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宗教勧誘を撃退したった

作者: 杉乃中かう

謹んで新年のお祝いを申し上げます。

皆様のご健康とご多幸を心よりお祈りいたします。


調子つけに短編いっきまーす!


 夜8時頃


 冬来たるこの肌寒い風が骨身に染みる。


 今日は気疲れする仕事が早く終わり、明日は休みだ。のんべだらりやって、今はまっているオンラインゲームをやろうかなと思いながらロングコートのポケットに手を突っ込み肩を震わせながら白い息を吐く。


 自宅があるマンションも程なく見えた。


 早足になる自分の足に気づきふっと笑った。


 

 マンションの入り口に入ろうかというところで声がかかった。


 その声に反応して振り返ると、そこには1人のおばさんがいた。

 

 中肉中背のちょいちょい派手目な服装。アクセサリーが首と手首に、バックに耳。しかも、首にはド派手な二重アクセ。

 しまいには分厚い辞書みたいな本を胸あたりにたずさえている幸薄そうなおばさんが立っていた。

 

 自身が顔を顰めていることがわかってしまうほど不審に思っていた。

 こうこうこういうものです〜といって愛想笑いをしてしかし時間良いですかと聞いてくるんだ。


 胡散臭いなと思った俺は、話しを切り上げマンション階段を登ろうとする。

 

 そうすると、すかさず距離を詰めてきてマンションに入ってきた。あろうことか「お兄さん、今幸せですか?」とのたまう。


 実際、宗教勧誘が言いそうなことを言いやがったおばさん。


 俺はこの時すでに嫌な予感を感じていた。絶賛不幸が来て仕事疲れと腹が減って少しイライラしていた。普段はイライラすることなんて無いのに。


 あまりにしつこく話を聞いてくれと言ってくるものだから「少しだけですよ」といって近くにあるファミレス店へとおばさんを促した。

 

 その言葉を聞いて、おばさんの声が1オクターブ上がり、目の奥はギランと鈍く光り、口がニヤリとなった。だが、それも一瞬のこと。注意深くおばさんを見ていた俺は偶然気づいた。

 それを見た俺は警戒心を上げた。



 そうして、道中、おばさんは喋り好きなのか、勧誘したいのか定かではないが匂わせる言葉をかけてくる。

 しゃべり倒しのおばさんをよそに俺は終始無言だった。

 15分くらい歩いたがマシンガントークには早くもイライラが上昇していくのがわかる。

 

 そして、ようやくと感じるくらいの時間の長さを味わってファミレスに着き、店員さんに2名と告げて窓際の席に座った。


 冬の夜風に体温を奪われていた体が暖まる。コートを脱ぎとりま一息する。

 店に入って借りてきた猫のように無言だった(人様に迷惑をかけない、そこの分別はあるのか?)おばさんだったが、話を始めようとする。

 


 けれど、そう口を開こうかというところ俺は(さえぎ)って呼び出しボタンを押した。この時から俺の計画が始まっていた。


「ピポピポーン」


 ポップな呼び出し音が鳴ったことでまた黙るおばさん。それから若い店員が来て、お決まりのセリフで聞いてくる。


 「ご注文はお決まりですか?」

 「ハンバーグセット1つとドリンクバー」

 「ハンバーグセット1つとドリンクバー1つですね」

 

 「おばさんはどうします?」と聞く俺に視線を向けテーブルに彷徨(さまよ)わせたあと、「…ドリンクバー1つ」と小さな声で注文する。


 さっきまでマシンガントークしてたじゃん。


 なんでそんな声ちっちゃいのと疑問が出たが、多分店員さん聞き取れなかったはず。

 おばさんを代弁する形で「ドリンクバー一つ追加で」と注文する。

 注文の品を確認し、奥へと若い店員は去っていく。


 なぜかうつむいて沈黙してるおばさん。


 とりあえず(ノド)がかわいた俺はことわってドリンクを取りに行く。


 「飲み物取りに行きますんで失礼」


 おばさんのもとってこようかと思ったが、赤の他人でこっからバトルが始まるだろうからと何も言わず席を立つ。

 つられて席立つおばさん。どうやら化粧室の方へ行ったみたいだ。俺はお決まりのペプシをとり注ぎ席へと戻る。


 ガサゴソとカバンに入れていたスマホを取り出して充電が充分あることを確認。起動した状態でポケットに忍ばせた。

 

 これで準備は整った。あとはご飯を食うだけと外の景色を眺めながらジュースを飲んでハンバーグセットが来るのを待つ。


 

 待っている間、おばさんとハンバーグセットを持っている店員がテーブルに向かってきた。


 「お待たせしました。ハンバーグセットでございます。ごゆっくりどうぞ」とハンバーグセットとレシートを置いてすーっと奥へと去っていく。

 

 おばさんはチラリと奥へ引っ込む店員を見て席に座る。向かいに座るおばさんを見て、より心なしか気合が入ったかと思ったが、気にせずハンバーグセットに目を向ける。


 おばさんが口を開こうとするのと同時に「ちょっと話し「いただきます」を聞いて…」


 あいさつは大事だ。


 そして、ハンバーグにナイフとフォークを入れひと口。


 イライラした感じが一瞬でなくなりうまいなぁと噛み締めライスをかきこむ。

 もぐもぐと口を動かす俺。


 「お兄さん、話を聞いてくれる?、あのね、お兄さん今、幸せ?」

 と出会い頭言っていた言葉を再び繰り出してきた。


 もうすでに宗教勧誘だと悟っていたが、イライラを完全に食欲が上回っている。

 その手の勧誘って"今、幸せですか?"で入るんだろうか?などと若干ズレた思考をしながら、食欲を満たしている。

 幸福値が上がっているのだ。


 もちろん、俺から出た言葉は

 「今幸せですよ。ですから食事が終わるまで待ってていただけますか?俺、食事中は味わって食べたい派なので」

 と(けむ)に巻く。


 ちょっと露骨だったかと思ったが、おばさんは「分りました。食事が終わったら聞いてくださいね」と口をムッとしながらも席を立つ。

 ドリンクバーのある方に向かって言ったから長期戦になると予想したのだろうか。

 まぁ何でもいいと食事を、ハンバーグセットを味わって食べ始める。


 男の食事ってのは案外早い。ほとんどの男は女性より男性の方が早いんじゃないかな。誰かとの食事ならペースを合わせるやつが多いと思うけど、1人で食べるとなると早いよなぁなんて女性と男性の食事ペースをなんとなく考えてみる。

 食事ってのも品が大事よな。くちゃくちゃ音を立てて食す必要以上にカチャカチャ食器の音を立て食すガツガツって品がないガツガツもあるじゃないか、知人があるいは大切な人異性がもしも対面にいたらスゲーいやだ。女性男性以前の問題だ。品格の問題なのだ。客観視するとすごく恥ずかしい。

ここで恥が出てくるのだが、長くなりそうなので……。


  

 おばさんがコーヒーを携えてテーブルに帰ってくる。


 そして、おもむろに鞄から教材?やら経典?やら怪しげなアイテム?を出しておばさんサイドのテーブルに並べ始めた。ハンバーグセットよりも場所をとっている。もうすでに隠す気なくオープンだ。

 つい気になってチラッと見たが、どれもこれも自己主張強いアイテムばかりだった。


 本を1つ手に取って教材?を無言で読み始める。

 時間を無駄にしないスタイルは嫌いじゃないが、宗教勧誘のマニュアルを読むのは違うんじゃないかと内心ツッコミを入れた。


 食べ始めて10分もすれば、あとハンバーグひと口で終わる。

 おばさんは俺の食事もそろそろ終わりそうだとスタンバっている。

 ハンバーグセットで腹満たされたからか思考力もそれなりに回復した気がする。

 そしたらだんだん面白くなってきて、計画に支障なくいけそうだと思った。

 

 1口を口に入れもぐもぐごっくんしたらジュースで脂っこい口の中を胃に流して一息ついた。


 そして、俺とおばさんの次の行動は同時だった。


 「では話「ピポピポーン」……」

 

 おばさんの話を俺が押した呼び出しボタン音が遮ってしまう。


 宗教勧誘の話をしようとしたおばさん。おばさんは若干こわばった顔と開いた口が塞がらない状態だった。


 呼び出しボタンを押した理由は一つ。もちろん計画のため。話をさせないこと!俺は前もってルールを提示している。俺が"「今幸せですよ?ですから食事が終わるまで待っていただけますか?俺食事中は味わって食べたい派なので」"とその返事をおばさんが「わかりました、食事が終わったら聞いてくださいね」と言っていた。

 

 メシだ。

 

 俺のターン(食事)は終わらない。


 おばさんのリアクションは多分あなたまだ食べるの?だろう。うん、食べるの。

 

 そして、しばらくしてくる店員。

 「お待たせしました」

 「追加いいですか?」

 「はい、おうかがいします」

 「うーんとスパゲティをください」

 「スパゲティーですね?少々お待ち下さい」

 

 追加オーダーを聞きバックヤードに引っ込む店員。


 テーブルに視点を戻すと宗教勧誘関連のものがなくなっている。

 いつのまに。

 店員と話している隙に戻したというのか?


 そんな驚いている俺をじっと見つめ、また宗教関連の物を出している。

 食事中ではない今がチャンスだと思ったのか勧誘が始まった。実際、動揺している俺は付け入る隙を晒してしまっている。

 いったいどんな切り口でくるのか身構えていたのだが、


 「今、幸せですか?お兄さん」


 ん?


 また?

 もしかして、今幸せですか?で入らないと先に進めないのか。

 RPGモブかよ。

 そんな内心呆れ返っている俺をよそにおばさんは気づいていないのか続けていく。


 「私は入信しているオッパ教は幸せを与えてくれます。どん底にいた私を救ってくれたんです。この幸せとは信じる者こそが救われるとか敵だと思いません?それにこのうんぬんかんぬんうんなんかんぬん」


 とかなんとか言って、何の捻りもないどこかで聞いたような勧誘。もしかしたら、教材通りにやっているのかもしれない。さっきテーブルに本が置いてあった。あれに書かれている通り読んでいるのかもしれない。そう考えて、宗教勧誘のマニュアルってなんなのって、我ながらあほらしいことを妄想している。

 

 さらに続けて、

 このロザリオを買ったら人生前に開けただの、教祖様に会いたのは幸運だった、教祖様は力強いオーラを発している人だったと。

 

 明らかに買わされたであろうアイテム、オッパ教とか言う教祖様推し。

 もう、何か大丈夫かこの人と全く赤の他人なのに心配するレベルで語るおばさんを不憫な目で見てしまう。


 俺にはどうすることもできないんだとペラペラ語るおばさんのこの話を右から左に流していると、若い店員がスパゲティを運んできた。


 すると、ピタリとマシンガントークが止まる向かいの人。見ればテーブル上の教材がいつの間にかなくなっている。手品かってくらい手癖(てぐせ)が早いな。


 頼んだスパゲティを置いて去っていく店員、そして「いただきます」と間髪入れずにあいさつ。

 フォークを手に取りスパゲティーを1口食べる。気力が回復するのがわかる。


 おばさんはまた食事を始めた俺をじっと見て一時休戦と判断したのか、コーヒーを品よく飲みまた教材を取り出して読み始めた。


 所々に出る上品な振る舞い。なんだかなぁ。宗教勧誘という強引な主旨自体誉められることではないけども、律儀な人真面目だからかしつこく勧誘してんのかとおばさんの背景を想像し始める俺。

 もぐもぐ口を動かし、友人からの介入でどっぷりハマったのか、身内がなくなって弱っているところをつけ込まれ引き込まれたのか、わからないがそういう人の物語を想像するだけ妄想をより一層引き立てていた。


 俺は静かに味わって食べていた。

 (赤の他人と食事できる俺ってメンタル強くね?)


 そうこうすること十数分スパゲティーを完食する。


 おもむろに押した。

 「「ピポピポーン」」


 おばさんは呆れたような唖然としたような表情をしていた。


 そう俺のターン(食事)は終わらない。


 まだ、食える。 

 

 本日3回目のオーダー。

 「鍋焼きうどんとエビドリアとフライドポテト(厚切りのやつ)」


 そして、奥へと去っていく店員を見送り、俺はトイレに行くことにした。



 ここで俺の計画を話そうか。


 すでにわかっている方がいると思うがメシを食べるだけ。

 なあなあにして諦めさせる。変人奇人を相手にするより数当たって信者集めた方が利口だからな。相手も暇じゃないだろう。適当なところで切り上げて帰るはず。

 もしものためにもスマホで録音している。これは状況証拠。身の潔白のために。


 本当になんで宗教なんてはまってんだろうあの人。宗教ごと悪いと言わない、精神的に自分が自分でいられるのなら良いだろう。

 強引な勧誘は好かない。

 だが、見たところ、根は真面目そうで、振る舞いにも品がある。その手の宗教信者らしい強引な行動言動があったのも最初だけだった。そこも宗教勧誘マニュアルに載ってたんだろうか。

 経験談なのだが、自己主張激しい人は相手のことはお構いなしに振る舞うだろうからな。気持ち良いらしいし上手くしゃべれたとか思っているみたいなんだよ。あとマウントとっているかな。 


 手を洗いハンカチで拭いていく。


 なぜ向いてなさそうな宗教なんてやっているのだろうか。


 テーブルに向かうと、おばさんの背中が見える。トイレの方から見ると背中を向けている形。


 心なしかうつむいて見えるか。教材開いてないし。なんか暗い感じ。


 「…」


 あ〜喉渇いたなー。

 俺はテーブルに寄り、「飲み物とって来ます」と俺の存在をほのめかすように言った。

 何も見なかったことにしてドリンクバーの方へと足を向かわせた。

 

 背後でバッと顔を上げた気配がした。


 それからしばらく、ドリンク補充してテーブルに戻ると、あの人は普段通り?に戻り教材を熱心に読んでいた。

 

 座る際に視線を感じたが特にどうと言うこともなく、そして都合良く料理が届く。

 

 ホカホカと香る三品をじーっと見つめるおばさんがいる。

 無意識かな。偉く情念が目にこもっている。


 「…」

 

 「…」


 俺は放置する気が起きなくて「(一緒に)どれか一品食べますか?」とうながしていた。


 やはり無意識に見ていたらしい。

 はっとして拒否の返答が返ってくる。


 

 「そうですか… 1人では何かしっくりこないので一緒に食べてもらってもいいですか?」

 と踏み込んでみる。


 どうしたのだろうか、息をのんで驚愕している。


 「っ…いいです、お腹空いてないので」

 「ググーーー… 」


 見計らったかのように大きな音がした。


 発生源はわかっている。目の前で音がしたもの。

 顔を真っ赤にしてうつむいている向かいの人。


 テンプレかよ。初めて見たわ、いらないって言ってお腹が鳴るのは。子供がやるやつじゃねーか…

 淑女があるまじきこととか思って恥ずかしがっているのだろうか。

 なんかおかしくてクスっと笑った。


 さらに顔が真っ赤になる。


 まあ恥ずかしいよな。でも咎める恥でもないよな。


 「笑ってしまい申し訳ない。俺1人じゃこの量を食えないんですよ。せっかくの料理も覚めるし、一緒に食べてくれませんか」

 ともう一度お願いする。


 「…はいわかりました、食べます」

 「ありがとうございます。ではどれを?」

 「これを」


 手を添えられたのは熱々のエビドリア。


 俺は鍋焼きうどんを食べる。熱々の味が染み込んでいるうどんが口の中を踊る。

 

 夢中になって食べていると、向かいから「ふふっ」と笑う声がした。


 口に手をやり上品に笑ってるおばさんがいた。不思議と嫌な感じがしない。


 だが、俺が見ていることに気づいてすぐに笑みを引っ込め目がテーブルの隅に走った。


 笑って言ったことに触れずに「食べないんですか?」と問いかける。


 チラッと俺を見て、おずおずとスプーンを手に取りドリアを口に運ぶ。


 「おいしい」


 その言葉を聞いて俺は止まっていた食事を再開する。


  ズーーッズッズー、ホフッホッフー


 冬に食べる鍋焼きうどんは美味しい。

 

 向かいからかすかにカツ…カツと掬う音を聞きながら黙々と食べ進める。

 


 しばらくすると向かいから動く気配がしなくなったのに気づく。


 

 気になって見てみるとおばさんが泣いていた。


 静かに大粒の涙をポロポロと。


 

 びっくりしておろおろする俺。


 その俺の様子に気づき、ハンカチで涙を拭うとこう言った。


 「ごめんなさい。突然泣いてしまって。なんでもないわよ。お食事続けましょ」

 と言い食べ始めるおばさん。


 いやいや、無理だろ。

 泣いている人の前で食べるって…気になってしかないよ。

 

 あそうって言って食べ始めるのは。

 そんな無神経なやつだよ。

 

 俺はチラチラとおばさんを様子を伺う。

 

 うどんをつついたりぐるぐるかき回したりなかなか口に運ばない。


 後日気づいたがこれが演技だったら騙されてたなと当時を振り返っている。

 

 先ほどまで美味しそうに食べていた俺の箸が止まっているのを見かねたのか、スプーンを置いて語り始めた。

 

 少し長くなるけどと前置きをつけて話し始める。


 「誰かと一緒に食事をするのは久しぶりなの」


 その言葉に俺は相手を見る。


 「数年前までは楽しく幸せな家庭があったわ。夫と息子がいてね。よく遊びに行ったりのんびりリビングにくつろぐのが日常だったの。結婚して息子が生まれた時は本当に嬉しかったわ。夫と息子はなくなったんだけどね」

 

 ズーッズッズ


 「夫が心筋梗塞で家の階段を降りようとした時転がり落ちて頭の打ち所悪くてね。救急車呼んだけど夫が死んだってことに実感なくて葬式を淡々としていたって親族から聞いたわ。ひどいわよね。その後しばらく無気力に家事をしていたわ。幸いお金には困らなかった。でも、息子がいるってことに気がついてね。気丈に頑張って家事や食事を私のそばにいてくれていて。私も頑張らなきゃって思うようになって、少しずつ前を向くようになったの。今でも夫のことを思い出すんだけどね。やっと息子と私を立ち直れたと思った矢先に、息子がね…事故に遭って死んだの」


 ズッズ!?ズー。モグモグ。


 「下校中の交通事故。居眠り運転していた車が息子にぶつかって…即死だったってッ。あまりにも損傷が激しくて見せてもらえなかったかったけど息子の持ち物は帰ってきたわ。その時は泣いたわね…どうしてって、なんで息子まで。やっと前を向いて息子も笑っている時の方が多くなってきたのにどうしてって…。家で一晩中泣いて泣きつくして、数日か出週間か無気力な状態が続いていたある日、ピンポーンとチャイムが鳴ったの」


 俺はここで口に運んでいた厚切りポテトを一瞬止まったが食べ始め聞き耳を立てた。


 「ケバい中年のあばさんが立っていたわ。オッパ教の信者だって言うのよ。どこで聞きつけたのかしらね。ニタァと笑うオッパ信者。今、幸せですか?って開口一番言われて。内心"幸せなわけないじゃない!?"って思ってたわ。怒りが湧いてきて、目の前のおばさんにぶつけようとした。そこに漬け込まれたのでしょうね。きっとその時の私の顔は今にも死にそうだと言われてたから。大変だったねぇ、これをすれば楽になるわ、幸せになるんだのよと甘い言葉をささやかれ心のやった私の心に泥水が染みていった。夫や息子が生きていた頃までは宗教なんて大嫌いだったのにね。私の両親も宗教なんて大嫌いなんだもの。でも弱っている私はどんどん信じてはまっていった。…宗教に身を寄せ始めた頃からかしら。夢に出てくるのよ。夫や息子が哀しい表情で見てくるの。そのたびに私は大丈夫私は大丈夫と言い聞かせながら夢は終わるのだけどね。でね、思い出しちゃったのよ。夫と息子と家族団欒で楽しく食べていた光景を。鍋焼きうどん、ドリアにフライドポテトとハンバーグセットを貴方が食べているのだもの。夫と息子と食べたメニューを頼んで食べているんだもの。それでうるっときちゃって。楽しかった日々を思い出して、あー、良くないなぁって、私何してんだろうなーって食べながら、思っちゃって、思い出しちゃって泣いたの…グスッ」


 またぶり返したのか泣き出すおばさん。ごめんなさいあなたを巻き込んでとか言っている。

 ダイレクトにおばさんの記憶を触れていたのか。

鍋焼きうどん、ドリア、フライドポテト+ハンバーグセットを亡き夫と息子とで食べたこと思い出し泣いてしまったと。

 その頃にはうどんと厚切りポテトを完食して俺は静かに話を聞いていた。


 人多かったファミレス内は数人の客だけとなって静かだ。

 

 「ふースッキリした。喋ってたらお腹空いちゃったは、あら?もう食べたの、早いわね。おばさんも食べなきゃね」

 

 そう言って冷めたドリアを食べ始める。


 俺はとりあえず呼び出しボタンを鳴らし、デザートを頼むことにした。

 ほどなくデザートがきておばさんと俺は食べていく。

 

 食べ終わるのは同時。


 「ごちそうさまでした」


 そういうおばさんの表情は晴れやかで瞳に力が宿っていた。どこかで見たことある目。あれは母の目に似ている。お袋もああいった目をしている。


 もう大丈夫だなと判断した俺は。レシートを持って全部払う。お金を出されそうになったが断り、後日また会うことにした。


 「もう一度俺の住んでるマンションに来てください。日は週末の昼頃」

 

 おばさんは覚悟している目で会釈して去っていった。


 宗教もといオッパ教から身を引くと言っていた。簡単には抜け出せないだろう。というよりあの手この手でオッパ教信者が引き止めようとするだろう。脅したりとか。法のグレーゾーンで。


 結局、予定にあった大食いして呆れさせて追い返す計画が宗教から足を洗うきっかけになってしまった。

 俺としては特に何もしてないが、厄介事がなくなってよかった。


 後は、()()に丸投げしようと帰路についた。



 週末にマッマ(お袋)とおばさん(後日聞いた相楽さん)を会わせた。

 

 その後、友人となって頻繁にお茶会もとい女子会している。


 

 

 

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