3話:麒麟児、自然の美しさに目覚める
実は、前にも一度だけ私を国外追放にしようという動きがあった。私が一一歳の時だ。
国の首脳陣が組んだとは思えないほど杜撰で、私は一瞬で計画の全貌を把握していた。
とはいえ、アルチェア王国は敵だらけ。
だから、私はさっさと廃籍されたかったので陰ながら応援していたが、なぜか王女であるエディタが私を気に入ったので私は結局アルチェアに縛られることになった。
まあ、皮肉にも今度はエディタの浮気で私は国から解放されたんだけど。
……解放といっても流刑。通称“絶望島”と呼ばれる高ランクな魔物が蔓延る孤島にだけどな。
騎士に見張られながら漕いでいるボートのうえで、自嘲気味にため息をついてしまう。
もう少しで島について、私はすぐに魔物に食い殺されるだろう。
抵抗しようにも、剣を首に突き付けられている状況ではどうしようもできない。いや、私ならばできるか。でも、彼も命令できたんだ。殺すほどではない。
「貴様もきちんと俺たちにへりくだっていれば、こんな目に合わなくて済んだのにな」
……この騎士もグルなのか。
「着いたぞ。ここからは泳いで行け」
一瞬だけ仕返しを検討したが、もう着いてしまったらしい。
ずっと下を向いてたせいで気づかなかった。
……そういえば外に出たのは何日ぶりだろうか。
思えば、私が転移魔術陣を完成させてからは一度も移動で動かなかったし、その前も乗り物の中で書類と睨めっこをしていたな。
全国の農地を視察しに行ったことがあるが、それもチラッと見ただけですべてがわかる私の理解力のせいで、じっくりと見たことはない。
最後に自然を見れるのは僥倖だったのかもしれない。
そう思って顔を上げると――
「――美しい」
俺は目を奪われた。
風光明媚とはこういうのを指すのだろう。
緑に囲まれたジャングルは中を覗かせず、しかし、暖かな陽の光が差し込んでいるのがわかる。
全貌なんてものは到底わからず、知的好奇心をくすぐる。
意識を傾けると、豊かな木々の香りと野鳥のさえずり、水が流れる音が風に運ばれてくるのを感じた。
どれもこれも宮廷では味わえなかったものだ。
自然と涙が零れてくる。
もっと見ていたいという欲と、あそこにすぐに行ってみたいという欲がせめぎ合った。
「おい。貴様さっさと!」
「ギュアアアアアアアアアン!!!!」
「なっ――」
騎士が急かしたように言うが、それを言い切る前に巨大な魚が水中から現れ、騎士がいた部分を喰ってしまった。
「す、すげえ……」
食われた騎士などとうに頭になかった。
あるのは、美しい自然に育てられた大きく尊い生命への敬意と憧れ。
「すげえすげえすげえすげえーー!!!!!」
人生で一番の大声を上げる。
海に落ちてずぶ濡れになったことなど気にならなかった。
「アハハハハハハハハハ!!」
両手を上げて笑う。
これも人生一だ。俺の表情筋がこんなに動くとは知らなかった。明日は筋肉痛だろう。
ああ。楽しい。
人間は美しいものを見たら、こんなにもテンションが上がるのか!!
「ギュアアア」
「あ……」
目の前に、あの巨大な魚が現れる。
それでも、俺の心に恐怖はなかった。あるのは『こいつを育てた自然を見たい、知りたい』という欲求だけ。
「な……なんて綺麗なんだ……」
魚類特有の目を見て、自然と口から漏れてしまう。
「『ウォーターカッター』」
周囲の水を集めて、強大な刃を創り出す。
それで魚を切ると、俺はすぐに島に向かって泳ぎ始めた。
「アハハハハ!! 行きたい行きたい行きたい! そこに行きたい!!」
俺はこの日、今までのストレスから解放された。
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