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13.公爵様が救われた? ※リディア視点

 確かに、マリエーヌ様はとても優しくて素敵なお方。


 同じ年代の令嬢にあまり良いイメージを持つ事が無い私がそう思うのだから、間違いない。


 私もマリエーヌ様に仕えてまだ二ヶ月程度しか経っていないけど、その懐の深さにはいつも救われている。


 昔から嘘をつくのが苦手な私は、たとえそれが建前だとしても、嘘をつこうとすると蕁麻疹が出て体調が悪くなる。

 そんな私が田舎村から飛び出して、憧れだけで侍女になる道を選んだのは完全に間違いだったと思う。


 初めて配属された先では、ペタペタに厚化粧していた令嬢に「どうかしら?」と問われて、「油絵の様な厚塗りで芸術的です」と返したら即解雇されてしまった。


 次に配属された先は、気に入らない事があれば侍女に当たり散らし、婚約者の前では見事なまでに猫かぶる様な令嬢の元だった。

 その令嬢の仮の姿を褒め称えるキザな婚約者に「君もそう思うだろ?」と聞かれて、「いえ。私から見たお嬢様は態度も性格も最悪ですね。あと男の趣味も最悪です」と言ってしまい、婚約者に不快な思いをさせてしまった。

 だが婚約者以上に怒り狂った令嬢から私は追いかけ回され、それを見た婚約者は卒倒したとか。

 ちなみにその後、二人は婚約破棄したらしい。


 とにかくどこへ行っても同じ様な事を繰り返し、職場を転々としているうちに私を雇ってくれる所は無くなった。


 問題児扱いされてる私を、公爵様が雇いたいと言ってきたものだから、「一体なんで?」と思っていたのだけど、どうやら理由はこれらしい。

 マリエーヌ様に関して、嘘偽りなく意見を述べてくれる相手が欲しかったみたいだ。

 

 マリエーヌ様と初めて対面した時、公爵夫人という肩書きに驕る事なく、侍女の私に優しく微笑んで丁寧にお辞儀をしてくれた。

 その姿に感動した私は、この人の元から離れたくなくて、今度こそ失礼になる本音を口にしない事を決意した。

 だけどその決意は早々に打ち砕かれる事になった。


 公爵様から頂いた、装飾品がやたらと付いていたドレスを試着したマリエーヌ様に「どう思う?」と聞かれて、「そのドレスは派手すぎてマリエーヌ様にはとても似合いません。センスを疑うレベルです」と返してしまい、すぐに「しまった……」と青ざめた。

 

 だけどマリエーヌ様は「やっぱりそう思うわよね! 正直に言ってくれてありがとう」と嬉しそうな笑顔で応えてくれた。


 その後も度々(たびたび)、口をついて出る私の本音をマリエーヌ様はむしろ楽しそうに聞いてくれていた。


 全てを包み込んでくれる包容力と優しさに、私の荒んだ心も癒されていった。

 

 公爵様が何故こんなに惚れるのか分かる気がする。

 私も男として生まれていたら、間違いなくマリエーヌ様の事を好きになっていたと思う。

 

 そして公爵様にきっと亡き者にされていたわ。

 良かった。女で。


 でもだからこそ、マリエーヌ様には本気で幸せになってほしい。

 そのためにも、ここで公爵様に適切なアドバイスをして、二人の距離を縮めてあげたいのだけど、残念ながら私は男性に口説かれた事が無い……!


 というか、目の前でこんなに女性に猛アタックする男性の姿を見せつけられたら、私もいざ口説かれた時に、ちょっとやそこらの口説き文句じゃ物足りなくなっていそうなんだけど……え、やだなそれ。


 とりあえず、私の事は頭の片隅に置いておくとして、公爵様に何か言わないと、この人本気で逆立ちし始めてしまうわ。


「公爵様。やはりここは、恋愛指南書(れんあいしなんしょ)を読むべきだと思います」

「恋愛指南書だと? そんなものとっくに読んでいる」

「でしょうね。多分それ、古いんですよ。色々と。女性が憧れるシチュエーション……口説き文句……テクニック……それらが全て詰まっている指南書と言えばやはり……恋愛小説ですよ!」

「ほう……? その恋愛小説とやらを読めば、何か大きなヒントが得られるというのか?」

「ええ。今の公爵様の様にやたらと極端な愛を伝えるのではなく、ゆっくりと、時には焦れったく……少しずつ育む愛の形を学ぶのです。それが今の公爵様には必要な事だと思います」


 ……知らんけど!

 とりあえず、恋愛経験ゼロの私が助言出来るのはこれくらいだろう。

 公爵様も納得した様子で、凍えていた空気も解かれていた。


「そうか。ならばさっそく領地内の恋愛小説を全て集めよう!」


 ですよねー。そうなりますよねー。

 ていうかそれは危険だわ!

 恋愛小説って物凄く幅広いしその内容も中にはちょっと独特な要素を含んでいる物もあるし、そんな知識を全て注ぎ込みまくった公爵様がマリエーヌ様に一体何をやらかすのか想像しただけで恐ろしいわ!


「公爵様、お待ちください! そういうとこです! 公爵様は極端なんです! 出来れば恋愛小説を用意するのはこの私にお任せ下さい! ぜひマリエーヌ様の好みに合いそうな男性が出てくる小説を調査して用意しますので!」

「は? マリエーヌの好みの男だと……? 許さん。そんな存在今すぐ斬り捨ててやる!」

「いやあくまでも架空の人物ですから! 斬り捨てるとかそんなん無理ですから!」

「ならばその男を生み出した作者諸共亡き者にして存在ごと消滅させてやる!」

「ああもうこの人めちゃくちゃ面倒くさっ!」


 再び吹雪の如く周囲を凍り付かせ始めた公爵様とそんなやり取りを繰り広げているうちに、騒ぎに気付いて様子を見に来たマリエーヌ様が現れた事で、「マリエーヌ! 僕に会いに来てくれたのか!?」と公爵様はコロッと態度を変えていつも通りにマリエーヌ様への愛を垂れ流し出した。

 

 疲れた……ほんとに……。

 だから公爵様と二人で話すのは嫌だ。


 だけどなんだかんだ言っても、遠慮しがちなマリエーヌ様には、ありのままに真っすぐ伝えてくる公爵様の愛情表現が合っていると思う。

 

 自分に自信を持っていないマリエーヌ様も、公爵様の愛の告白は信じている様だし、その愛もしっかり伝わっているはず。多分だけど。


 それにしても公爵様が何故、急にマリエーヌ様を愛し始めるようになったのかについては謎が残る。


 以前、公爵様に「公爵様ってマリエーヌ様の事が本当にお好きですよね」と聞いたところ、「ああ、彼女には僕の身も心も救われたからな」と返ってきた。


 だけど、公爵様が変わったのって、確か熱で寝込んだ直後らしいのよね。

 熱で寝込む直前までマリエーヌ様の事を無視していたし、寝込んでいた時もマリエーヌ様が公爵様の元を訪れた事は無かったらしい。


 だとしたら、マリエーヌ様は一体いつ、公爵様を救ったのだろうか……?


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