駆け出し冒険者(3)
「なあジェフ」
「ん?」
「このハリネズミだけどさ」
「ああ」
「絶対俺たちの言葉、理解してるよな?」
「多分な」
「使い魔って言ってたっけ?」
「ユニスが言ってたな」
「俺、使い魔って猫とかコウモリを想像してたんだけど」
「あ、俺も俺も」
「だよな、ほら、あの絵本、なんて言ったっけ……」
「えーと、アレだろ、あの表紙に……」
お前らいい加減に寝ろよ。あんだけヘロヘロになっていたんだろ?しっかり休むのも必要なんじゃ無いか?と思ったが、何故か流れが恋バナっぽくなってきたので思わず聞き入る。
「でな、カーラがこう言うんだ……」
「そりゃお前……」
そうか、ジェフはカーラのことが……へえ。
……どうでもいい。俺、人間じゃ無くてハリネズミだし。
でも、二十歳になるかどうかという男二人が、どんなのがタイプだとか、デートに誘うタイミングだとかで盛り上がっているのは見てて微笑ましいけどな。
ちなみに女性陣の部屋は階も違うので、聞き耳を立てても聞こえません。
残念。
「考えたんだけど」
「うん」
「聞き込みは多分無理だわ」
「そんな気はしてた」
翌日の朝食時にカーラが言う。ちなみに俺の前には何かの豆を煎ったようなのを入れた皿が置かれている。味は悪くないが、栄養バランスが偏りそうだな。
「俺たち駆け出しだからな」
「色々聞いて回ろうとしても無理がありすぎるよな」
「そこで考えたんだが」
カーラが息を潜め、全員が顔を寄せる。釣られて俺も。
「ダンジョンへ行こう」
「ダンジョンへ?」
「ああ」
はて、どういうことだろうか?
「こいつがそのリディってエルフの使い魔だとして……使い魔って魔術師にとって、重要なんだろ?」
「そうね。親兄弟、親友、恋人並みに」
ユニスが拙い魔術師知識を引っ張り出して答える。
「で、このハリネズミはあのダンジョンにいたんだが、多分私たちと同じように罠にはまって、このハリネズミだけ残してどこかに転移しちゃったんじゃないか?」
「おお」
「で、とりあえず街まで行けば何とかなると考えたのかも知れないが、街にエルフがいる様子が無い」
「まあ、そうだな」
「そのエルフ、ダンジョンをさっさと出ようとして、なんかのトラブルがあってまだダンジョンにいるんじゃ無いか?」
「おお」
「それはあり得るな」
「かなり深くに飛ばされて思ったよりも出るのに時間がかかってるって事か」
「でもさ、俺らがダンジョンに行ってどうするんだよ。一層よりも深くに行くのは無理だぜ?」
「そうだな。いくらこのハリネズミが強いと言っても、頼りすぎはよくない」
「その辺は考えてあるよ」
カーラがダンジョンまでの間に説明した内容は実にシンプルだが、リディがダンジョンに入っているとしたら、確実にリディに出会えそうな方法。
あのダンジョンは入り口からしばらくの間、くねくねと曲がりくねった構造になっていて、最初の分岐までが結構長い。そして、最初の分岐までの間でも鼠や兎といったこの四人でも対処出来る魔物やそこそこ売れる薬草なんかが採取出来る。外で待っていたら時間の無駄だが、中で狩りや採取をしていれば収入にもなる。おまけにリディが行き来するなら必ず通る場所でもある。
カーラは意外にも頭脳派だった。人間、見た目で判断しちゃダメだな。
ダンジョンの中では四人はそれぞれ役割分担をしながら狩りや採取を行う。ギルとカーラが主に鼠や兎の相手、ジェフとユニスは解体や薬草の採取だ。
と言っても、それほどたくさんの魔物が出るわけでも無く、薬草もまばらだし、移動出来る範囲がかなり限定されるので……ぶっちゃけ暇。
俺が。
さすがに彼らも鼠や兎相手に後れを取るようなことも無いから、戦いのフォローは要らない。解体は出来ないし、薬草採取もハリネズミの前足ですることじゃ無い。そして、鼠や兎も魔石が出るんだが、小さい。そして、小さくても四人の貴重な収入源だからさすがに食べるのは忍びない……と言うか、食べてもゲージが伸びるとは思えないし。
そんなわけで俺の居場所は、ユニスの降ろしたフードの中……になるかと思ったのだが、思った以上に針が刺さって引っかかるという理由で、小さい袋に入れられて、ユニスが首から提げている。四人の中で一番動きが少ないからというそれだけの理由。ま、俺としても剣を振り回している二人とか、ジェフの首から提げられて、「ホレ」と狩られた魔物を目の前に突き出されるよりマシだろうと考えている。
なお、ユニスはリディよりも出ている方だが、金属をはめた胸当てをしているのでちっとも楽しくないことだけ添えておく。
それにしてもダンジョンって不思議だな。入り口から最初の分岐まで三回程往復しているのだが、採取したはずの場所から薬草が生えてきているし、魔物もいつの間にか歩いている。
ま、ゲームみたいなもんだと考えておこう。彼らも何の疑問も持ってないようだし。
そうしている間にも、結構な数の冒険者たちとすれ違う。顔見知りも何人かいるらしく、時折「実は頼みがあって……」とリディを探していることを伝えている。と言っても、四人の知り合い=駆け出し同然。それほど強いわけでも無いから、せいぜい二層までしか行けないのであまり期待はしないでおこう。
「ああ、もう……邪魔!」
オーガの群れに風魔法を叩き込み、わずかにこちらに向かってきた相手は短剣でスパッと喉を切り裂く。ダンジョンという狭い空間では弓矢は扱いづらいし、矢を使い切ったときに困るので、そんな戦い方を選択し、リディはさらに奥へ進む。
「一番浅い階層から階層ボスがいるダンジョンってのも結構珍しいけど、階層が進んでもあまり魔物が強くならないダンジョンってのも珍しいんだっけ?」
あまりダンジョンを探索した経験は無いので、その辺の知識には疎い。
「そろそろ十一層につきそうなんだけど……ユージ!どこにいるの!」
単純な戦闘力で言えば、一流冒険者クラスのリディだが、さすがにそろそろ戻らないと食料が心許なくなってきた。
「もしかして、オーガに食べられちゃったとか……ううん、ユージの針を噛み砕けるわけ無いわ」
そのあたりの分析は正確なようである。
日が暮れる頃になるとダンジョンから引き上げる。
ダンジョンから街まではのんびり歩いて一時間弱。夜になるとダンジョンの魔物が強くなるとか言うことは無いが、大した距離でも無いのにわざわざダンジョンの中で野営する意味は無いし、他の冒険者からの情報収集も兼ねて街へ戻る。
鼠や兎――皮や肉が常時買い取りだそうだ――に、薬草を納品すると、お金と評価ポイントになる。
一層で集まるものなんてたかが知れてるが、塵も積もれば。大体このペースでやっていくと、Dランクに上がるには一年ちょっとかかるらしい。
現状、ユニス以外の全員、防具がケイブベアとの戦闘でボロボロなので、贅沢はせずにしっかり貯金して、装備を整え直すのが当面の目標。
実に堅実な四人だと感心した。
翌朝、朝食のためにギルに連れられてギルドの一階に降りると、昨日よりも大勢の冒険者が受付前でザワついていた。普段ならもう良さそうな依頼を見つけてギルドから出ているはずなのに。
「何だろう?」
「ん?アレ?アレ見ろよ」
「アレって?」
「依頼を貼り出している掲示板」
ジェフが示した先、いつもたくさんの紙を貼り付けてあった掲示板には何も貼られていなかった。
受注しようと思った紙を剥がして受付に出すのだが、常設依頼――鼠や兎、薬草採取など――を剥がすことは無いなので、ちょっと変だ。
受付の方を見ると、三つある窓口全部で冒険者の応対をしながら何かを必死に書き付けている職員たち。
「とりあえず……朝メシ?」
「だな」




