8話:麒麟児、手紙を読む
新しい扉を開いてから数分後、全裸になった俺に全裸の美少女たちが頼み事について教えてくる。
「一つ目なんだけどさ。これを読んでくれない?」
青龍たち四人が同じ見た目の羊皮紙を渡してきた。
古ぼけた羊皮紙には珍しい文字で彼女たちに宛てたと思われる文が書かれている。
手紙のようだ。
「これは?」
「さあ? なぜか、最初から持ってたんだよね」
「最初からって……産まれた時からか?」
だとしたら魔物が書いたとか?
いや、それにしたってこの文字で書く意味はないしな。
「産まれた時? さあ、どうだろう?」
「妾たちには昔の記憶がないのじゃ」
「うん。記憶ない」
「わ、私もです……」
「おいおい。ボケてんじゃねえか」
まあ、エルフみたいな長寿な種族には幼かった頃の記憶がないっていうのは普通らしいし、もしかしたら彼女たちもめちゃくちゃ年寄り……これ以上、考えるのはやめておこう。
「それにしても、これよく読めたね」
「俺は頭がいいからな」
「これ、他の人間たちにも読んでもらったけど誰も読めなかったよ」
綺麗に俺の自慢を無視された。「キャー! すごーい!」くらいは言ってくれても良いと思う。
「この文字は公用語じゃないしな。学者くらいしか読めない」
「そうなの?」
「ああ。ずっと昔の勇者っていう英雄が使ってた言葉で、ニホン語っていう文字だ」
「ニホン……」
『ニホン』という言葉に反応した四人が突然、涙を流し始めた。
え? なになに?
全裸の少女が泣いているのを見るのってこうわりと……うへへへ。
「……なんて書いてあったの?」
泣き止んだ白虎が聞いてくる。
「ごめんなさいとか謝罪が多いな。あとはそれぞれの思い出とか……あ、でも、お前らの名前と思われるものがあるぞ」
「名前?」
「ああ。もしかしたら、お前らをテイムしてた従魔師が書いたものかもな」
俺はしなかったが、通常、テイムされた魔物には名前を付ける。他の同種族の魔物と差異をつけるためだ。
そういや、俺はなんでしなかったんだろうな。昔は面倒だと思っていたのだろうか? 面白そうなのに。
まあ、今となったら詮無きことだ。
どうせ、他の従魔師がつけ……あの人たち、ちゃんとテイムできるかな。できなかったら困ることになるんだけど……。
引継ぎとか一切してないし……こういうところがダメで追放されたんだろうな。社会性がなかった。
だからこそ、俺はこの自然の中で暮らすんだ! 人間社会は俺には狭すぎた!!
そう決意した俺は彼女たちの方に意識を戻す。
「青龍がイズミ、白虎がカザネ、朱雀がトウカ、玄武がミノリって書かれてる。こっちの方が呼びやすいし、今後はこれでいかせてもらうわ」
全員、ちょっと珍しい名前だ。
西方のとは違って東方系の語感だ。俺のクウガもそうだけど。
「……ありがとう。リーダー。呼び方もそれでいいよ。むしろ、そっちの方が懐かしい感じがする」
「そういや、そのリーダーっていう呼び方なんなんだ?」
「……さあ? 自然に出てきただけで、べつにこれといった意味はないけど」
リーダーが自然と出てくるって中々特殊だな。
俺の人生で数えられるくらいしか言ったことないぞ。リーダー。
「できれば変えてくれないか?」
「べつにいいけど……」
「悪いな。普通にクウガでいいぞ。グロタニカは言いにくいだろうし」
なぜかリーダーって呼ばれるの嫌なんだよな。理由はよくわからないけど。
「で? お前たちの一つ目の頼み事は終わりか?」
「うん。ありがとうね!」
「ありがと」
「感謝するのじゃ」
「あ、ありがとうございました!」
無事に終わって良かった。
まあ、アルチェアにいた頃みたいに、これをやれあれをやれじゃなくて簡単なのものだったしな。
「そういや、なんでお前たちは俺に戦いを挑んできたんだ?」
手紙を読むだけなら戦闘力を計る意味はないはずだ。
それでも、彼女たちは戦いを挑んできた。そこには理由があるはずだ。
……めちゃくちゃヤバい戦闘狂っていう可能性もあるけど。
まあ十中八九、二つ目の頼み事に関係するんだろうけど。
「クウガは中心にある湖を知っているかの?」
朱雀改めトウカが尋ねてくる。
「知ってるも何も、イズミが来なかったら行くつもりだったよ」
早く行きたいな。
湖なんて水質検査くらいでしか関わってこなかった。それも魔術で測っただけだ。
どんな魚が住んでいるのか、どんな風が吹いているのか、知りたいことはたくさんある。
「それが?」
「じ、実はそこの真ん中に剣が刺さっているんですけど、クウガさんにはそれを抜いてほしいんです!」
「剣を?」
なんだその妙な依頼。戦闘関係ないじゃん。
次話は王国視点になります。
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