表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君のうた  作者: 川野りこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/126

*番外編*誓いのキスを

第77話 三月二十八日、六周年ライブ後の出来事。和也視点のお話。

 ライブ直後の奏は……泣いていた。

 涙が溢れてきた理由なら、分かってる。

 あの曲を……観客が歌っていたからだ。

 初めて奏が作った曲を……


 慣れた手つきで彼女の涙を拭えば、控え室に戻るメンバーの背中に微笑んでいるようだった。


 卒業した直後のライブは、いつもよりも高揚感があるし、達成感もある。


 ーーーーここまで来たんだって…………一人でギターを弾いてた頃も、奏が入る前のインストも、すべてが今に繋がってるって思う。

 water(s)の音楽に、俺が生み出したい音に……反映されているから…………でも、同じモノは一つもない。

 五人全員、ようやく大学を卒業して……これからなんだ。

 叶ったような夢は、まだ足りない。

 ようやく理想のスタジオで、演れる所まで来たんだから……


 隣にいる彼女は、メンバーと楽しそうに笑っていた。その表情からは、もう一つのイベントをどう思っているか、読み解く事は出来ない。


 タクシーで区役所に向かう間も、奏の手を握っていた。

 親しい友人や音楽関係者にも伝えてあるし、結婚式まで一ヶ月を切ってる。

 ほんの少しは、バレてもいいって考えもあったかもしれない。


 職員が婚姻届と俺達をじっと見ている感じがしたけど、気にしてなかった。

 本名は非公開だし、おじさんだったから……気づかれてないと思ったんだ。

 リスナーの幅は広いけど……圧倒的に人気なのは、同世代から中学生くらいまでで、アニメやドラマ、映画の曲を手掛けた影響が、反映されているから……


 「おめでとうございます」

 「……ありがとうございます」 「ありがとうございます」


 奏の頬が緩んだ表情に、こっちまで緩んでいくのが分かる。

 癒されているんだ……いつだって…………


 何事もなく受理され、みんなの集まる焼肉店へ向かおうとしていると、背後から声をかけられた。


 「……ライブ、お疲れさまです」

 『ーーーーありがとうございます』


 二人で顔を見合わせて、ステージにいた時と変わらない表情で応えた。


 「……驚いたな」

 「うん……」


 親と同世代か……それ以上の人が、聴いてくれてるかはともかく、俺達を知ってくれている事実が嬉しかったんだ。

 受理された事を一瞬、忘れるくらいに……


 二人が打ち上げ場所き向かうと、既にほろ酔い加減の大翔と、いつもと変わらない圭介と明宏。そして、制作に関わったエンジニア等の多くのスタッフがいた。


 「二人とも、おかえりー」

 「ただいまー……hiro、大丈夫?」

 「大丈夫だって。それよりも!」

 『入籍、おめでとう!!』


 ーーーー圭介達が入籍したって、教えたのか……


 目の前にある大きなケーキには、HAPPY WEDDINGって、書かれてあった。

 懐かしい味のケーキのサイズ感に、特注してくれたことは明らかだ。


 周囲の祝福ムードに、奏は頬をピンク色に染めながらも笑顔で応えている。


 仲間に祝って貰えるのって、有り難い事だよな。

 区役所でも驚いたけど、周りに祝福して貰えるのって……結構、くるな…………

 人前で泣いたりはしないけど、それくらい嬉しかったんだ。

 泣けない俺の代わりに、奏が綺麗な涙をこぼしていた。

 仲間と抱き合う様子に、ヤキモチ的な想いはない。

 まったくゼロって、言ったら嘘になるけど…………奏と……入籍したんだよな……


 「miya、おめでとう」

 「佐々木さん、ありがとうございます」

 「miyaが所帯持ちかー」

 「ハセさん、今日もありがとうございました」

 「お疲れさま」


 俺達の周りには……幸運な事に、一流と呼ばれる人達しかいない。

 佐々木さんもハセさんも、デビュー当初から俺達の音楽に欠かせない人達だ。

 レコーディングエンジニア兼マニピュレーターの長谷川はせがわ智基ともきさんは、通称『ハセさん』と、俺達に呼ばれているし。

 他にも多くの人が、ライブやCD制作に携わってくれている。

 この六年で、俺が思う(s)に入るメンバーも増えた。

 はじまりは五人だったけど、切磋琢磨の結果が今のwater(s)だと思う。

 でも、これで終わりなんかじゃない。

 ここからが、始まりでもあるんだ。


 「miyaーー、飲んでるかーー?」

 「hiro飲みすぎ」

 「はい、hiro。お水貰ってきたよ」

 「hana、ありがとう」


 笑顔を振りまいてたって、グラスを渡す時に手が触れ合ってたって、それくらいじゃ動じなくなったけど……あくまで、俺が心を許してるここにいる人達くらいで…………知らない人が触れそうになったら、『触るなよ』って、多少冷たくあしらうかもな。


 「miyaは本当、こういう時は人の子だったって思うよなー」

 「入籍したばかりですしね」

 「そこ、うるさいですよー」


 年齢に関係なく言い合えるのは、俺が音楽においてはプロとして認められている証だ。

 でも、こういう集まりでは大抵最年少が奏で、その次が俺だから……年長者に振られた話は、興味津々で聞いてたりする。

 知らない世界が広がっていく感じがするから。


 いつもよりテンションの高めな彼は、音楽仲間と嬉しそうにケーキを食べていた。


 ーーーーーーーー二人きりになったら、奏が少し緊張してるのが分かる。

 玄関を通る度に、嬉しそうに眺めてる花も……奏の事なら、分かっているつもりだ。

 でも、あくまでつもりだから……いつも、気づいてあげられるような人で在りたいって思う。


 「これで……奏も、宮前になったな」

 「うん……宮前奏だね……」

 「慣れない?」

 「うん……実感した……」

 「実感?」

 「和也と入籍したんだって……」


 頬をピンク色に染めて微笑むのは、ずるいだろ…………


 思わず、ぎゅっと抱き寄せていた。


 「……和也、これからもよろしくね」

 「あぁー、こちらこそよろしくな」


 視線を通わせて、そっと口づけを交わしたけど……足りない。

 もっと触れていたいし、その声を感じていたい。


 頬に触れると、彼女の体温も上がっている事に気づく。


 「……ベッド、行く?」

 「……お風呂……入ったらね?」


 ストレートに返されて驚いた。

 それよりも驚いたのは、恥ずかしがり屋の彼女がキスをしてきた事。

 付き合って六年以上経つけど、奏からしてきたのは、数えるくらいしかないから…………自分の体温が急速に上がるのを感じた。


 ーーーーーーーー本当……奏には敵わないな…………

 ただ……やられっぱなしはイヤだから、リビングに入るなり深く口づけていた。

 この柔らかな唇から放たれる歌が、あれだけの人を魅了しているんだよな。

 それにしても……あんなに恥ずかしがり屋なのに、こんなキスが出来るなんて……


 些細な事にも、それだけの月日が経ってたんだって感じる。

 water(s)で費やしてきた時間は、俺が奏と過ごしてきた日々でもあるから…………


 時折漏れ出る声に煽られながらも、なんとか理性を働かせていた。

 彼女が浴室に行っている間も、振り返っていたんだ。


 デビューして、プロになってから……六年経ったんだな…………


 毎日のように癒される彼女と、同じ苗字になって数時間。

 これからもwater(s)がそうであったように、積み重ねていきたい。

 二人で同じモノを見て、感じていきたいんだ。


 その夜、幸せな気持ちのまま眠りについたのは言うまでもない。

 誓いのキスをするように、重なっていたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ