書籍予約開始記念SS ~二人掛けのソファー~
本日書影公開となりました!
活動報告にある表紙のイラストの二人をイメージしたお話です。
本編開始から1ヶ月頃が経った時期のお話となります!
食堂での昼食を終え、公爵様と共に自室へ戻ると、部屋の中には見慣れないソファが一つ置かれていた。
高級感を感じられる質感、上品で美しいデザインに模られた横長のソファを前にして、
「まあ……」
と、思わず感嘆の声が漏れた。
そんな私を見て、隣にいる公爵様がクスッと笑うと、囁くように告げた。
「マリエーヌ。君の部屋のソファを新調したんだ。二人掛け用が欲しいと思って依頼していた物が今日、完成したからな」
「そうだったのですね……とても素敵なソファです。公爵様。いつもありがとうございます」
そう感謝を告げると、公爵様はひときわ嬉しそうに微笑んだ。
今までは一人掛けのソファがここに置かれていたけれど、もっとシンプルなデザインだった。
それがこんなにも立派なソファが一つ置かれただけで、見違えるほどお部屋が華やかになるなんて……。
よく見ればソファーの前に置かれているローテーブルも新しくなっている。
――ガラス張りのテーブルなんて初めて見たわ……とても綺麗ね……。
私が目の前の光景に目を輝かせていると、公爵様がいそいそと声をかけてきた。
「マリエーヌ。さっそく二人で座ってみよう」
「あ……はい!」
公爵様に手を引かれ、ソファーの前まで来ると、公爵様はソファーの真ん中にストンと腰掛けた。
――……あれ……? 端には寄ってくださらないのかしら…?
二人掛け用のソファだから、真ん中に座られてしまうのは……正直、あまり親切とは言えない。
いつも私を気遣ってくださる公爵様なのに、この行動にはさすがに違和感を覚える。
けれど、公爵様がそこから動いてくれる様子はなく、
「さあ、マリエーヌ。君も座るんだ」
あげくには優しい微笑みを浮かべて急かされてしまった。
戸惑いながらも、なんとか座れそうではあるので、端のスペースに腰掛けようとしたその時――。
「マリエーヌ。こっちだ」
「え――?」
突然、私の左手を公爵様が握ると、そのまま体を引き寄せられた。
その勢いでバランスを崩しそうになった時、背後から抱き抱えられ、フワッと体が宙に浮いた。
次の瞬間――すとん……と、私のお尻が着地したのは公爵様の膝の上だった。
「…………!?」
――え……!? どうして公爵様のお膝の上に座っているの!?
もしかして二人掛けのソファってこんな使い方をするの……?
……って、それはさすがに違う気がするわ……!
混乱する私の耳元で、公爵様が囁く。
「マリエーヌ。新しいソファの座り心地はどうだろうか?」
そう問われて、必死に返答を考えるけれど、そもそもこれでは……。
「公爵様。それではソファの座り心地は分からないと思うのですが」
返答に困る私に助け舟を出すように、傍に控えていたリディアが呆れ顔で口を挟んだ。
「ああ、言い方を間違えたな。マリエーヌ、僕の座り心地はどうだろうか?」
――公爵様。それも……訊くのですか……?
「え……ええっと……良いと思います……」
それが今の私の精一杯の返答で……恥ずかしさに耐えかねて、縮こまるように俯いた。
すると、
「マリエーヌ」
再び耳元で名前を囁かれ、公爵様の手が私のあごに添えられると、そのまま顔を持ち上げられた。
その視界の片隅に、うっとりとした眼差しをこちらに向ける公爵様が映し出され、咄嗟に視線を逸らした。
それでも、溢れんばかりの熱烈な視線が送られているのはひしひしと伝わってくる。
「ああ……この角度から見る君もなんて美しいのだろう……。君の美貌に死角など存在しないな」
公爵様が囁くたび、耳にかかる吐息が体全体をも刺激し熱くさせる。
「こうしていると君の香りと温もりを直に感じられる……やはりソファを新調して良かった」
満足気な様子の公爵様は、更に私に身を寄せる。
――公爵様。二人掛け用のソファの使い方、絶対に間違えていると思います……!
気付けば公爵様に後ろから抱きしめられているような状態で……公爵様の吐息も、体も……全てが熱くて何も考えられず……。
それからしばらくの間、私は公爵様のお膝の上で惜しみなく愛を囁かれ――熱に浮かされ、いよいよ目を回しそうになったところで、血眼になったジェイクさんが公爵様を呼びに来てくださったので、なかば押し付ける形にして公爵様には退室していただいた。
――公爵様。出来れば……次は並んでソファに座りましょう。
座り心地は良くても、リディアの居心地は良くなさそうですので……。
私たちが座っていたソファからかなり離れた位置で、存在感が消えかけているリディアの姿を見て、心の中で密かに囁いた。
10月20日にTOブックス様より書籍発売予定です!
活動報告に詳細を載せておりますので、興味のある方はぜひ覗いてみてください!
とっっっても美麗な表紙イラストだけでも…ぜひ!




