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12.公爵様の恋愛相談 ※リディア視点

マリエーヌの専属侍女のリディアの災難

「リディア。僕の愛はマリエーヌにちゃんと伝わっているのだろうか? マリエーヌは君に僕の事を何か言ったりしていないか?」


 私と机を挟んで向き合う公爵様は、腕を組みながら真剣な表情で私に問いかけている。

 私はというと、なるべく感情を顔に出さない様、ポーカーフェイスを保ってはいるが、その内情は穏やかではない。


 果たして、今からの時間外労働分の残業代は給料に上乗せしてくれるのだろうか?

 あと精神的苦痛の代償も請求したい。

 

 私は先程マリエーヌ様に就寝の挨拶を告げて部屋を後にした所を、待ち伏せていた公爵様に出くわし思わず「げ……」と小さな呟きを漏らした。

 今日はもう自分の部屋に戻って早くベッドにダイブしたいと思っていたのに、最後の最後でこんな大仕事が待っているなんて。


 マリエーヌ様へ向ける様な笑顔は微塵も見せず、眉をひそめた状態の公爵様から「ちょっと来い」と言われて、私はしぶしぶと公爵様の後を付いて行き執務室へと誘導された。

 

 公爵様が座っている仕事用の机の上には、山積みになった書類と同じくらい山積みになった本が置かれているのだが……。


 どうしてもその本のタイトルに目が行ってしまう。


『続・女性が悦ぶ言葉100選』

『これであなたも恋愛マスター!』

『意中の女性を絶対に口説き落としたいあなたへ』


 うわ……こういうの実際に買ってる人初めて見た……。

 ていうかこの人仕事もせずに何やってんだ。


「おい、聞いてるのか?」


 苛立つ声と共に公爵様の周りを漂う空気が冷え出したので、私は山積みの本からは視線を逸らして嫌々ながらも公爵様と目線を合わせた。


 正直、私は公爵様の事は苦手だ。

 二人きりで会話なんて本当に苦痛でしかない。

 だってこの人、マリエーヌ様が一緒に居る時と居ない時とで全然態度が違うんだもん。


 確かに、以前の公爵様に比べたら断然話し易くはなっているのだけど、人を信用していない様に見えるのは相変わらずだと思った。

 もちろん、マリエーヌ様だけは例外みたいだけど。


「そうですね。マリエーヌ様から私には特に何も言われてないですね。で、公爵様の愛が伝わっているかどうかについてですが……そうですね。伝わっているというか、伝わりすぎているというか……もう少しだけ抑えた方が良い気がします」


 正直に思った事を伝えると、公爵様を纏う空気が瞬時に凍り付いた。

 穏やかに見えていた瞳が一気に鋭くなり、私を睨みつけてくる。


「何だと……? 貴様、僕に死ねと言うのか?」

「言ってません」


 たまにこの人、言葉が通じなくなるんだけどどうにかならないかな。


 公爵様は長く深い溜息をつくと、氷の様な瞳が虚ろな瞳へと変化した。

 それはまるで恋煩いをしている少年の様にも見える……知らんけど。


「僕はこれでもマリエーヌへの愛を抑えているつもりだ。この留まる所を知らない無限に湧き上がるマリエーヌへの熱い想いをこれ以上内に秘めておく事なんて出来ない……狂おしい程に僕の心を掻き乱す感情に押し潰されて死んでしまいそうだ」

「うわあー。それは大変ですねー」


 自分の胸に手を当て苦しそうに美しい顔を歪める公爵様の姿を、私はなるべく心を無にして見つめた。


 ていうか、恋人すらいない未婚の女性()が、何が悲しくてこの男の異常とも言える惚気を聞かなければならないのだろうか。

 

 これだから公爵様と二人で話すのは嫌だ。


 私は小さく咳ばらいをして、至極丁寧に自分の見解を述べることにした。

 

「んんっ……。えっとですね……公爵様は、常に愛を全力で囁きすぎなのだと思います。ああいう言葉は、ここぞと言う時に使うのが効果的なのですが、公爵様の場合は挨拶するかの様に『愛してる』て言ってますよね。ていうか、もう『愛してる』が挨拶になっちゃってますよね。つまり、マンネリ化してしまっているのですよ。公爵様の愛の言葉は」

「は? それはつまり、貴様は僕のマリエーヌへの愛がマンネリ化しているとでも言いたいのか?」


 公爵様の瞳が再び冷気を放ち始め、更には周りの空気まで凍りついてきてめちゃくちゃ寒っ! 雪男かコイツは!


 ああもう! だからこの人と二人きりで話すのはほんとに嫌なのよ!


「いえ、そうではなくて、ですね! マリエーヌ様が公爵様の『愛してる』に慣れ始めているのですよ! あとプレゼントもひっきりなしに贈るもんだから、プレゼントの有難みという物も薄れてきているのです! 『愛してる』という言葉も愛を込めたプレゼントも、そんなポンポン多用する様なものではないのですよ! これらの好意に慣れすぎたマリエーヌ様の心に響く様な告白なんて、せいぜい逆立ちしながら階段を降りてきてマリエーヌ様の靴にキスでもして告白するくらいしかないんじゃないんですかァ!?」


 苛立ち任せに言い切ってしまって、私はハッと我に返った。

 

 さすがに今の言い方はマズかっただろうかと、恐る恐る公爵様の顔色を窺うと、公爵様は唖然としたまま口を開いて停止していた。

 その口がゆっくりと動いた。


「逆立ちしながら……靴にキスを? そんな事でいいのか? それでマリエーヌへ僕の愛が伝わるのか?」

「ごめんなさい。今のは私の言い方が悪かったです。それはやめたほうがいいです」


 駄目だ。

 この人に冗談は通じないんだった。


「えっと、つまり私が言いたかったのは、それくらいのインパクトを与える告白でないと、『愛してる』に慣れてしまったマリエーヌ様の心には響かないっていう意味です」

「ふむ……インパクトか……ならば、花束を咥えて逆立ちしながら階段を降りてきて、マリエーヌの靴にキスをしてその場で回転して愛を伝えるのはどうだろうか」


 え……?

 うわ、何この人怖い。


 超絶の美形がド真面目な顔で何を言っているんだろう。

 確かに発案者は私だけど、さすがに引くわ……ていうかそれはやめろって言ってるじゃん。


 ほんとにこの人はマリエーヌ様の事になると本気で馬鹿……頭が悪くなるのよね。


 マリエーヌ様に好きになってもらえる為なら、見境なく何でもやらかすに違いない。


 とりあえず、公爵様が突然両手を地面に突け始めたら、私が責任を持って全力で止めにいく事を強く決意した。


リディアの災難は続きます……

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