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04.毎朝花束を贈られています

「おはよう、マリエーヌ。薔薇の花が綺麗に咲いていたから摘んで来たんだが……やはり君の美しさには見劣りしてしまうな」


 両手で抱くようにして、真っ赤に染まった花束を持った公爵様は、薔薇にも負けない程の美しい笑顔を私に向けている。

 一瞬、公爵様の背後にもお花が咲いた様にも見えて、思わず目を拭ってしまった。


 公爵様の態度が変貌してから一週間が経った。


 公爵様は一日も欠かす事無く、毎朝中庭で摘んで来たお花の束を綺麗に包んで私の部屋に持ってくる。

 飾り気のなかった私のお部屋は、今は公爵様が持ってきたお花で華やかになった。


「いつもありがとうございます。公爵様」


 私が花束を受け取ると、公爵様は一層嬉しそうに微笑んだ。


 とても素敵な花束なのだけど、思った以上に重たくて、ズッシリと私の腕にのしかかった。

 何か違和感を感じて、花束を覗き込んでみると、薔薇の花束に交じってキラキラと輝きを放つ存在に気付いた。


 薔薇にも負けない程、深くて赤い輝きを放って……え?

 もしかしてこれ、宝石……?

 なんで宝石が花束の中に散りばめられているの……?

 

「えっと……公爵様。この花束の中に宝石が交じっている様なのですが、何かの間違いでは……?」

「ああ、いつも摘んだ花を束ねているだけの質素な物だったからな。もう少し工夫ができないかと思って使用人に聞いてみたんだが、世間では花束に色々な装飾を施す『フラワーアレンジメント』という物が流行っているらしいではないか。僕も流行に沿ってフラワーアレンジメントとやらに挑戦してみたんだが……どうだろう。気に入ってくれたか?」


 公爵様は少し照れながらも、得意げに話をしてくれているけれど、これは多分、一般的に言うフラワーアレンジメントとは少し違うと思うの。


 こんな物が流行っていたら、世界中の宝石が一気に枯渇してしまうだろうし、普通の貴族なら簡単に破産してしまうわ。


 それにしてもこの花束……一体いくらの費用がかかったのかしら……いや、気にしないでおこう。


 公爵様は期待の眼差しでこちらを見つめてきている。恐らく、私が喜んでくれると思ってこれを用意したのだろう。


 だけど……ここで喜んでしまったら、きっと明日は更に凄い花束を持って来そうな気がする。

 さすがにこのレベルの花束を毎朝持って来られるのはとてもよろしくない。

 ここはハッキリと言っておかないと……もの凄く言い辛いけど……。


 期待の眼差しがとても眩しいのだけども……!


「ありがとうございます。でもどちらかというと、私はいつもの花束の方が好きです。あまり派手なのはちょっと苦手ですので……」


 遠慮がちに私が伝えると、公爵様はしゅん……と落ち込む様に項垂れた。

 その姿がなんだか耳が垂れ下がった子犬の様にも見えて、ちょっと撫でたくなった。


「そうか……。マリエーヌがそう言うのならば、明日からはいつも通りの花束に戻そう」

「まあ! 素敵な薔薇ですね!」


 落ち込む公爵様の背後から現れたのは、私の新しい専属侍女となったリディア。夕日色のクセのある髪を後ろで束ねた、元気で可愛らしい彼女は今年十八歳になったらしい。

 

「マリエーヌ様、さっそくお部屋に飾る準備を致しますね!」


 リディアは弾ける様な笑顔で私の手から薔薇の花束を持ち上げた。


「わぁ、本当に素敵な薔薇! それにキラキラと輝いて見えるのは何で……え?」 


 どうやら彼女も宝石の存在に気付いたらしくさっきまでの明るい表情が一転して無になった。


「……本当に綺麗ですね。公爵様の愛が重い……じゃなくて、マリエーヌ様への想いの大きさが、この薔薇の重みとなって現れているのですね!  ああ重い! 重たいわ!」


 そう言うと、薔薇の花束を持って駆け足気味に部屋から飛び出していった。


 リディアは建前を言う事が苦手らしく、つい本音が漏れてしまうらしい。


 それを本人は気にしているみたいだけど、私はリディアが嘘を吐けない所も素直で可愛いと思って気に入っている。

 だけどいつか公爵様の機嫌を損ねて解雇されてしまうのではと、少し不安でもある。


 リディアの言葉が聞こえていたのかどうかは分からないけれど、公爵様は未だに少し落ち込んだ様子で表情に影を落としている。


 フラワーアレンジメントを断られたのがそんなにショックだったのかしら?


 しばらく俯いたままだった公爵様は、意を決した様に顔を上げた。


「マリエーヌ。僕はいつも自分勝手に君に花束を贈っていたが、もしかして君を困らせていただろうか? もし気に入らない事があれば正直に教えてほしい」

「いえ、お花は好きです。公爵様のおかげでお部屋の中が色んなお花の香りに包まれていてとても嬉しいです」


 それは建前でもない私の本音。

 だって公爵様があの日、花束をくださるまでは、このお部屋に飾りなんて一つも無かったのだから。


 私の言葉を聞いた瞬間、公爵様の表情がパアアアァッと輝きを放つ笑顔に変わった。


 ああ……眩しい……。


「そうか! それなら良かった! 僕もマリエーヌの様な可憐な花で部屋を埋め尽くしたい。僕の部屋が君の香りで包まれたらどんなに幸せな事だろうか」

「……」

 

 公爵様。

 それは公爵様のお部屋に私を沢山飾りたいという事なのでしょうか?

 それとも、私の様なお花(?)をお部屋に沢山飾りたいという事なのでしょうか?


 それはともかく、私の香りって一体何なのでしょう……?

リディアの年齢を22歳→18歳に変更しております(2024/9/28)

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