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幕間:宮廷従魔師長モルロ②(王国視点)

次話からクウガ視点に戻ります。

「グギャアアアアアア!!!!」


「ひ、ひい! お、おい! 私の言う事を聞けえ!!」


 そこは地獄だった。

 ドラゴンを筆頭とした高ランクの魔物が暴れている。

 その破壊力は街どころか国も滅ぼしそうなほど。


 どうしてこんなことになったのかというと、約一〇分前に遡る。


 意気揚々とテイムに向かったモルロが、テイムに失敗して魔物たちの怒りを買ってしまったのだ。


 従魔術(テイム)とは魔物と心を通わせる術だ。もっと学問的に言うと、魔物に心地良い魔力を流して懐柔させる技だ。決して、強さで優っている必要はない。

 だから、モルロも強大なAランクやSランクの魔物であってもテイムが可能だと踏んでいた。


 しかし、現実は非情だった。


 魔物はランクが上がるごとに知力か暴力性が高くなる。

 ゆえに、テイムの難易度が跳ね上がる。


 だから、(クウガと比べると)下手くそな術に暴力性の高い魔物たちが怒り、舐めた態度でテイムをかけてきたうえにクウガの悪口を言ったことに知性のある魔物たちが怒った。


「く、くそ! クウガの無能め! こんな危険な魔物を飼っていたなんて!」


 こんな風に。


「ほ、本当にこの結界は破れないんだよなぁ!?」


 モルロは、魔石で創られた強力な結界の中で震えながら、魔石を使った若い従魔師に怒鳴ることしかできなかった。


『これは……クウガの……』


 魔物たちの中でも一際美しくて威圧感のある魔物、“妖精竜”フェアリードラゴンが呟く。


「ク、クウガのだとぉ……?」


 彼女の言葉は、モルロに大きな屈辱感を与えた。


 それを意に介さず、フェアリードラゴンは愚かな宮廷従魔師長を睨み、少し考えこんだ。ちなみに、その従魔師長は漏らしてしまった。もう四〇に差し掛かるのに。


「妖精竜様! こちらの話を聞いてくださいませんか!」


『……良かろう。クウガがいない理由を述べるがいい』


 黙るフェアリードラゴンに、今年入ったばかりの宮廷従魔師が大声で尋ねる。

 それに応えると、若い従魔師はホッと安堵し、ここが正念場だとばかりに真剣な表情になった。


「クウガ様は現在、体調を崩しておられです! ですので、もう少し待っていただきたい!」


『……ほう? いつ戻ってくる?』


「謎の病にかかってしまっているので、詳細な時間は把握できておりません!」


『…………』


 神秘的な雰囲気の竜が目を細める。

 その行為に、宮廷従魔師たちは情けなくも震え上がった。


『あの男がウィルスに負けるわけがないだろ!! もしも、そんなに惰弱な男ならば、私が既に殺している!!』


 フェアリードラゴンが吠える。

 Sランクどころか大陸を滅ぼすというSSランクの魔物の叫びは、その衝撃だけで宮廷従魔師たちを吹き飛ばした。クウガ作の結界の魔石がなかったら、この城じたいが崩れていただろう。


『それで? 実際はどうなんだ!?』


「……先ほど語った通りです」


 本当のことを言えと命じたにも関わらず、さっきと同じことを言う若き従魔師に、フェアリードラゴンはイラッとしたように眉をひそめた。


『いいだろう。ただし、その言葉が嘘だった場合……私はこの国を滅ぼすぞ』


 大陸すら消し飛ばせる怪物の脅迫に、モルロをはじめとした腐った宮廷従魔師たちは震え上がる。中には、ショックで気を失ってしまう者もいた。

 若い従魔師はそんな先輩たちを放って、幻想的な竜に一礼する。


 フェアリードラゴンはそれを一瞥もせずに檻――クウガ作で、中にいる魔物を小さくする能力がある――の奥に引っ込む。

 他の魔物たちも、唯一のSSランクにして最強の彼女が引き下がったことで、渋々引っ込んだ。


 モルロたちは、恐怖に震えながらその場を後にするのだった。


◇◇◇


「ど、どうするつもりなんだ!? あんなことを言って!?」


 無事なところまで逃げたモルロは、フェアリードラゴンと喋っていた若き従魔師に詰め寄る。

 さっき漏らしたとは思えないほど、責め立てるような強い語調だ。


「勝手な行動申し訳ございません。しかし、あのままだと危険でした」


「い、いけしゃあしゃあと……! この国を滅ぼすと言われたんだぞ!!」


「……元はクウガ様をあなた方が追放したせいでは?」


「なっ!?」


 まさか反論されるとは思ってなかったのか、若い従魔師の言葉にモルロが口をパクパクとさせる。

 しかし、すぐに顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。


「貴様ぁ! 宮廷従魔師長であり、侯爵家の長男である私に歯向かうとは!? 不敬罪で処断してやる!!」


 普通ならば、圧倒的に上の立場の者からそんなことを言われたらビビってしまうだろう。

 だが、今は普通の時ではない。


「まだわからないのですか! 今やるべきは妖精竜様の怒りを鎮める方法を模索することでしょう!! そもそも、気に食わないなどというふざけた理由でクウガ様を流刑にしたから、このような事態が起こったんじゃないですか!! 同じことをするつもりですか!?」


「うっ……」


 真剣な表情で言われた言葉に、モルロは反論することができなかった。


「あ、あんな奴に様をつけるな!! それに、あいつが流刑になったのは、嫉妬でギハニア公爵家の倅を陥れたからだろう!!」


「証拠も何もない冤罪じゃないですか! それよりも、あなたにはやるべきことがあるんじゃないですか!!」


「やるべきことだと……!?」


「クウガ様に謝罪し、戻ってきてもらえるようにお願いすることです!!」


「……!?」


 若い従魔師の言葉に、モルロは固まった。


「ふ、ふざけ――」


「そ、そうだよな! クウガさえ戻ってくりゃ解決じゃねえか!!」


「他のところも困ってるって言ってるし、きっと賛成するぜ!!」


 そして、怒りのまま喚き散らそうとするが、他の宮廷従魔師たちによって遮られた。


「グ、グギギ……! お、覚えていろ!!」


 結局、モルロはそれだけ言うと帰ってしまう。

 上司のそんな無様な様子も気にせず、従魔師たちは彼に意見した新人の宮廷従魔師を褒め称える。


「お前すごいな!」


「ああ! モルロ様……モルロにあんなに言えるなんてな!」


「いえ……私はただ、思ったことを言っただけで」


 謙遜する後輩にますます気をよくしたのか、従魔師たちは大はしゃぎだ。


「いやー! 一時はどうなることかと思ったけど、クウガが帰ってきたら百人力! 俺たちも働かなくてすむ!」


「まったくだ!!」


「よっしゃ! 解決策が見つかったし、飯食べに行こうぜ!」


 そう笑い合いながらご飯を食べに向かう先輩たちを冷めた目で見て、新人従魔師はぼそっと呟いた。


「……戻ってくるわけがないだろ。自分に全ての仕事を押し付けようとするところに」


 そして、続けてこう呟いた。


「……万が一、戻ってこられたら困るしな」

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