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旅する探偵もの  作者: スーパー天邪鬼
独立戦争未遂事件:前編
7/55

紹述するわけではない

シャラが犬たちを引き連れて行った。

まるでアヒルが子供を連れて歩くかの様子だった。


しかしまだ、俺は危機の真っ只中だ。

さて、こっちは時間稼ぎをしないとな。


どんどん人が集まってきており、囲まれつつある。

ここから生き残る方法をひたすら考える。


まず、あたりの様子を確認する。


囲んできた人達は唸り声をあげたり、

大声で威嚇している。


後ろではカマイルがカウンターに隠れているのが見える。


店のドアを閉めて槍を構えると、住民の一人が鉈を投げてきた。

斜め右から投げられた鉈を、槍の先端を右手で動かして打ち返す。


槍の先を持っている左手が支店となるため、

右手を動かして、槍の先を動かすのだ。

薙刀や棒でもこういう動きをするのだ。


「うわ!」


と叫んだ彼の足元には、地面に突き刺さった鉈があった。

こういう場合、鉈の前に来る人は少ない。


この街の住人は戦闘訓練もあまりしていないように見受けられる。


現に、集まってきた住人は50人程度だが、

まともな武器を持っているのは3人程度だ。

大声を出して威嚇してくるだけの状態から、

俺に驚異を感じていることも見て取れる。


さらに、俺が目を向けると目を逸らす人間もいる。

目線を合わせないのは戦闘の素人だからだ。


本来、この人数相手に生き残るのは不可能だが、

これならなんとかなるかもしれないな。


俺は歩み足で集団の真ん中に行き、槍を前に突き出す。


「このぉ!」

「うわぁ!」


と叫んで後ろに下がる。


成程。

こいつらの戦法が見えた。


恐らく、兵士と戦う場合はまず、犬を戦わせて相手の体力を削るのだろう。

その後で犬がトドメを刺すか、住民が相手の後ろから刃物を突き刺すのだ。


兵士の鎧を貫くことはできないだろうが、

どうしても動きを制限される鎧では体力を消耗させたり、

武器を落とすのは簡単だろう。


「ウゥー!ワン!」


む、犬が戻ってきたな。

10匹程度集まってきた。

この街に犬は、一体何匹いるんだ・・・?


だが、俺を囲んでいる人が多く、俺には近づけないようだ。


少なくとも効果的に俺を襲うことは難しそうだ。

さて、そろそろ説得でも始めようか。


「おい!お前達どけぃ!こいつはワシが撃ち殺してやる!」


おぉ、誰かと思えばBを俺が攻めている時に大声を出した、

赤ら顔のおっさんじゃないか。


しかもラッパ銃を持ち出している。

丁度良いな。ネギが鴨しょって来た・・・あれ、逆か?


撃鉄を起こしておっさんが近づいてくる。

顔はまるで般若像のようだ。

俺を撃ち殺す覚悟が整っている。


すかさず俺は手頃な住民に近づいて、

鎌部分を使いこちらに引き寄せた。

歳も若い青年だ。

反応が遅れたらしく、すぐ人質にできた。


「ぐぇ!」


と叫んだ彼の首を、左腕で絞めながらおっさんに話しかける。


「そのラッパ銃撃ってもいいけど、彼にも当てる気か?」

「この卑怯者めぃ!」

「何言ってるんだ、こんなに人がいるんだからおあいこでしょ」


3人が後ろに周り込むのを見て、

槍の先端を俺の背後に向ける。


普段は石突あたりを持つのだが、

今は槍の真ん中あたりを持っている。


大多数に囲まれた時は、

相手が優位であることを認めつつ、

虎視眈々と逆転の一手を読む必要がある。


それにはまず、決して慌てないことが重要だ。

つまり、今からはミスが許されないってことだ・・・


「さて、俺と少しお話して、

その銃を地面に置くならば、こいつを離してもいいよ」

「・・・なんだぃ」


よし、乗ってくれた。

ラッパ銃の銃口を人に向けないようにして、地面に置いてくれた。


とはいえ、話に集中しすぎると後ろから襲われる危険があり、

犬もどんどん集まってきているな。


油断は命取りだ。

まずは、一つだけ聞こう。


「一つ、聞きたいことがある。

あんた、この街に息子がいるだろ?」


おっさんの目が一瞬だけ上を向く。


「・・・」

「どうなの?推測だけど、

あんたが兵士を糾弾した時に蹴らなかった奴が、

あんたの息子じゃないのか?」


つまり、Bの事だ。


周りにいる人たちは、

いきなりつかぬ話をされて戸惑っているようだな。


だが俺が、聞きたいことは一つだけと言っているから、

取り敢えず話を聞いてくれるようだな。


「なんじゃマルロクさん、あんた息子なんぞいたのか?」

「そういやこの人、30年前この街に来た人だよな・・・」


ふむ、恐らく周りの村から来たんだろうな。


「何故私に息子がいると思う?」

「喋り方だ。

あんたら、言葉の最後に『い』や『ぃ』って付けるだろ?

それに、一人の兵士は蹴っても、

もう一人を蹴らないのは、

蹴らない兵士と仲が良いからじゃないか?

 それともう一つ、あんたらは肌の色だ。二人とも赤いだろ?」

「はぁ。そうじゃよ。

奴はマルカス・アカ・ジョン。

このワシ、マルロク・アカ・ジェーンの息子じゃぃ。

それがどうしたぃ?」


やはりそうか。

これで事件の全貌がなんとなく掴めた。


「なるほどね。ということはマルロクさん、

あんたわざと俺に情報を流しただろ?」

「・・・なにぃ?」

「ザルインもあんたの仲間だな?

目的は、俺たちを人質に使うか、

・・・それか軍に事情を説明させるため。違うか?」

「・・・そうじゃよ。あんたは仲間にならんじゃろぃ?

わしは東にあるアカ村の住民で、

この街に移民できるかテストするために、

30年前この街に来たんじゃ。

その後マルカスは軍に入ったが、

この街から食料が無くなっていく現実を見て、

わしとマルカスの責任だと感じたようじゃ」

「だからこの街周辺で自由に狩猟するため、

探偵を呼び寄せて捕獲しようとした?」

「イタールアとの交渉に使うつもりでな。

そしてマルカスが駐在所に火を放つことで、

この街にいる兵士を全て殺すつもりじゃった。

謂わば、独立戦争を目論んだわけじゃ。

南のジャムムル村とも共謀してな」


マルロクがいつもより小さな声で話し始める、

しかし、騙されていた住民たちの感情も少しずつ大きくなっている。


俺が拘束している青年も顔が怒りに満ちているようだ。


「マルロク!あんたアカ村の住民だったとはな!」

「野蛮な部族め!そうだ!お前たちのせいで、

この街周辺から動物が殆どいなくなったんだよ!」

「その銃だってあんたが便利だからと購入したが、

狩猟が捗るって意味で便利なのか!」


拘束していた青年も、俺の腕から離れてマルロクを侮辱し始めた。

俺はその青年をどかし、

何も言い返せないマルロクの足元に落ちているラッパ銃を奪って、

誰もいない街の入口に発泡した。


『シュ!ボン!』

と2段階の大きな音を立てた。


銃声がこだまして、

だんだん集まり始めていた犬達は、

音に驚いて逃げていく。


俺はすかさず大きな声で住民に話しかける。


「俺が言いたいのは、この人があんたらを騙してたってことじゃない。

悪いが俺は、大勢の人前で誰かの嘘を暴いて、悦に入るような人間じゃない。

俺は探偵だ。受けた依頼をきっちりとこなしたいんだ。

だから俺の話を聞け!」

「じゃ・・・じゃぁ、何が言いたいんだよ」


少し怖じ気付いた住民の一人が声を出した。

ようやく周りを気にせず話ができるな。

今回の依頼は過激な手段ばかりとっているが、ようやく一息つける。

そしてここからは話し合いだな。


「マルロクはこの街を救ったって事だよ。

あんたらがマルカスと共にテロを起こしたとしよう、

その後、軍に報復される未来しか見えないだろう?」

「俺たちは犬がいる。

俺たちなら絶対に負けない。

よそ者は引っ込んでろ!」

「銃声一発で散り散りに逃げたようだが?

言っておくが、イタールアの軍はかなり巨大だぞ?」


あの街では現在、自動で弾を連射する

『フルオート』と言うシステムを利用して銃を開発している。

もしそれが一丁でもあれば、この街は壊滅するだろう。


「あの軍にとって、

このラッパ銃のような一発しか撃てない銃は時代遅れだ。

イタールアの住民も、最近は護身用と言って連発できる、

リボルバーって銃を持つ奴だって居るくらいだ。

この街が勝てる可能性は0だね」


住民が押し黙る。

しかし、いつの時代もそうだ。

力で解決しようとする人間は、更に強い力に負けてしまうのだ。


「じゃあ、俺たちはどうすればいいんだ・・・」

「そうだな・・・こういうのはどうだ?」


理想だけを求めた男達に、現実を見せる。

だが、ニュージェー街の現状は底まで悪くない。

俺は住民たちに、この街を良くする為のアイデアを話し始めた。


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