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15話:麒麟児、女神から命じられる

「ここは……どこだ?」


 謎の魔物に奇襲され、落雷で気を失った俺はよくわからない空間にいた。

 空間は濁った白色で囲まれていて、どこが床でどこが天井なのかわからなかった。


「よくぞ参りましたね」


「うおっ!」


 俺以外は何物も存在していなかったこの空間に、いきなり見知らぬ……けれども、どこかで見たことがある気がする美女が現れた。


「……どなたですか?」


 美女は俺よりも年上で、二〇代後半くらいの年齢だろうか。

 ただ、一つだけ普通の人とは違う点がある。それは、身に纏う雰囲気だ。


 強い人間を見たことはある。生まれながらのカリスマも見たことはある。魔力を大量に保有する人も見たことはある。さまざまな人間を見てきた。

 しかし、この人みたいなのは見たことがない。わかるのは、普通ではなくもっと神聖な存在であるということ。

 そう。まるで神様みたいな。


 ……でも、それにしてはどこか俗物的なものを感じる。


「私は女神アウラ。貴方に話したいことがあって、この空間に呼びました」


 しかし、そんな俺の直感を否定するように、美女――五〇〇年前に世界を救ってくださった“救世の女神”アウラ様は名乗った。

 確かに言われてみたら、教会にある女神像の面影がある。


「は、話したいこととは?」


 思わず後ずさりしてしまう。それほどまでの何かがあった。


「二つあります」


 アウラ様はこちらを興味なさそうに見つめながら、言葉を続けた。


「一つ目は、邪神イヴィルカーンの封印を解こうとする不埒物がいます」


「邪神が!?」


 “邪神”イヴィルカーン。

 この名を知らないのは、まだ言葉を理解していない赤ん坊くらいだろう。

 物心を知ったばかりの幼児でも、一番最初に読み聞かされる絵本で存在は知っている。


 約五〇〇年前、“勇者”ヒナノが命と引き換えに封印した最強最悪の魔物だ。

 人間と同じだけの知能を持ち、一説には人にもなれたという。というか、SSSランクの魔物は人間に変身できると言われているのはこいつが原因だ。


「ええ。彼らは邪神教団を名乗り、各地で暗躍しています」


「邪神教団?」


「いちいち遮らないでください」


「…………」


 そんなきつく言わなくても。

 詳しく聞きたいだけなのに……。


「って! 今はそんな場合じゃなかった! 後で聞くので、すぐに俺を戻してください! みんなが危ないんです!」


「黙れと言っているでしょう! そもそも、今の貴方程度ではあれには勝てない!」


 急いで戻らねばと思ってアウラ様にお願いするが、それは一蹴されてしまう。


「か、勝てない?」


「ええ。あれは、かつてこの世界を救わんと戦った勇敢な少女、ヒナノを基にした麒麟という魔物。彼女ほどではないとはいえ、雷の力は強力無比。今の貴方では絶対に勝てません」


 雷……確かにあいつの攻撃は強くて速かった。

 あれに対処できないと勝ち目はない……まずはカザネたちから距離を取らないと。


「話を戻しましょう」


 意識を彼女に戻す。

 自力で戻る方法がわからない以上、この方の話をおとなしく聞くしかなさそうだ。


「貴方には邪神教団の討伐を命じます」


 さすがは神様。頼みをすっ飛ばして命令するとは。


 なんて皮肉を言っても仕方ない。

 今は彼女に合わせよう。


「これは貴方にだけ命じます。というか、貴方にしか頼めません」


「俺にだけ?」


「ええ。なので、失敗すれば貴方の責任です。責められたくないのであれば、全力で取り組みなさい」


 俺だけの責任……俺だけの……。


 もしかしたら、この方の信者であれば喜ぶことなのだろうか?

 でも、俺にとっては……。


「貴方には慣れっこでしょう? なんせ、ついこの間までそうだったのですから」


 そう。それはアルチェア王国にいた時と同じだ。

 俺だけが働き、俺だけが責任を取る。


 それは到底受け入れがたく、だが、俺が了承しないとこの世界そのものが滅びてしまう。

 ……頷くしかないか。俺にしかできないことならしょうがないし、アウラ様が言ったように俺にとってはよくあったことだ。


「二つ目の話をしましょう」


 だが、アウラ様は俺が了承する前に二つ目に移った。


「青龍、白虎、朱雀、玄武。あの魔物たちがこの島を出るのを阻止しなさい」


「……は?」


 まさか、邪神の後に彼女たちの名前が出るとは思わなかったので、俺は間抜けな顔をさらしてしまった。

 なぜ、彼女たちの邪魔をしないといけないんだ?


「な、なんで――」


「いえ、もう殺してしまいなさい」


 女神が言う。その命令は、もしかすると人間である俺には理解できない程高尚なものなのかもしれない。

 しかし……俺には、まるでこの神様は私怨に憑りつかれているように感じた。

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