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05.毎日愛を囁かれています

「マリエーヌ、今日も一緒に朝食を食べよう。食堂の方で待っているから、焦らずゆっくり支度をするといい」

「はい。分かりました」


 公爵様はいつもそう言うのだけど、食堂で待っていた事なんて一度もない。

 必ず私が食堂へ向かうタイミングで公爵様が部屋を訪ねてくるのだ。


 まるで一時も私と離れたくないかの様な公爵様の姿にはまだ戸惑ってしまう。


 ……あれ? そういえば今日、公爵様は隣町への視察に行く予定になっていたはず。

 朝早くに出発しないと間に合わないんじゃなかったかしら。

 

「あの、公爵様。今日は外出の予定ではありませんでしたか?」

「ああ、心配しなくても大丈夫だ。その予定は無くなった」

「え……?」

「一週間もマリエーヌの傍を離れるなんてとても耐えられないからな。それよりも今日は天気が良いから昼食は中庭で一緒に食べよう」


 そんな理由で……?


 仕事人間の公爵様が、私と離れるのが嫌という理由だけで仕事の予定を変更したの……?


 それに朝食もまだなのに昼食の話まで始めてしまった。


 私が不思議そうな顔をしていると、公爵様はフッと目を細めて笑った。


「僕にとって一番大事なのは、マリエーヌ……君と一緒に過ごす時間だよ」


 公爵様の曇りのない真っ赤な瞳が私を真っすぐ見つめている。


 前までは燃える様に赤い瞳をしているのに、なんて冷たい瞳なのだろうと不思議に思っていた。


 けれど、今の公爵様の瞳は熱を帯びた様に温かくて、見つめられると体が熱くなってくるみたい。


「マリエーヌ」


 唐突に愛おしそうな声で私の名前を呼ばれて、次に何を言われるのかが分かってドキリと胸が高鳴った。


「愛してるよ」


 大事そうにその言葉を紡いだ公爵様は、私の左手を優しく持ち上げてその甲にキスをした。

 私の手から唇をゆっくりと離した公爵様の頬は赤く染まり、私に向き直ると嬉しそうに微笑んだ。


 その一連の流れの動作を私はドキドキとうるさく響く自分の心音を聞きながら見つめていた。


『愛してる』


 その言葉を、あの日から何度聞いただろうか。


 公爵様はあれから毎日、私の名前を呼んで愛を囁いてくれる。


 もちろん、夫からそんな風に愛を伝えられて嬉しくないはずが無い。

 だけどその言葉を囁く時の公爵様は、何故か私よりも嬉しそうに笑っている。


 私は公爵様の愛の言葉にどう返せば良いのか分からず、ぐっと口を噤んだまま恥ずかしくて目を逸らしてしまう。


 こういう時、私も妻として『愛してる』と返すべきなのだろうか?


 だけど……私は公爵様の事を愛してるのかしら?

 それも分からないまま、こんなに真っすぐ愛を伝えてくれてる人に曖昧な言葉を返しても良いのだろうか?


 私がそんな葛藤を胸に秘めているうちに、公爵様は満足した様子で私の手を丁寧に戻した。


「じゃあマリエーヌ。また後で」


 そう言い残して踵を返し、公爵様は機嫌良さそうに廊下を歩いて去って行った。


 私が公爵様の後ろ姿を見送っていると、


「マリエーヌ様」


 と、背後から突然声が聞こえて、振り返るとリディアが薔薇を生けた花瓶を持って戻ってきていた。

 

 若干気まずそうにしているのは、きっと出てくるタイミングを見計らっていたのだと思う。

 

 いつからいたのかしら……。

 多分……今の見てたわよね……。


「こちらの花瓶は窓辺の所に置いておきますね」


 何事も無かったかの様にニッコリ笑ってそう告げると、リディアは窓辺に並べられている花瓶を詰めて新しい花瓶を置いた。


「あと、この宝石なのですが……どういたしましょうか?」


 リディアは手にしていた布の包みをそっと広げて、花束に散りばめられていたと思われる宝石を見せてくれた。


 そういえばそんな物もあったわね……。


 私はフラワーアレンジメントとして使われていた光り輝く宝石達をジッと見つめた。


 宝石はそれほど詳しくないので、その種類まではよく分からないのだけど、小ぶりの物から大きい物まで真っ赤な宝石が沢山。


 これは……一体どうすれば良いのかしら?

 アクセサリーとかなら身に着ける事も出来るのだけど……。

 でもせっかく頂いた物なのだから、飾るのが正解なのかしら?

 

「凄い量ですね。一体これだけでおいくらするのか……ていうかこれ絶対、公爵様の瞳の色を意識してますよね。確かに、恋人に自分の瞳の色の宝石をプレゼントする男性はいると聞きますが、こんなに多いとちょっと怖いですよね。……なんだかこれ、だんだん公爵様の目に見えてきました……うわっ……怖! いつでも君を見つめているよっていう意味でしょうか!? 怖っ……! どうしましょうマリエーヌ様! これ見える所に飾るのはちょっと怖いですよ!?」

「落ち着いてリディア。あなたの発想が一番怖いわ。でもそうね、それは宝石箱の中に納めておいてくれるかしら」

「分かりました! 勝手に箱から出てこない様に鍵もしっかり閉めておきますね!」

「ええ、お願いね」


 あれ?


 宝石箱の鍵ってそういう役目でするものだったかしら……?

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― 新着の感想 ―
勝手に箱から出てこない様に鍵もしっかり閉めておきますね! 滅茶苦茶好きかも、この子
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