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6話:麒麟児、丸焼きにされかける

「……もう夜か」


 狩った熊を食べ、それからはやることもないのでここにある新種の木の実や薬草について調べていると、完全に日が暮れた。


「ふー」


 舗装なんて一切されていない地面に寝そべる。なんか寝てばっかだな。


「……綺麗だ……」


 仰向けになった俺の目には、満天の星空が映っていた。

 なんだか、いつもよりも空が遠く感じる。


「本当にすごいなぁ……自然……広いだけじゃなくて、時間が変わるだけで全然違う」


 思わず、宝石箱のような夜空に向かって手を伸ばす。


「エアコンを創ってから忘れてたけど、夜になると涼しくなるんだな……」


 一二歳の時にエアコンを開発してから、ずっと一定の室温の部屋で仕事をしていたからな。


「温度も、吹いている風も、周囲の音も、地面のひんやりさも、景色も、空も……こんなにも姿を変えるんだなぁ」


 月や星なんて見たのいつぶりだ?

 そもそも、一〇歳になる前……倒れた後ぐらいから景色なんて気にしたこともなかった。

 農地視察した時も結果が書かれた資料を読んで、それの真偽を確かめただけだった。


 ……なんか、あの日から人間的な感情が失われた気がする。


 まさか、宇宙人に連れ去られた!?

 ……なわけないか。


「もう寝るか。なんか、すっげぇ眠い気分」


 今までは仕事とか暗殺者に狙われたりであんまり眠れなかったからな。

 魔物の気配はしないし、最悪死にそうになったら起きるようになってるし、久しぶりにゆっくりと寝るか!


 俺は、涼しい夜風を感じながら素晴らしい気持ちで眠りについた。


◆◆◆


『ついに現れた。魔術の才を持つ者が』


『貴方の名前は? いえ、どうでもいいことです』


『ああ長かった。でも運が良かった』


『■■■の魂を修復した直後に器が現れるなんて……これもあの子の徳ね』


『不満点はあるけど……まあいいわ』


『頑張ってね。貴方は大切な勇者の代用品なのだから』


◆◆◆


「…………」


 起きた。

 日も既に大分昇っており、こんなに遅起きしたのは初めてだ。太陽の昇り具合から、今の時間は八時くらいだろうか。


「……なんだこれ?」


 なぜか目から涙が溢れていた。


「なんか泣きすぎじゃね? 昨日も二回泣いたし」


「そうなの? 変なの」


「だよな。一〇歳になってからは一回も泣いたことなかったのに」


「それはすごいね」


「な」


 本当にどうしちまったんだろう。


 俺を枝に縛り付けて、豚の丸焼きをするみたいに固定している全裸の少女と頷き合う。

 逆さ向きなのでわかりづらいが、めちゃくちゃ可愛い娘だと思う。白髪から生えた虎耳がチャーミングだ。

 でもそれ以上に気になるのは、どうして俺は縛られて、少女は真下で火を焚き始めたのか? ということだ。


「って、食料にされてるー!?」


 昨日と合わせて二度目だ! なかなか稀有な体験じゃないだろうか!?


「活きがいい」


 チッチッチッチッという火の音から逃れるように体を暴れさせるが、なぜか千切れない。縄なんて秒で破れるのに。


「あっ! 火の粉が俺の黄金の髪に!!」


 危ない! 髪が燃えるところだった!


「待って! 話をしよう!」


「食材と話すことなんてない」


「ひー! カニバリズムー!」


「本当に活きがいい。絶対に新鮮で美味しい」


「そりゃまだ生きてるからな! もうぴちぴちの新鮮さよ!」


「おお……!」


 俺の言葉に少女の無機質な目が期待に輝く。


 しまった! 余計なことを言った!


「でも、絶対に硬いぜ! 食うのはおすすめできない!」


「……そうなの?」


 少女が残念そうに聞いてくる。


 ここが分岐点だ!


「ああ! 本人が言うんだから間違いねえよ!」


「わかった。教えてくれてありがとう」


 少女は頷くと、俺を枝ごと持ち上げた。


 ふう。どうやら解放してくれるらしい。


「えい」


「グッハアッ!」


 そんな俺の安堵と裏腹に、少女は可愛らしい掛け声とともに枝を振って地面に叩きつけてきた。


「えい。えい」


「グッハアッ! グッハアッ!」


 叩きつけられる。

 べつに痛くも痒くもないが、何をやっているのかわからない恐怖がある。


「ちょっと休憩」


「……なにしてたん?」


 動きが止まったので尋ねてみる。

 こんなに動揺したのは昨日の追放劇以来だ。


「お肉は叩くと柔らかくなる」


「なるほど。合理的だな」


 確かに。肉は叩くことで繊維が切断されて柔らかくなる。それは間違いないし、素晴らしい主婦の知恵だ。


「問題は俺が食べられないということだけだな」


「えっ?」


 少女が心底ビックリしたように目を見開いた。


「食べれないの?」


「わかってくれたか?」


「うん……人なんて初めて会ったから知らなかった。ごめんね」


「あ。俺のことを人間だと認識してくれてたんだな」


 だとしたら、なんであんなバイオレンスな行為を……。


「ま、まあ、いいや。それよりも、こんなところで人と会うなんてな……」


「人? 私が?」


 少女が首を傾げる。


 どうしたんだろう? 痛い子なのかな?


 そんな失礼なことを考えていると、少女は突然、白い毛並みの大きな虎に変身した。


「私は化け物だよ?」


「……お前、青龍の仲間だな!?」

次の話は王国視点になります。



☆1でも評価してもらえると嬉しいです!


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