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面倒くさい女

作者: サキバ

短いです

「下手だね、歌」


 そう言ったのは私の友達で、私の好きな人だった。一曲終わった後にポツリとそう言われた。自分の歌が上手くないなのは自覚していたが、はっきりとそう言われるのは正直傷付いた。

 私の友達はこういうことを正直に言ってしまうのだ。良いことでも悪いことでも正直に。


「でも好きだよ、君の歌。一生懸命歌うところ見てるとなんだかこっちが気持ちよくなる。可愛いしね」


 ほらこう言うところだ。きっと無自覚なんだろうけど、突然こちらをドキッとさせるような言葉を吐いてくる。

 そういうところいつもずるいと思う。好きなのは私なのに、ドキッとさせたいのは私なのに、いつだってドキッとさせられるのは私で今以上に好きになってしまう。

 そんなことがなんだか無性に腹が立って、思わずその肩を軽く叩いてきまう。


「痛いよ。いきなりどうしたの」


 なんでもない、なんて私は思わずそっぽを向いて友達はそんな私に困ったような顔をした。

 自分でも面倒くさい性格だとは思うけれど、私はこの人が私のために困っている顔を見るのが好きだ。たまに怒ってみると私の機嫌を全力で直そうとするし、私がたまに悲しそうにしていると優しく慰めてくれる。要するに私のことを中心に考えてくれるのがいいのだ。

 でもそのたびに、私はそのたびに自己嫌悪に陥る。馬鹿みたいだ。

 いつのまにか私はやめ時を忘れてずっとその肩を叩いていた。


「ごめんね」


 謝らないでほしい。あなたは何も悪くないのに。この人の困っている顔を見るのは好きなのに、この人に謝られるのは嫌いだ。

 いつのまにか私は叩くのはやめていて、その隣で丸まって寝た。とりあえず今の顔は見せたくなかった。


「眠いの?」


 私は何も答えずに、友達の手を握った。少し冷たい。その手をずっと握っていると、少しばかり温まった気がした。その微妙な熱に私は妙な安心感を感じて、いつの間にか私は眠りについていた。


「おやすみなさい」


 おやすみなさい。

 起きたらあなたに好きと伝えます。

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