9話:麒麟児、親の愛情に感動する
タイトルの『もう遅い』の部分を『困ります』に変えました。こっちの方がクウガっぽいので。
「『クリエイトクロス』」
「「「「おー」」」」
錬金術で服を創る。
全裸でいるのも乙なものだが、さすがに気温とウィルス的に服は着た方がいいだろうという結論に達した。
「意外と服もいいものじゃな」
トウカたちは俺とは逆の感想で、服に感動していた。
ペットに服を着せるのはストレスになって良くないと聞くが、彼女たちは違うらしい。人形態だからだろうか。
「そういえば、クウガは剣は持たないの?」
「剣? あー剣ね……」
「うん。ボクと戦った時は使ってたじゃん」
確かに俺は魔術と同じくらい剣を使いこなせる。
でも剣はなー……。
「剣は嫌いなんだよ」
それに俺は島流しにされたから、宮廷時代に使っていた剣は没収されてしまった。
錬金術で作った剣よりかは、やっぱり鍛冶師が作ってくれたやつの方がいい。
俺が知ってる最高の錬金術師なら魔剣レベルのを量産できるけど、そこまで錬金術得意じゃないし。
ちなみに島流しされたことは彼女たちに言ってない。
俺は俺のマイナスになる情報は流さない!! もし知られても、調査できたとかそんなかんじで誤魔化す!!
「えー? なんで?」
「なんでって……なんでだろう」
そう言われれば不思議だな。
まあ、魔術とは違って剣術はいきなりできるようになったからな。
小さかった頃は剣術の指導係にボコボコにされたせいで苦手意識があるし、できるようになってからも謎に急激に伸びたせいで気味が悪かった。
「そんなことどうでもいい。早く行こう」
「それもそうだね。どうでもいいことだった」
「もうちょい俺に興味を持ってもいいのよ?」
カザネが急かしてきたので、早速湖に向けて歩き始める。
「この服ってクウガがデザイン決めたの?」
「まあな」
「意外とセンスいいんだね」
「ありがとう」
王族であるエディタに贈るプレゼントには服もあったしな。服というかドレスだけど。
それを見繕うのに流行の服装とか勉強してきたからな。
にしても、よくデザインなんて言葉知ってたな。魔物は裸だから使う機会なんてなさそうだけど……魔物のことわからねえ~。
「街に行けばもっと良いのいっぱいあるぞ」
「本当!?」
うお……ビビった。
イズミが瞳を輝かせてずいずいっと身を乗り出してきたので、その圧に押されるようにのけぞってしまった。
「お前……あんなに服は嫌いって言ってたのに……」
「だって着てみたら意外と良かったもん! かわいいし!」
「そうじゃな。やはり先入観は取り除くべきじゃ」
「で、ですね!」
「私はどうでもいい」
「なるほどな。俺はお前らに服の魅力を教え、お前らは俺に全裸の魅力を教えてくれた。お互いに新たしい発見をし、成長できたというわけか」
「そういうこと」
これがWin-Winな関係というやつか。
そんな風に助け合いの素晴らしさに感動していると、グ~という音が聞こえた。
音の方に顔を向けたら、ミノリが恥ずかしそうにお腹を押さえていた。魔物でもそれは恥ずかしいんだ。
「す、すみません……」
「先にご飯食べるか」
もうお昼ぐらいだし、朝何も食べてないし俺もお腹空いてたからちょうどよかった。
風魔術で周囲の動物を探ると、丁度一匹で行動している獲物を感知した。
他の四人に伝えて、極力音を立てないようにして近寄る。
さーて、どんな獲物かなっと……
「――ブー」
「……うり坊?」
そこにいたのは猪の子どもことうり坊だった。カワユス。
「あちゃー。これじゃあ全員分は無理だね」
「うん。とりあえず、ミノリが食べる?」
「え? い、いいんですか?」
「怖っ!!」
えぇ!? こんな可愛い動物を食おうとしてんの!?
そ、そんな……こんな天使みたいな動物を……でも、猪って美味しいし、うり坊も美味しいのでは?
「ブヒィ!!」
「ぐはあっ!?」
俺が葛藤していると、後ろから大きな猪が猛突進してきた。
大きな猪は本当に大きかった。五メートルは超えている。
「親……か?」
あの小さいうり坊がこんなに大きくなるなんて……ショックだ。
それにしてもあのひよこと言い、この島の魔物は未知の種類ばかりだな。
「ジャイアントボアの成体だ! やった!」
この猪は余程美味しいのか、イズミが嬉しそうにジャンプする。
確かに猪系は狩りで人気の魔物だ。ということは、やっぱりこいつの味も良いのだろう。
「ブヒー! ブヒィ!!」
しかし、そう簡単に食べさせてあげるわけないでしょと言わんばかりに、ジャイアントボアは威嚇してくる。
その瞳に恐怖の色はなかった。
「ミノリ!」
「は、はい! 『岩葬』!」
「ブヒィ!?」
でも、さすがはこの広大な自然にもまれてきた野生児たち。ミノリは何の躊躇もなく魔術を行使し、ジャイアントボアを岩の雪崩が襲う。
それだけで死にかけ、もう立ち上がるのもままならない様子だ。
「これが自然の掟か……あ?」
弱肉強食。
恐ろしい命の連鎖を実感していた俺は、しかし、言葉を失ってしまった。
「ブ、ブヒイ……!」
なんと、親だと思われる猪は、死の直前でありながらも子どもであるうり坊を護るために立ちはだかってきたのだ。
これが親。
死という根源的恐怖すらもはねのける愛の力。
これこそが生命の神秘ではないか。体を解剖したりだとかではわからないことだ。
涙で前が見えなくなった。
感動した! 彼らは見逃そう!!
涙をぬぐって、そう提案しようと四人の方に向くと――
「いやー。やっぱり、ジャイアントボアはいい匂いがするねぇ」
「わくわく」
「もうお腹が減ったのじゃ」
「お、美味しそうです!」
「いや! 血も涙もないのか!?」
既に四人はジャイアントボアとうり坊を丸焼きにしていた。
これが野生……おそろしい!
…………でも、ジャイアントボアの丸焼きは美味しかった。
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