』に乗ろうとする。
「ちょ、ちょっと!早すぎじゃないですか!?せめて別れの言葉くらい…」
「どうせあそこに立った後も起動に時間がかかるだろう。焦る必要はない。」
「焦るっていうか…まだ心の準備っていうものが…」
「そうですよ少佐!私達に何か言わせてくださいよ!」
ある女隊員が涙ぐみながら言う。
ニカイドウが空裂隙から帰ってきたときはほとんどのSUM隊員たちと面識がなかったが、計画が始まるまでの数週間の間で親密になり、ニカイドウと隊員たちは名残惜しさを感じていた。
「しかし…これから行くというのに、名残惜しさを感じてもよくない。悪いが…すぐ行かねば。」
「少佐」
クトウバラが隊員たちを抑えてニカイドウの前に出る。
「クトウバラ…」
「健闘を祈ります。」
クトウバラはそれだけ言って敬礼した。
周りの隊員はそこで気づいた。クトウバラはSUM隊員の中で唯一、ニカイドウともともと関係があった人なのだ。彼にとってニカイドウと別れるということは、ほかの隊員たちが感じるものとはわけが違う。彼こそもっとニカイドウに話したいことがあるはずなのだ。
彼の思いをくみ取り、ほかの隊員たちも黙って敬礼する。
ニカイドウは彼らを見て、まだ少しぎこちない手で敬礼をした。
「ありがとう…行ってくる!」
「転送開始まで…10…9…」
ニカイドウの周囲をプラズマが覆い始める。
「…6…5…4…」
隊員たちは緊張の面持ちで様子を見ている。それはニカイドウも同じで、手をぐっと握りしめている。もし彼女の体が機械でできていなければ手汗がにじんでいることだろう。
だが同時に高揚もしていた。青い空、生い茂る植物、そして魔法…シミュレーションで見たその景色が本当かどうか確かめられると思うと、ワクワクが抑えられなかった。
「…2…1…0」
とうとうニカイドウを覆うプラズマは彼女の姿をすべて隠し、その輝きを増していった。
その数秒後、プラズマは徐々に勢いをなくし、消えたころにはニカイドウの姿はどこにもいなくなっていた。
すべてが正常に行われ、転移は成功した…しかし、誰もその確認はできない。計画の一歩を踏み出せたのかどうか誰にも――ニカイドウ以外――わからないという事実によって、その場にいた者たちは素直に喜べなかった。
ニカイドウの生存を信じること…それが計画の大前提であり、大きな難関である。
クトウバラはかかってきた電話に応答し、その後、その場にいる者たちに伝えた。
「ニカイドウ少佐は今をもって二階級特進…大佐になったそうだ。次会うときは間違えないようにしろよ。」
ニカイドウは転移の途中、自転車に乗って風を切るように、光を引き裂いて進むのを感じた。しかし彼女の周りにある光は彼女を引きずり込む手のようで、意識を持っていかれそうな強いGを感じた。もし意識をこのまま手放せば、意識はたちまち光の中ではじけ飛ぶだろう。
彼女が何時間にも感じた数分、もしくは数秒のあと、彼女の体は突然大きな空間に放り出された。
青い空…生い茂る植物…シミュレーションで彼女が見たその風景がそこには広がっていた。"アナザー"への転移が成功したのである。
しかし、彼女がその風景を見ることはできなかった。彼女の意識は"アナザー"に突入した時に機械の体と離れてしまった。
彼女の意識は空っぽになった機械人形とともに未開の地へと落ちていった…
つづく