オリジナル:1 敗走
"自爆"を知らせる警報が、黙示録の終末に鳴るラッパの如く、無人の基地内に響き渡る。
その中で若者に未来を託された老人が二人、人型ロボット"ノトリヌス"に乗って基地のカタパルト射出の準備をしていた。射出を支援するオペレーターはいない。お互いに仕方なく自分で調整をしている。
「あーあ…高齢者ってのは支えてくれる若者がおらんと大変だって痛感するよ。独身でいるべきじゃなかったなあ、子供が欲しい…」
すぐ右隣のノトリヌスに搭乗しているサカキバラが、無線で語りかける。
「…冗談を言える余裕があるのがうらやましいよ。」
私は愚痴るように返事をする。この状況下で冗談を言う彼を本来私は叱るべきだろうが、それができるほど、自分の心に余裕がなかった。
「…しっかりしてくれよ、ニカイドウ。"リーダー"の肩書が泣くぜ。」
私の返事から何か感じ取ったのか、彼から心配の声が返ってくる。
リーダー…リーダーか…みんな、そういって私を慕ってくれた。みんな、私よりずっと年若く、かわいくて、有望な奴らだった。彼らを犠牲にして、私が生き残って…それで本当に良かったのだろうか?
カタパルトのハッチが開く。
頭の中で乱れる思いから逃れようとするように、私は手元の機械的な作業に没頭し、カタパルト射出に向けた最終調整を完了した。
「よし…最終調整が終わった。先に出…」
直後、巨大な振動と、何かが強引に突き破ってきたかのような轟音、こすれる金属音が起こる。
急いでセンサーを確認すると、後方になにか反応があった。今私が乗っているロボットと大差ない大きさの"それ"は、黒く有機的な姿で、ドリルのような形状をしている。おそらくそのドリルのような形でここまで掘り進んできたのだろう。
"排斥者"と呼ばれるそいつは、勢いよく天井から突き出てから余韻に浸るようにその勢いをなくした後、ドリルの姿から糸をほどくように変形し、人型の姿へと変化していく。その姿はまるで神話に出てくる悪魔だ。
すぐに発進しようと思ったが、その前に排斥者に私の機体の肩を掴まれてしまった。これでは正常に離陸することができない。
「しまった…!」
排斥者はつかんだ腕とは逆の腕をドリル状の形に変えた。今にもその腕が私の機体を突き刺そうとする瞬間、サカキバラの駆る機体が排斥者を押しのける。
「今だ!行け、早く!」
拘束は解かれ、再び素早く離陸体制に入る。重力からの解放を待ちわびるように、バーニアがうなりを上げる。
「すまん!」
正面からのGを受け抜き、私の機体はようやく飛ぶことに成功した。しかしサカキバラの機体はいまだ排斥者と取っ組み合っている。
「サカキバラ!!お前も!!」
「気にするな!」
サカキバラは何とか排斥者を引きはがし、同じように離陸の体制をとる。
彼の機体の頭上でさらなる轟音が鳴る。新たな二体の排斥者が襲来した。
「…ッ……!」
その光景を見るなり私は急ブレーキして、サカキバラのいる場所に向かおうとした。彼のもとに向かってもきっとどうにもできなかっただろうが、向かわずにはいられなかった。
だが、彼は私の行動を意に介さず――いや、むしろ私の行動を見たからだろう――サカキバラは離陸するのを諦めて、コックピットからの遠隔操作でカタパルトのハッチを閉じた。
「お前…!」
「…じゃあな」
ハッチは完全に閉じきり、その数秒後、基地の自爆が始まった。
すべてを包み込む炎と爆音は、サカキバラや排斥者、すべてを平等に飲み込んだ。
私の機体は燃え盛る基地を前に、ただ茫然と空中を漂っていた…