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12話:麒麟児、トウカと焚き火を囲む

 今日中に着くことは叶わなかったので、俺たちは野宿することになった。


 イズミ、カザネ、ミノリの三人は、安全性を考慮して魔物形態になって寝ている。

 俺は夜空をもうちょっと見たかったので起きていた。

 トウカも起きているが、どうしてなのかはわからない。ただ、真剣な面持ちでいるのが気になる。


「のう。クウガ」


「ん? どうした?」


 あれはゴブリン座だなーとか思っていると、トウカがいきなり話しかけてきた。


「お主は妾たちのことをどう思う?」


「どうって……猪親子に慈悲を与えずに食べた野生児だけど。あと美少女な魔物」


「照れるのぉ」


 照れるのか? わりとひどいことを言った気がするけど。


「……少し話をして良いか?」


「ああ。べつにいいぞ」


「その前に火を焚こう。今夜は冷える」


 トウカが焚き火を点けた。パチパチという音が心地いい。


 話って何だろう……恋愛相談とか? ないか。されても困るし。


「妾たちは五〇〇年、この島から出たことがない。というよりも出れんのじゃ」


「なんで?」


 そういやイズミも「できたらいいな」みたいなこと言ってたな。

 にしても出られないってどういうことだ。


 ていうか五〇〇年って……ま、まあ、エルフだったら普通だし、そんなにツッコむものじゃないのかもしれない。女性に年齢の話は禁句と聞くし。


「さあ……ただ、妾たちはそれを確かめるために湖に行こうとしておる」


「湖に?」


「そうじゃ。なんとなくわかるんじゃよ。あの湖……その中にある剣には特殊な力が宿っておる。そして、それこそが妾たちをこの島に縛るものだと」


 そんなにすごい剣なのか……Sランク級の魔物を五〇〇年も縛り付ける武器を創れる奴なんていたか?

 少なくとも、俺の知ってる歴史に名を残した鍛冶師に、そんな力を持つ人はいない。教科書に載ってるのは全員、覚えているはずなのに。


「だから、俺にそれを抜いてほしいと?」


「その通りじゃ。妾たちでは抜けんかったからの」


 彼女たちが俺に剣を抜いてほしいなどという奇妙なお願いをした理由はわかった。


「でも、俺も抜けないかもしれないぜ。俺は魔術師タイプだから、腕力自体はそんなに強くないしな」


 肉体強化の魔術を施してから近くにある大木を引っこ抜く。


「よっと……ほら。これが限界だ」


「……充分じゃと思うぞ」


 そうかな?

 素の肉体の強さ自体は地道な努力でしか上がらなかったんだよな。いや、普通はそうだけど……他が他だから。


「……妾たちには記憶がなければ親も同じ種族もいない」


 トウカの顔が焚き火によって照らされる。そこに浮かぶ表情は……深い悲しみだった。


「じゃから、妾はみんなで外に出て、自分たちがどんな存在なのかを知りたいのじゃ。この島に手がかりはなくとも、外にあるかもしれないのじゃ」


 しかし、次には真剣な表情になり、確固たる意志が感じられた。


「頼む。お主は、これまで出会ったどんな人間よりも強く、頭がいい。もし剣が抜けなくとも、どうすれば良いのか考えてくれぬか?」


 そう言って頭を下げるトウカ。


 こんなに真剣に頼まれちゃ断るわけにもいかないな!


「いいぜ。代わりにこの島の絶景スポットを教えてくれ」


「……そんなのでいいのか? どうやって抜けばいいのかわからぬのじゃぞ?」


「おいおい。俺は一国を支えていた男だぜ。それくらい楽勝よ」


 笑って、自分の胸を叩く。


「……ちなみに、他の三人も出たいと思っているのか?」


「それはわからぬ。これは妾の個人的な願いじゃ。皆で行けたら嬉しいが、本人の意志を尊重するつもりなのじゃ。まだ伝えてもおらぬ」


「そうか。それは良かった。みんなの意見なのにお前にだけ頼ませるような奴らなら断ってたぜ」


 まあ、そんな奴らじゃないのはなんとなくわかってたけどな。ミノリとはあんまり喋ってないけど。


「……と、薪を足さないと」


 火が小さくなった焚き火に枝を追加する。

 すると、当然の如く火は強くなった。


「……火はすごいな」


「え?」


「いや……火は消えかけても、薪を足したりすることでまた強く燃え上がる。そして、また俺たちを温め、照らしてくれる」


 宮廷に居た頃は、火なんて料理位でしか使えないと思っていた。エアコンを創ってからは特に。


「俺も、例え失敗したとしても、この火のように何度でもリトライしてやる。だから、俺に任せておけ」


「ああ……信じるのじゃ」


 俺の実績なんて何も知らない彼女が、それでも俺を信じてうなづいた。


 これは期待を裏切れないな。


「ありがとうなのじゃ、クウガ」


「どういたしまして」


「うむ……そろそろ朝じゃの。イズミはああ見えて早起きじゃから、すぐにうるさくなるぞ」


 日が昇る。

 それは、お天道様という言葉の通り、確かに神々しかった。


 それでも、まだ少しだけ薄暗く、ほんのりと残った影を焚き火が照らしていた。

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