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バッドエンド

すべてに嘘をつきなさい。

作者: 佐田くじら


「あらまぁ。また戻ってきたの。酔狂ね、あなたは。」



 何の話?



「覚えてないのね、やっぱり。私の発案とはいえ、虚しいものね。」



 だ、か、ら。何の話?



「ま、いいわ。私も、あなたと同じ気狂いだし、私の飽きるまでやらせてあげる」



 ………は?



「ひとつ、約束。すべてに嘘をつきなさい。」



 普通、逆じゃない?



「ま、言う意味ないけどね。じゃ。」



 どういうこと?



「今生の別れを惜しむわ。”また”今度。」



 まって。ちゃんと、説明してよ。ねぇ!




☆٠☆٠☆٠☆٠☆



「ライ。ライちゃん。大好きよ」


「ありがとう、おかあさん」


 

 わたしはライ・アレフト。普通の、平民。


 前世の記憶を覚えてる。公爵令嬢だったこと。婚約者に断罪されたこと。


 それから、真っ白な、純白の幻想的な空間で、女性に会ったこと。



 彼女はあのとき、”すべてに嘘を”と言った。


 あのときは何を、と思ったけれど。



 私の身体は、真実を話すのに耐えられないようだ。


 真実を話そうとすると、頭が燃えるように熱くなる。


 耐えられなくて、私は倒れるのだ。


 不思議だ。私はなにかした?



 とにかく、それが分かって、私は真実を話すのをやめた。


 メリットが無いからだ。難しいときは、はぐらかす。


 私は、誰にも心を、開かない。開けない。


 

 私は、やむを得ず、あの女性の言うように。


 すべてに嘘をつき続けるのだ。




☆٠☆٠☆٠☆٠☆




 結果、私は嘘つきになってから、十五年を過ごした。


 何も難しいことはなかった。


 むしろ人を騙すのは、ある種、やみつきになる快楽性がある。



 最近、面白い男に出会った。


 冴えなくて、無能で、自信がなくて。当然、モテない男。


 私は前世と同じ美貌があるので、なかなかに美人なのだ。


 そんな、あの男をからかうのは、素直に楽しい。




☆٠☆٠☆٠☆٠☆



「好きよ、ルー・トゥルー。」


「や、やめてよ、アレフトさん。からかわないで」


「あら、本当のことよ。あなたが、好きよ。友人としてね」


「だから、やめて!」


 

 やめてと言いながら嬉しそうにする、彼の気持ちはわからない。


 けれど、彼をからかってると、温かい気持ちになる。


 懐かしいような、湯船に浸かるような暖かさ。


 古い祖先のような……原始的な、温かさ。


 もうずいぶん、こんなことは無かった。


 なにせ、嘘ばかりついてきたから。



 ……そう。わたしは本当は、彼なんか好きではない。


 彼のような取り柄の無い男、好きなわけがないだろう。




☆٠☆٠☆٠☆٠☆



「ライ。ぼ、僕と結婚して」



 予想はしてた。最近、やけになれなれしかったから。


 何てことを、してくれたのか。


 彼の分際で、わたしに求婚するなんて。



「………わたしの、どこが好きなの?」



 どうせ、顔だろ?



「君の……正直なところ」



 ……は?


 わたしは、彼の前で真実なんて、ひとつのカケラさえ、話してない。



「まっすぐに、好きって言ってくれた。僕を、今までたくさん………」



 …………………やめて。



「幸せにしてくれた」



 …………………………………………………。



「だから僕は。今度は君を、幸せにしたいんだ」



 は………はは。


 わたしの口は歪んだ。


 嬉しさから?


 まさか。


 

 呆れから?


 ………誰に?



 いや………身の程をわきまえない、彼への呆れだ。


 それ以外に、何がある。



「嫌よ。」



 わたしの言葉は、当然のものだ。


 なのに何故か、彼はうろたえる。



「なん、で?」



 なんで?


 それはこちらのセリフ。



「わたしはあなたとは、結婚しないわ」


「だから、どうして。あんなに、好きだと言ってくれたじゃないか」



 わたしは驚く。


 この男は、その場の言葉が、わからないのか?



「それとこれは、別。私はあなたが好きだけど、愛してはいない」



 ポロリと出た、本音だった。本音のはずの、言葉だった。


 なのに頭は痛まない。


 何故。



「嘘つき。」



 そう言って彼は、去っていった。


 ……何を、ヒステリイを起こしているのか。



「………そうよ。わたしは、嘘つきなのよ」



 嘘つきでいることが、わたしの宿命。


 さっきの言葉は失言だけど。


 私の言葉は、すべて嘘。


 支離滅裂な、世迷い言。



 だから、心がこんなに、ぐちゃぐちゃになることは、ないはずなのだ。


 こんなに涙が溢れることは、あり得ないはずなのだ。





☆٠☆٠☆٠☆٠☆



「そうしてライこと嘘つきは、嘘に疲れて、死にましたとさ。

 ちゃんちゃん。」



「自分の嘘に殺されるなんて、皮肉ねぇ。

 ま、元悪役令嬢サマにはお似合いのザマだけど?」



「結局、自分を殺せるのは、自分と運だけね。

 その点、病気と事故と自殺は同じなのよ」



「さ……わすれんぼうのお客様を、迎える準備をしなくちゃね」



「………私も、同様に酔狂ね。そして変わらず、嘘つきだわ」



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