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  作者: ひじきとコロッケ
森の生存競争
12/55

正攻法など知らない

「ところで」

「何だ?」

「名は何という?貴様ほどの強さの者、倒した後に名も知りませんでしたでは格好が付かぬ」


 ノエル、最初に出会った時の口調で話してるけど、大丈夫かな?


「名か……シンタだ」

「そうか……我が名はノエル。冥土の土産に覚えておけ」


 シンタ?変な名前だな……シンタ……ま、いいか。


「俺はウミグモだ……まあ、どうせ死ぬんだから関係ないだろうが」


 もう一頭が聞かれてもいないのに答えた。ウミグモ……はて?


「おしゃべりはここまでだ!」


 叫ぶと共にシンタがノエルに向けて突進する。確かヒグマの走る速さって時速五十キロ以上。なるほど確かに早い。だが、いきなり最高速度になるわけではないし、この程度の広さの窪地では最高速度になる前に端から端まで達してしまうはず。

 一方のノエルは身の軽さを十二分に活かして軽やかに逃げる。地面から窪地の壁に、壁から地面に。とても熊には出来ない動き……ただし時間制限あり。


「おのれ、ちょこまかと……おい」

「ええ、お任せを」


 少しだけ位置をずらし、二頭が同時にノエルに向かう。それも速度を少し落として。これならノエルの動きについて行きやすいだろう。ノエルも二頭同時に戦うのはきついし、動ける範囲もかなり制限されるのはかなりマズい。熊たちの狙いとしては正攻法だ。そして、俺たちにとっても予想していたパターンの一つ。そしてベストなパターンだ。




「アイツらとの戦いになると、最初はノエルだけで戦うことになる、これはいいな?」

「いいわよ」

「その時、一対一と、一対二、どちらがいいと思う?」

「一対一でしょ。さすがに熊二頭同時はきついわ」

「そうだな……だが、今回に限り、一対二の方がいい」

「何で?」

「それはな……」




 位置取りは完璧。後はタイミングだが、一発目は俺がノエルに合わせることにしているし、ノエルは俺の位置を把握しながら動いている。そして、ノエルの最初の攻撃。まさに飛びかかってきているウミグモとか言う奴の真正面、ギリギリの間合いに踏み込む。


「狼の乱撃!」

「なっ!」


 飛びかかろうとジャンプしたウミグモがピクッと空中で一瞬体を強張(こわば)らせた。おそらくそのスキルに聞き覚えがあるのだろう。そして侮れない危険なスキルだと言うことも。


 だが、実際にノエルが使ったのは『ごろごろアタック』だった。スキルは別に名前を叫んだりしなくても使えるし、叫んだ物と違うスキルだって使える。と言うか、そもそも念話でスキルの名前を叫んでる時点で色々おかしいのだが、相手が転生者、しかも元日本人なら、叫んだ技名がそのまま来るはずと言う呪縛にとらわれているはずだ。


 ごろごろアタックは狼が何故か丸くなって、前転しながらゴロゴロと突進して体当たりするというロマン溢れる攻撃である。まあ今回の場合、飛びかかろうとジャンプしたウミグモの真下をゴロゴロと勢いよく通過するだけだが。


「は?」


 意味がわからないというふうにポカンとしたまま着地するウミグモ。そして、真正面からその両目に俺が針を撃ち込んだ。丁寧に二発ずつ。


「グアッ……目、目が……目があっ……」


 お前、それ以上は色々マズいぞ。

 そもそも生きるか死ぬかの戦いの最終に、ポカンと間抜け面を(さら)すこいつが悪いんだけどね。


「チッ、そこにいやがったのか!」


 シンタがウミグモを無理矢理押しのけて突進し、俺のいた(・・)場所を前足でえぐる。いつまでも同じ場所にいるわけないだろ。ってか、お仲間を蹴り飛ばしてるけどいいのか?



 そもそも、ここで戦おうと決めた時に色々と細工をした。ポイントはニオイ。狼はもちろんだが、熊も相当に鼻がきく。だから、俺が隠れていてもすぐにバレるだろう、と。ならば、俺のニオイを消すか、他の何か……欲を言えば、周りと同じニオイになるように上書きすればいい。

 ニオイを消す方法が思いつかなかったので、上書きすることにした。




 まあ、アレだよ。ニオイをまき散らしたんだよ。この窪地のあちこちにニオイを付けて回り、さらに俺を隠すために俺にも同じニオイを付けたんだよ。え?誰がどうやってニオイを付けたのかって?……ノエル以外に誰がいるんだよ……「なんか、大人の階段登った感じがした」とか言ってた。しまいには「これってもしかして、高いオプション料金?」とか言い出した。どこでそう言う知識を得たんだか。


「あ、私中学生だったから、これってJCの「それ以上はダメだ」


 ……後でちゃんと体洗わないとな。


 まあ、そんなわけで俺の位置をニオイで探るのは難しい状況を作っているので、音にさえ気をつけて移動すれば、俺の位置がバレる可能性はかなり少ないだろう。そして、マーキングと同時に俺が移動する範囲の落ち葉とか全部片付けてあるから、音も出にくい。


「ぐぐ……シ、シンタ……奴は俺が……」

「お、おう……」


 シンタが一歩下がり、ノエルの方を向く。よし、狙い通り。この位置がいい。これならいける。

 あらかじめ入念に打ち合わせておいて本当に良かった。このパターンになったなら!


「行くぞ!」


 ノエルが駆け出すと同時にもう一度ごろごろアタックを発動。さすがに見たことも無いスキルで警戒したのか、シンタが一歩下がり、爪を立てて、迎撃態勢に入る。ま、俺としてもあのスキルによる攻撃力がどんな物か確認してみたいところではあるが、今は勝つことを優先。このスキルの最大の特徴……高速移動を使いたい。つまり……


「え?」


 シンタが目の前を通り過ぎるノエルに()けた声を出す。そりゃそうだ。目の前で急に方向転換していったら誰だってそうなる。

 そして、ウミグモのすぐ後ろでスキルを解除。すぐに狼の乱撃へ。

 この狼の乱撃(スキル)、ファングも使えたらしいが、ノエルの見立てではスキルレベルは二か三で威力がイマイチだったらしいが、ノエルはレベル十だ。どんなスキルか見せてもらった時はドン引きした。

 基本的に地面にほとんど着地することなく、空中でグルグルと回転しながら爪と牙で攻撃を続けるのだが、暴風雨のような勢い――ノエルの姿がタダの毛玉にしか見えないほどの速度で――で回転するので、太い木があっという間に幹をえぐられて倒れるほどの威力があった(・・・)らしい。今はその威力もだいぶ衰えて見る影もないのだが、見た目の派手さと爪の攻撃による鋭い痛みは健在。


「あぎゃ……うが……いてっ……ぐ……あ……」


 ケツを鋭い爪で叩いているのだから、そりゃ痛いよ。だが、痛いだけでその分厚い毛皮をえぐるほどの威力が無い。だが、それで充分。俺の目の前で間抜けにでかい口を開けたのが運の尽きだ。


 ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!


「が……」


 ドサリ、と倒れた。同時にノエルのスキルも終了。すぐに距離を取る。


「何!バカな……」

「く……か……」


 口の中から頸椎を貫いたはず。さすがにこれで終わりだろう。そして、一つ、いや二つ思い出した。


「ウミグモって……海雲だよな……モズクじゃん!」

「ぐ……そ、そん……な……」


 ウミグモ……もとい、モズクは動かなくなった。


「貴様!」


 シンタが怒りを(あら)わにし、こちらに歩み始める。俺の目の前でノエルが身構える。だが……


「シンタって……心太……トコロテンじゃん!」

「な……」


 心太が足を止める。


「念のため聞くが……お前ら元日本人だな?」

「……貴様らも、か……?」

心太(しんた)海雲(うみぐも)も、本名か?」

「ああ」


 ノエルとは別系統のキラキラしちゃってる名前だったか。


「二〇XX年十二月X日、○○駅」

「!」

「一応聞くが、お前らはいつ『こっち』に来た?」

「……一年くらい前だ」

「そうか」


 この違いは一体何だろうか?思わず思案しかけたところでノエルがずいっと一歩出る。


「さて、モズクを倒しておいて言うのも何だが、我らと共に来ないか?」

「共に?」

「どうも、日本からこっちに転生している者があちこちにいるようだ。何があったのか、興味は無いか?」

「無い。俺はこの力で壊し、殺し、食らう。それだけだ」

「そうか……なら、戦うしかないのだな」

「最初からそのつもりだぞ」


 はあ……何となくだが今の会話でわかった。こいつら……多分中身は子供、ノエルより年下かも知れない。それにしてもノエル、芝居がうまいな。


さて、こいつらが元日本人だとわかったが、中身が何だろうと容赦はしない。だから、こんな会話の間にスキルウィンドウを確認していた。やはり、モズクを倒したことにより、大量のスキルポイントが入ってきている。試しに針強化を五まで上げると……思った通り、新しいスキルが表示されてきた。しかも四つも。


 火属性付与

 針に火属性を付与する。

 攻撃力+10。

 最大スキルレベル10。

 スキルレベルが上昇すると、攻撃力が上がる。


 水属性付与

 針に水属性を付与する。

 攻撃力+10。

 最大スキルレベル10。

 スキルレベルが上昇すると、攻撃力が上がる。


 風属性付与

 針に風属性を付与する。

 攻撃力+10。

 最大スキルレベル10。

 スキルレベルが上昇すると、攻撃力が上がる。


 土属性付与

 針に土属性を付与する。

 攻撃力+10。

 最大スキルレベル10。

 スキルレベルが上昇すると、攻撃力が上がる。


 突っ込みどころしかないよ!

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