戦いの日々
ドサリ、とヘビの頭が倒れて落ちてくる。本日五……いや六匹目。その向こうには三頭目となった狼。
ちょっと脚を伸ばしただけでコレだ。一体どうなってるんだと言いたいが、おそらく狼とヘビ、それぞれをまとめていた個体がいなくなったので、それぞれが好き放題に動いていると言うことなのかも知れない。おそらく、俺に勝てば蛇の中でリーダーになれるとか思ってるんだろうか。
「はあ……」
とりあえず石を回収して食べる。少しでも強くなっておくのは大事だからな。
そして石を食べ終えるかどうかと言うタイミングで、近くで足音。狼だ。姿を現すなり口を開いて食いつこうとしてくるのでそのまま撃ち込む。学習しろよと思ったが、前に襲ってきたのは倒したんだっけ。
これはもう、あの熊と戦って勝って、正式にこの森のボスになった方が楽なんじゃ無いかと思い始めている。あの熊と戦って勝てるかというとそれは確かに難しいけど。
現在のスキルは飛針が七、針強化が二。今日の戦闘でスキルポイントが四たまっている。針強化を上げてもいいのだが、一つ疑問に思ったことがある。俺の針、生えてきてるのか?ここ数日、景気よくポンポン撃っているのだが、大丈夫なのだろうか。
少し足を止めて、スキルウィンドウを開く。
針回復速度向上
飛ばした針が生えてくる時間を短くする。一レベル毎に5%。最大レベル10。
そもそも飛ばした針が生えてくるのにかかる時間がわからない。だが、もしも……もしもだ。針が生えてくるのに月単位で時間がかかるとしたら、今のペースでポンポン針を撃っていたらやがて針が無くなってしまう。
針の無いハリネズミ……多分、地上で一番ダメな動物だろ。
とりあえず先のことも考えて針回復速度向上を二にする。これでしばらく様子見にしようと、目の前でガサリと草むらを揺すった相手に集中する。今度は何だろうか?
「疲れた」
巣穴に戻って一言目がコレ。前世のブラック社畜時代と一緒……では無いな。前世では家に帰ったら無言で倒れるように寝てたから。それに疲れたといっても、これは達成感のある心地よい疲れだ。ゆっくり休んで明日また頑張ろうって思える疲れなんて何年ぶりだろう。
外に出る度に戦う日々が始まって三日目。さすがに戦いを挑むのが無謀だと広まったのか、数は減ってきた。そろそろ打ち止めにして欲しいんだけどな。そして三日間でたまったスキルポイントを使い、現在は飛針七、針強化三、針回復速度向上三となっている。
そして、自分をよく観察してわかったことがある。針を撃つとゲージが減る、これはわかっていた。そして攻撃を受けたりして針が折れてもゲージが減る、これもわかっていた。
では、針はいつ生えてくるのか?割と簡単だった。リロードと同時に生えていた。つまり……針を撃つとゲージ、つまり体力を消費して針を生やす。針が折れた場合、勝手に抜け落ちてから体力を消費して針を生やす。つまり、ゲージはあと何回針を生やすことが出来るかを示しているものだった。まあ、俺の体力が尽きたら……例えば栄養状態とかひどい怪我とか、あるいは死……針は生えてこないのは当然だろうな。
そして、針回復速度向上は、この生えてくる時間を短縮する。そう、リロード時間が短くなったんだ。たった十五%しか減らしていないが、今までは十秒くらいかかっていた感じがするのでずいぶん短縮されたように感じる。ドンドン連射できるようになるな、これは。
と言うわけで心地よい疲れに、ストンッと眠りに落ちていく。そろそろ木の実と魚も飽きてきたから他の食べ物も探したいなあとちょっと考えながら。
おやすみなさい。
「食えそうな物って案外見つからない物だな」
少しだけ森に入って、何か食べられそうな物が無いか探索。必死に記憶を辿ってみたのだが、ハリネズミって……ミミズっぽいのとか、虫っぽいのも食べてたような気がする。つまり、俺もそう言うのが食えるだろうが、さすがに無理だ。食性ががらりと変わるほど、例えばアリクイなんかに転生していたら、諦めてアリを食ったと思う。だが、ハリネズミは雑食で色々食えるのだ。もちろん栄養バランスは大事だが、虫を食べるのは最終手段にしたい。
一応、そこらの草が食えないかと試してみたんだけどね。苦くてダメだった。
「はあ……」
余り上を向くことが出来ない体で上を見上げる。
「鳥」
針で撃ち落とせば、鳥が食えるな。あとは……
「!」
突然、周囲の音が消えた。わずかに聞こえていた虫や鳥の声が全く聞こえなくなった。
少し風が吹いて、草が揺れる。
耳が聞こえなくなったわけじゃ無い……これは……
「アイツが近くにいる」
逃げよう。
ファングとの戦いのあともたくさんの経験を積み、強くなったと実感しているが、あんな化物と戦えるかというと、無理だ。三十六計逃げるにしかず、君子は危うきに近寄らないのだ。
幸い巣穴が近いので、全力で戻り、巣穴の奥へ。穴は少しだけだが湾曲しているので、外から直接見えることは無い。ここに気付いていないのがベストだが、ここが巣穴だと気付かれても、いないと思って立ち去ってくれるだけで良い。
「この辺りですか?」
「うむ……いやもう少し南の方だったか……」
念話の二つの声が聞こえてきた。巣穴のすぐ近くにいるようで、その気配……というか威圧感のような物が巣穴の中まで伝わってくる。
絶対動くな、鼻も鳴らすな……あと、もよおすなよ……
「確かにこの辺りをファングはうろついていた。アレがこの近くにいる、俺はそう睨んでいる」
「フム……しかし、ちっぽけなハリネズミでしょう?放っておいても良いのでは?」
「そうもいかん。アイツを見たのは一度だけ。すぐにファングと戦いになってしまい見失ってしまったが……あれ以来ファングの姿が見えぬ。アイツが関わっている可能性は非常に高い」
「……ではもう少し南へ行ってみましょう。何か見つかるかも知れません」
「そうだな」
土を踏む重量感のある足音が去って行く。やれやれ、なんとか見つからずにすんだ。
だが、危機が去ったとはとても言えない。何が何でも、しばらくこの辺を見回り、徹底的に探す、という意志を感じた。
どうしよう……
どう考えても、アレに勝てる絵が見えない。理由は簡単。ハリネズミの針は熊には通用しないのだ。だって、せいぜい長くて三センチくらいしか無いんだよ?どう考えてもあの分厚い毛皮を撃ち抜けると思えない。もっと強くならなければ……と言う発想の時点で普通のハリネズミじゃ無くて、魔物カテゴリなんだろう。だが、それならなおさら強くなって、アイツに勝とう。今すぐじゃ無くて良いんだ。じっくりと力を付けてやる。
そう考え、出来るだけ巣穴の奥へ行き、眠ることにした。寝るにはだいぶ早いけど、アイツが近くにいるんじゃ動き回るには危険だからね。
翌朝、いつもよりも早く目が覚めた。警戒しながら外の様子を確認してみたが、熊の姿は無い。よし、いつものように朝食にしよう。
木の実と魚を食べて――よく考えたらこれもハリネズミの食事とだいぶかけ離れてるよな――今日は北の方へ。南の方は熊たちがいる気がしたから。川の上流へ向けて歩いて行くと、意外にもいつも食べている木の実をたくさん実らせた木をあちこちで見かけるようになった。この辺に多いのかな。巣穴からそれほど離れていないので、これなら食べるに困ることも無いだろうと、ちょっと安心。
歩いて歩いて……日が暮れる頃に巣穴へ戻った。なお、本日の戦闘回数は七回。この森、結構生き抜くのが大変な場所なのかも知れない。スキルが無かったらとっくに死んでたね。
巣穴の奥で欠伸をして、少しだけ考え事。
そもそもなんでこんな所にいて、命がけの生活をしているんだろうか?
前世のサラリーマン生活も、超ブラックで、決して健康的な生活は送れていなかったが、命を狙われるような心配は無かった。だが、今はどうだろうか?食事的な意味では健康的と言えるかどうか微妙なライン。だいぶ栄養が偏ってる気がする。そして、文字通り命を狙ってくる相手がいる。信じられないほどに危険な世界だ。
転生――と言って良いんだろう――が神の意志によってなされているとしたら、神は俺に何を期待しているんだ?
考えてるだけ無駄かなと思い、目を閉じる。
ああ……ビール飲みてえ。焼き鳥食いてえ。
……と言うか、火を通したものって食ってないよな。それに当たり前だが味付けもしてない。素材の味とかどうでも良いから、塩とかタレとかそう言う味が欲しい。それに正直なところ、生の魚は食い応えがあるだけで、味はひどいんだよ。生臭いし。
そんなことを考えているうちに眠りに落ちていった。
翌朝、目が覚めると雨の音がしていた。
巣穴から顔を出すと……うん、人間だった頃はほとんど何とも感じなかった雨粒だけど、顔に当たると結構痛いよ。すごすごと中に戻る……わけにいかないんだなこれが。雨水が巣穴に流れ込んでいるんだ。
そして、奥の方で水が溜まって……色々とアレなものと混じり合ってひどい臭いになってる。ぶっちゃけ、今朝は水の冷たさとこの臭いで目が覚めたんだからな。
寝る時以外は出来るだけ巣穴の外にいたのだが、さすがにもうこれ以上この問題を先送りは出来なくなったな。先送りは日本人の美徳なのに……違うか。
仕方ない、巣穴の拡張工事をするか。
巣穴の形は、ただ単に穴が開いているだけ。まっすぐな穴になっていないので、外から丸見えになっていないという程度。
そして、途中に横穴を掘りかけてやめたような跡がある。……そこは、掘っておけよ。
水がチョロチョロと流れてくる中、横穴を掘り始めることにする。
少しだが、水を含んでいるので土が軟らかくなっていて掘りやすい……気がする。だが、すぐに硬い土にぶち当たったので、針を撃ち込んでみたら粉砕する勢いで穴が開いた。……これでいいんじゃね?
ドンッ、ドンッと何発か撃ち込んで土を掻き出す、撃ち込んで掻き出す。思ってたよりも早く穴が掘れた。もっと早くやっておけば良かった。
穴の奥に溜まったアレを土で埋めたら臭いはかなりマシになったし、横穴になったから雨水も入ってこない。ちょっと快適かもね。
手足を踏ん張ったり転がったりしながら壁を踏み固めて、リフォーム完了。
雨が止む気配もないし、今日は飯抜きにして寝るかな……寝てばっかだけど。
変な時間――というか昼前だな――に寝たせいで、目が覚めたのは夜だった。雨は止んでいて、外に顔を出すと雲一つ無く晴れ渡った星空が見えた。
「腹減った」
何も食ってなかったからなと、木の実を採りに行く。
いつもの要領で実――というか枝――を撃ち落として、食べ始める。今日は魚はいいや、と実を三個食べた。実の味が甘みを増してきているので、熟してきているのだろう。と言うことはもう少ししたら食べられなくなるのか?
剣に食糧探しをしないとダメか。
と、背後に足音が聞こえて慌てて振り向く。
狼がいた。だが、こちらに襲いかかる様子もなく、ただじっとこちらを見つめている。そんなに見つめるなよ、照れるじゃねえか
念話オン。
「何か用か?」
「……念話ができる、か」
その声は前世の俺のじいちゃんのようで……よく見ると、毛並みにツヤが無く、全体に弱々しさを感じる……年老いた狼か。
「念話は……ファングが寄越したスキルだ」
「そうか」
狼は夜空の細い月を見上げてこう言った。
「ファングを殺したのはお前か?」
「!」
「お前なのか?と聞いているんだが」
「……そうだ」
「そうか……聞くが、何故殺した?」
何故、ときたか。答えなんて決まってる。
「理由は簡単。ファングは俺を食う、と言って襲ってきたんだ。死にたくないから戦って、そして勝った。それだけだよ」
「そうか……」
そう呟きこちらをじっと見つめてくる。
「ファングは傲慢なところがあってな」
「ん?」
なんか語り始めたぞ。止めてくれよそう言うの。
「幼い頃より才能あふれる狼だったが、成長にするにつれてドンドン強くなり……自分こそがこの世で一番強いと思っているのではと言うくらいに、己の強さに慢心していた」
「へえ」
ぶっちゃけどうでも良い。
「だが一方で、面倒見の良い奴でな。頼ってくる者は片っ端から己の配下とし、厳しく鍛える一方でやさしく守りながら育てる……我ら狼のリーダーとしては申し分ないほどの者だった」
「そうか……殺してしまってすまなかったな。じゃ、そう言うことで」
「待て。話はまだ終わっていない」
いや、俺の中では終わってるんだが。
「別に、お前をどうこうしようと言うわけでは無い。弱肉強食は森の掟。どんな形であれ、お前がファングに勝ったのは事実。戦ったことにも勝ったことにも文句を言うつもりは無い」
「それなら話すことなんて何も無いだろ?」
「いや、ここからは、さらに先の話だ」
先って何だよ!




