23.私が一体何をしたの? ※スザンナ視点
一体あれは何だったのよ!?
帰りの馬車に揺られて家の近くまで来た所で、ようやく自分を取り戻した私は公爵邸で起きた一連の出来事が納得出来ずにいた。
あの人が何であんなにお姉様の事を好きなのか分からない。
でもそれ以上に、あの人が言った言葉が頭から離れなかった。
私が貪欲ですって?
それを見たですって?
何処で!? そんなの有り得ないわ!
確かに、家の中では自由奔放にしていた部分はあったけど、外では隠し通していた筈。
だとしたらやっぱりお姉様が言ったに違いないわ!
そして公爵様はお姉様を庇ってあんな事を言っていたんだわ!
ああ……でも……もうそんな事どうでもいいわ。
あんな人と関わるなんてもう嫌。
あの地獄の様な場所からせっかく生きて帰れたんだもの。
あとは勝手に二人でよろしくやっていればいいわ。
お姉様の事は気に食わないけど、私だって公爵様に負けないくらいお金持ちで素敵な男性を捕まえてお姉様以上に幸せになってやるわよ!
馬車が止まり、ドアが開くとすぐにお父様が出迎えた。
わざわざ出迎えるなんて珍しいと思ったけれど、なんだか凄く慌てている様子。
何かあったのかしら?
「おい! お前……公爵邸で一体何をやらかしたんだ!?」
「は……?」
ただでさえ苛ついているというのに、お父様が怒りに顔を歪めて急に私を責め立ててくるものだから、一気に頭に血が上った。
「何をって……こっちは言いたくもないお姉様の褒め言葉を散々言わされただけだわ! 最初から最後まで公爵様の御機嫌を取り続けていたわよ!」
周りに人がいるのにも関わらず、私は演技も忘れてお父様へ向けて声を張り上げた。
「じゃあなんで急に公爵家からの補助金が打ち切られるなんて話になるんだ!?」
は……?
何ですって……?
あんなにニコニコと楽しそうに私の話を聞いていたじゃない。
それなのに何でそんな事になるのよ!?
お父様は今も鼻息を荒くして血管が切れそうな程真っ赤な顔で私を睨みつけている。
今までそんな表情を私に向けた事なんて一度も無かったのに。
「どうせお前が公爵様の機嫌を損ねる様な事を言ったんだろ!? 今のタイミングで公爵家からの支援が無くなったら私のレストランの経営が成り立たなくなってしまうぞ! どう責任取るつもりだ!?」
私に対してあんなに優しかったお父様から一気に捲し立てられて、私は裏切られた様な悲しみと怒りで涙が滲んできた。
「そんな事知らないわよ! お父様が経営主としての才能が無いだけでしょ!? それに公爵家に行けと言ったのはお父様の方じゃない! 私のせいにしないでちょうだい!」
「何だと!?」
どうせお父様のレストランが潰れるのは時間の問題だったわ。
あんな外装ばかり派手にしてお金をかけた挙句にお父様の味音痴に合わせた料理を作らせて、客なんて来る筈がないんだから!
こんな能無しのお父様の元になんかもう少しも居たくないわ!
「そうよ! そんな事よりもお父様。早く私の婚約相手を探してちょうだい? また結納金を沢山頂ける所にすればいいわ! でも相手は若くて美しい優しい男性でお願いね?」
公爵様ほど美しい人を探すのは難しいかもしれないけど、やっぱり容姿は大事だわ。
「お前……何を言っているんだ?」
お父様の表情から怒りは消え、今度は絶望感漂う表情へと変化した。
「そんな相手がいるとでも思ってるのか……? お前は公爵様を敵に回したんだぞ? そんなお前を嫁にしてくれる若い貴族がいると思うのか!?」
「え……?」
な……んですって……? そんな事って……。
「そんな……じゃあ……私はどうなるの……?」
「せいぜい遺産を抱えた独り身の男の元へ嫁ぐしかないだろう……。少し歳は離れてしまうが当てが無い訳じゃない。幸いにもお前は顔がいいから、選り好みしなければ誰かしら拾ってくれるはずだ」
「そんな……そんなの嫌よ! なんで私がそんな年寄りと結婚しないといけないのよ!?」
「お前のその自分勝手な行いが招いた事だ! 自業自得だろう!」
「何よそれ! だとしたら私はお父様に似たのね! 本当にお父様は自分勝手なんだから!」
「何だと!? それが育ててやった親へ返す言葉か!? どれほど俺がお前に――」
私達の言い争う声を聞きつけて、ワラワラと周囲に野次馬達が集まりに来ていた。
「ねえ……あれもしかしてスザンナ……? いつもと様子が違うんだけど……」
「嘘だろ……? 俺、昔からファンだったのにな……」
私が長い時間かけて築き上げ守ってきた清純な淑女のイメージが、ガラガラと崩壊していく音が聞こえてくる。
何で……?
何でこんな事になってるの……?
私が今日、公爵家に行かなければこんな事にはならなかったの?
でも今日、私は何かあの人に悪い事をしたの?
あんなに公爵様の御機嫌取りをしていたじゃない!
じゃあこの仕打ちは何なの!?
私が一体、あの人に何をしたというのよ!?
ようやく義妹が帰ってくれました……。
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