第100話 幸せ
奏は和也と共に、リビングを飾りつけしていた。今日は双子の四歳の誕生日だ。
「いい感じじゃない?」
「うん! 風船も喜んでくれるかな……」
「奏、もうすぐ帰って来る時間じゃないか?」
「うん、料理は出来てるから大丈夫だよー」
「両家集まるのって、久しぶりだよな」
「そうだねー、お義父さん達には感謝だね。今日は二人と朝から出かけてくれてるから」
「あぁー、健人と久美さんも、もうすぐ着くって連絡きてたな」
「はーい! 和也、これ並べて貰っていい?」
「あぁー、了解」
双子の誕生日と幼稚園入園のパーティーを両家を招待し、開く事になっていた。お正月にそれぞれの実家に顔を見せに帰ってはいるが、こうして両家の家族が揃うのは数年ぶりの事である。テーブルも壁紙も、誕生日仕様に飾られていた。
インターホンのチャイムが鳴ると、お昼から梨音と怜音を祝うパーティーが始まった。
お決まりのバースデーソングを歌うと、梨音と怜音は嬉しそうに、それぞれ目の前にあるホールケーキのローソクの火を吹き消した。
「梨音、怜音、お誕生日おめでとう!」
「わーい! ありがとう!」
「ありがとう! おいしそー!」
二人とも彼女の手料理を美味しそうに食べている。梨音と怜音の喜ぶ姿に、祖父母も笑顔になっていた。奏と和也のおもてなしのパーティーは成功したと言えるだろう。
「今日は二人の為に来てくれてありがとう」
「ありがとうございます」
和也と奏が親らしく、参加してくれた自分達の親や健人夫妻、創にお礼を告げた。
「はじめちゃん! つぎ、これー」
「梨音は、これが好きだなー」
「れーも!」
「じゃあ、向こうでやろうか?」
『うん!!』
創が器用に積み木を重ねて家を作る様子に、二人とも見よう見真似で作っていく。最近は、積み木や折り紙、お絵かき等が、家でよくやる遊びである。
双子の面倒を見て貰っている間に、奏は食後のデザートを用意していた。二人のバースデーケーキは十等分にカットされ、大人は二種類食べれるようになっていた。梨音と怜音には奏の作った4の形のクッキーとフルーツが添えられ、可愛らしい仕上がりになっている。
その間に和也はコーヒーや紅茶を淹れ、両親から順に手渡していく。
「和也くん、ありがとう」
「お義父さん、今日は二人の為に来て下さってありがとうございます」
和也が上原家を、奏が宮前家を自然とおもてなししているようだ。
「創ーー、そろそろ終わりそう?」
「うん。梨音、怜音、ケーキ食べよう?」
『うん! ケーキ!』
二人とも甘いものが好きなのだろう。作り終えた積み木の家を壊すと、先程と同じ位置に座った。
「梨音、怜音、手を拭いてから食べようね?」
「うん! ママー」 「うん!」
遊んだ後は、手を拭いてからの食事が身についているようだ。十一人揃う機会は少ない為、梨音も怜音も終始笑顔である。
二人の前には、祖父母や叔父からの誕生日プレゼントが並んでいた。絵本やパズル、二人の好きなキャラクターのおもちゃやぬいぐるみと、好きなものに囲まれ、梨音も怜音も笑顔でいっぱいだ。
「じゃあ、最後はパパ達からなー」
二人からは意外にも梨音にはピンクの、怜音には水色の封筒が手渡された。顔を見合わせ、それぞれの好きなキャラクターのシールで止めた封筒を開けると、中にはテーマパークのチケットが入っていた。
「これ!!」
「ランド! いけるの?!」
「うん、今度の休みに四人で行こうな?」
「わーい!!」 「やったー!!」
キャラクター自体は英語を聞いたり、テレビで見たりして好きだったが、テーマパークに行った事は一度もなかったのだ。声を上げて喜ぶ二人に、周囲からも笑みが溢れる。
ーーーー二人とも……大きな怪我や病気をしないで、四歳になってくれた……ありがとう…………
奏と和也は顔を見合わせ微笑み合うと、双子の成長を誰よりも喜んでいた。
「ママー! パパー!」 「ひろーい!!」
「うん! 広いねー」
揃ってホテルの部屋を走り回っている。一泊二日でオフィシャルホテルに滞在し、テーマパークを満喫する予定だ。九月という事で、パーク内はハロウィン仕様になっている。
「つぎー! あれ、のりたい!」
「れーも!」
まだ四歳児の為、乗れる乗り物は限られているが、二人ともそれぞれ好きなキャラクターの耳を頭につけ、大はしゃぎだ。奏と和也は帽子を被っているが、普段と変わらない装いをしていた。
「ママー! あれはー?」
「あれは歌が流れる中、ボートに乗ってお人形のいる世界を楽しめるんだよー」
「りーも、しってるうた?」
「うん! 乗ってみようか?」
『うん!!』
久しぶりに来たかも……新しいアトラクションも増えてるけど、懐かしい。
彼女自身も親と来た事がある。そして、隣にいる彼とも。
「懐かしいなー、一緒に来たの高校以来か?」
「そうだね。顔出しする前は、クリスマスとかイースターの時期とかに遊びに行ったりしたよね」
「あぁー、十年近く前だけどな……」
「そんなに前になるんだ……」
目の前では、キャラクターやダンサーがフラダンスを踊っている。梨音と怜音も手拍子をしながら、楽しんでいた。
ーーーーあれから、色々あったけど……まだ歌っていられる。
ふとした時に想い出す。
はじめて……和也と話した日の事…………
『パパー! ママー!』
二人はキャラクターと一緒にフラダンスを踊っている。踊っていると言っても、幼稚園児には難しいらしく、時々動きが合っていないが、それもまた一興である。
「はーい! 撮るよー!」
カメラを向けると、二人とも満面の笑みを浮かべていた。
一日中遊んでいた為、遊び疲れたのだろう。二人ともベッドに入るとすぐに眠りについた。
「久々に遊んだなー」
「そうだね。楽しかったー」
「あぁー、明日は奏の誕生日だから、夕飯を食べて帰ろうな?」
「ありがとう……」
和也は毎年、誕生日をお祝いしてくれるよね……
施設内に用意されたパジャマに着替え、スパークリングワインで乾杯をする。
「二人も四歳かー……来年のツアーは週末の度に、二人にも付き合って貰わないとな」
「そうだね……何か早いよね」
「あぁー」
窓の外には正面にパーク入口を望む事が出来る。彼女が夢の世界の空間にいる気がしていると、和也が小さな箱を手のひらに乗せた。
「和也? これ……」
「お誕生日おめでとう…奏……」
「ーーーーありがとう……」
時刻は夜の十二時を過ぎた所だ。
「……開けてみてもいい?」
「あぁー」
水色の箱には、オープンフラワーが可愛らしいネックレスが入っていた。
「可愛い……」
「よかった……せっかくだから、つけてみて?」
「うん!」
ネックレスをつけると、彼は嬉しそうな表情を浮かべた。
「似合うな……」
「和也、大切にするね……ありがとう……」
「うん……これからもよろしくな」
「うん……こちらこそ、よろしくね」
こうして奏は、二十七歳の誕生日を迎える事となった。大切な家族に、最愛の夫である和也と共に過ごせる日々に、感謝をしながら。
「それでは、water(s)で二曲続けてお聴き下さい」
司会者の曲紹介が終わり、音を放つ。CMやドラマの主題歌になる事も多い彼らの曲は、耳馴染みが良いのだろう。生放送の歌番組では、トリを務める事が多くなっていた。今日だけでなく、フェスや歌謡祭等、規模の大きなものでも、トリや大トリを彼らが務める事が、当たり前になっていたのだ。
「はぁーー、緊張したー……」
「ラストって、緊張するよなー」
「あぁー、最初の方に演奏して、他のアーティストを楽しみたい」
「分かる。消耗したなー」
二曲歌えるのは、素直に嬉しいし……緊張感との向き合い方も……この十一年で学んできたけど、やっぱり緊張するものは、緊張する……
「明日から、アルバム制作に入るだろ?」
「うん! 新曲も描き下ろして収録するしなー」
「あぁー。ワールドツアーに向けて、仕上げないとな!」
「だな! インストと英詞は永遠の課題だからな」
「うん! でも、楽しみだねー!」
奏の言葉は最もな想いだ。彼らの中にあるのは、期待感が大半を占めている。
「来週の土曜日は、運動会に参加するから各自練習って事で、よろしくな」
「了解」
「梨音達の運動会があるのかー」
「そうだよー。かけこっと、踊りの練習は家でも頑張ってるよね?」
「あぁー、俺は保護者リレーに出る事になりそうだけどなー」
「へぇー、miyaが運動するのって貴重だな」
「確かに」
「akiもhiroもひどくないか?」
控え室は笑顔で溢れている。学生の頃から変わらずの仲だ。
「皆、年内の予定は例年通りだけど、個別の仕事もあるから、体調気をつけてね! hanaはまたツアーグッズの詳細が決まったら伝えるから」
「はーい」
ライブツアーのグッズは、いつも彼女の担当だ。その代わりに演出は男性陣で決める事が多いのだが、五人が多数決で決めたモノが大抵その後の会議で、採用されている。
「次のwater(s)での仕事は、来週の新曲ジャケットとプロモの撮影だね」
「はーい。スギさん、お子さん元気ですか?」
「うん、元気だよー! 写真見るかい?」
「見たいです!」
彼の携帯電話には無数の写真が収められている。
「まだ小さいですねー! 優奈ちゃん、可愛い!」
「だなー! 梨音達もこのくらいの時があったんだよなー」
まだ生後三ヶ月にも満たない為、二人にとっては懐かしくもあった。
「皆から貰ったブランケットや洋服は、さっそく使ってるよ。ありがとう」
「優香さんは、お元気ですか?」
「元気だよー。hanaが選んでくれたオムツポーチ、優香も気に入ってた」
「それなら、よかったです」
杉本家での第一子誕生をメンバーも喜んでいた。
「早いじゃん!」
「そうだね!」
梨音と怜音の走る姿に、二人は感動しているようだ。
「次の競技が終わったら休憩かー」
「うん、お弁当食べれるね」
二人ともジーパンにスニーカーと、運動会に合うラフな格好である。
「じゃあ、俺が教室まで迎えに行ってくるよ?」
「うん! お願いしまーす」
奏が保冷バッグに入れ持参したお弁当を用意していると、和也が二人の手を引いて戻ってきた。
梨音と怜音は幼稚園指定の体操服に、それぞれの組みの帽子を被っている。りす組の橙色とひよこ組の黄色だ。
「この後は、年少組だけのダンスと、保護者リレーだね。楽しみにしてるねー」
「うん! りーも、たのしみー!」
「うん! れーも! パパ、はしるの?」
「そうだよー。久々に走るぞ?」
「いっぱい応援しようね?」
「うん!」 「おーえんするー!」
レジャーシートの上には、奏の手作りのおにぎりや唐揚げ、卵焼きにミニトマトや枝豆等が、彩り良く入ったお弁当箱が広げられた。双子だけでなく、和也も美味しそうに食べている。
「あっ、いーくん!」
「れーちゃん!」
梨音が同じ橙色の帽子を首から下げた男の子を呼ぶと、二人は楽しそうに話し始めた。
「泉、ご馳走さましてないでしょ?」
「はーい」
「泉くんのママだ。こんにちはー」
「奏ちゃん、こんにちは。今日も暑いねー」
「そうですねー。あっ、夫の和也です」
「こんにちは。いつも、梨音と怜音がお世話になってます」
「いいえ、こちらこそ……泉がいつもお世話になってます……」
親同士が挨拶をしている間も梨音は泉と話しているが、怜音はご飯に夢中のようだ。
「今のが泉くんか……」
「可愛い子だよねー」
「でも梨音、創くんも好きって言ってなかったか?」
「うん! はじめちゃん、やさしいもん!」
子供の素直な部分は見習いたいものである。宮前家が笑顔になる中、昼食は終わり午後の部が始まった。
「ーーーー可愛い……」
小さい手と足で頑張って踊る姿が愛らしい。梨音と怜音は背が高い為、運動会では一番前で踊っている。和也は来れなかった両親の為に、ビデオを撮っていた。そんな彼の隣で静かに見守っていた。
子供の成長って、本当に早い……また出来る事が一つずつ増えていくんだね。
「れー、どうだった?」
「上手だったよー」
「りーは?」
「上手だったよー。二人とも楽しかった?」
『うん! 楽しかった!!』
満面の笑みで応える姿に、誰が見ても楽しんでいたと分かる。
「じゃあ、次はパパの応援しようね?」
「うん! パパー、がんばってー!」
「うん! パパー、おうえんしてるー!」
可愛らしいエールを貰い和也は二人の頭を撫でると、羽織っていたパーカーを脱いで参加していた。
「パパー!」 「がんばってー!!」
双子の応援の成果か、和也が参加した年少組が優勝する事となった。彼は一着でゴールしていたのだ。
「パパ、すごーい!」 「お疲れさまー」
「ありがとう」
奏から差し出されたタンブラーの麦茶を飲む和也は、他のお父さん達と交流していた。
幼稚園は〇〇会という行事が多いが、こういう機会でもない限り、交流を深める事がない為、彼にとっても新鮮なようだ。和也がパパとして話す顔を、彼女も新鮮な感覚で見つめていた。
ーーーーいつも貰ってばかりだから……私も何か、プレゼントしたいんだけど……
奏は双子を幼稚園に送り、一人でウィンドーショッピングをしていた。和也の誕生日プレゼントを買う為である。
「すみません……これと同じ感じのサングラスって、ないですか?」
「こちらですと……こういったタイプになりますが……」
どうやら和也愛用のサングラスを持参し、同じような形とサイズ感の物を探しているようだが、店員の持って来た物が彼女の希望にあったのだろう。ようやく目当ての物が買えそうだ。
プレゼントは決まったけど……当日は家で、ゆっくりお祝い出来るかな?
一週間後に迎える和也の二十八回目の誕生日のサプライズを考えながら、彼ら専用のスタジオに向かった。
「hanaー、お疲れー」
「お疲れさまー、miya……みんな、どうしたの?」
和也はギターを片手に頬が緩んでいる。
「出来たんだよ! ちょっと座ってて!」
「う、うん……」
椅子に座らせられ、和也がメンバーとアイコンタクトを交わし、弾き始めた。
ーーーーかっこいい曲。
akiのドラムに、hiroのベース、keiとmiyaのギターの掛け合いが……
聴いている間もリズムを刻んでいるようだ。自然と手足が動いている。そんな彼女の姿に、彼らは微笑むとキーボードで入るように促した。
ギターが中心の音色が、キーボードが中心になり、雰囲気が一気に変わる。視線を通わせながら、楽しそうな笑みを浮かべていた。
ーーーー楽しい……私は楽譜なんてないから、みんなに合わせてるだけだけど……それでも楽しい!
歌じゃないから、楽器の音量を抑えたりしなくていい。
奏の感じた通り、楽器の音色がいつもより響いている。明宏のドラムを合図に曲が締まると、思わず息を吐き出した。呼吸をする事すら忘れる程に夢中になっていたからだ。
「ーーーー今の……インスト?」
「かっこいいだろ? hanaのキーボード……加筆すれば完璧だな……」
「あぁー、最高……」
「……これ、ライブの中盤で演ってもいいなー」
「だなー……初っ端からだと、息切れするわー」
心なしか息が上がっているようだ。彼らが高揚する程の曲の仕上がりだったからだろう。
「決まりだな! アルバムでは、最初に持ってきたい!」
和也の案に反対する者はいない。こうして、アルバム収録曲が決まっていくのだった。
「パパー! おたんじょうびおめでとう!!」
「うわっ!」
双子がまだ寝ていた和也に飛び乗ってきた。
「梨音、怜音、ありがとう」
「これ、パパにつくったのー」
「れーもー!」
梨音と怜音は、折り紙で作ったメダルを和也の首に下げた。
「……ありがとう」
そう言って双子の頬にキスをする和也は、幸せそうな笑みを浮かべた。
「もう幼稚園に行く時間かー」
「うん! パパ、よるはパーティーだって!」
「それは楽しみだな」
「うん! パパ、うれしい?」
「あぁー、嬉しいよ」
二人の頭を優しく撫でていると、奏が寝室に顔を出した。
「梨音、怜音、用意は出来たー?」
「うん!」
「うん! パパ、たのしみだってー」
「よかったねー。じゃあ、ご挨拶したら行くよ?」
「うん! パパー、いってきまーす!」
「いってきまーす!!」
元気いっぱいに奏の手を引いて歩く二人を見送ると、昨夜遅くまで仕上げていた曲を聴きにレコーディングルームに入った。
奏が二人の見送りを終え帰って来ると、和也は私服に着替え、食後のコーヒーを飲んでいた。昨夜仕上げた曲は、納得のいくモノに仕上がったようだ。
「奏、ありがとう。おかえりー」
「ただいまー。和也、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう……」
「二人が帰って来たら、パーティーするけど……これ……」
そう言って先日購入したサングラスを和也に手渡すと、嬉しそうな表情が浮かぶ。
「嬉しい……奏、ありがとう……」
「うん、和也に似合うね」
その場でサングラスをかけてみせる和也に、彼女も嬉しそうな表情を浮かべている。こういう所が似た者同士と言われる所以だろう。
「朝ごはん、食べれた?」
「うん、美味しかったよ。ごちそうさま」
「お粗末さまでした。今日はゆっくり出来そう?」
「昨日、終わらせたから、ゆっくり出来るよ。買い物に行くか?」
「うん! 行きたい」
掃除を済ませると、久しぶりに夫婦水入らずで出かけいた。
「奏ーー、これ買う? 可愛いよ」
和也が手に持っている秋物の服は、奏好みのワンピースだ。
「本当だ……でも、今日は和也の物を見たいの! せっかく……誕生日に、一緒に出かけられてるんだから」
「ありがとう。でも、奏のも見たい。誕生日プレゼントだと思って、俺が選んだ服着てよ?」
「ーーーーもう……じゃあ、私がコーディネートしたのも着てね?」
「了解」
和也の提案により何故か洋服をプレゼントし合う事になったが、『誕生日プレゼントだと思って』と、言われてしまうと、従うしかない。
「奏ーー、このライダースジャケットと、さっきの花柄のワンピース着てきて?」
「う、うん……」
試着室に先に入れられ、彼女はまた和也のペースになっていると感じながらも、彼の選んだ好みの服に着替える。
結婚式の時とか、衣装買い取りする度に思うけど……和也って、人を着飾るのすきだよね……
その反応は最もだが、和也が着飾りたいのは双子を除くと、奏限定である。
「やっぱ、似合うな……」
「ありがとう……次は、和也のだからね!」
「はーい」
照れくさそうに言う彼女に微笑んで応える。奏が和也に選んだ物も、ライダースジャケットは同じ黒だった。彼女もまた彼好みの白のニットのトップスに、チャコールグレーのパンツを選んでいた。お互いの好みが分かっているからこそ出来る事だろう。
買い物を終えると、満足気な顔を浮かべていた。
「和也、荷物持つよ?」
「いいから、ほら……」
彼に手を取られ買い物を続ける。今度は双子の服を買うようだ。
何か二人きりで、デートするの……久しぶりな気がする。
思いがけず……嬉しいな……
隣で楽しそうに微笑む奏を、嬉しそうに見つめる和也がいた。
『……ハッピーバースデートゥーパーパー! ハッピーバースデートゥーユー』
奏と一緒に梨音と怜音も、バースデーソングを歌っている。
「ありがとう!」
ローソクを吹き消すと、双子も嬉しそうに拍手をしていた。
「パパー、おめでとう!」
『おたんじょうびおめでとう!!』
「梨音も怜音も、朝からありがとうな」
彼の首には、今朝二人から渡されたメダルがかかっている。ダイニングテーブルには、和也の好きなグラタンやローストビーフ等のメニューが並んでいた。
大人はシャンパンで、子供は葡萄ジュースで乾杯をすると、家族四人での誕生日会を楽しんでいた。
双子の誕生日の時とは違い、彼女が生けた花やテーブルクロス等、大人仕様のテーブルコーディネートだ。仕事の合間に用意してくれた事に、心から感謝していた。
「奏……ママ、美味しい……ありがとう」
「よかったー……おめでとう、パパ……」
つい子供の前でも名前で呼び合ってしまう事もあるが、パパとママの呼び名も定着した二人がいるのであった。