己の知識にあんなの無い
「シャラ。ウォーカー持ってるか?」
「持ってないよ」
銃は持参していないらしい。
ウォーカーは、コルトM1847の俗称だ。
弾を込めるのにかなり時間がかかるが、
6発の弾を撃てるのは魅力的だ。
「しょうがない、これを使うか」
フリントロック式の銃も持ち出す。
火薬2種セットしてから弾を入れ、
送り蓋を詰める。
通常送り蓋はしないが、
馬上でも撃てるようにするためだ。
「じゃあ行ってくる」
「・・・ケレンってほんと、
戦う事が絡むと頼もしくなるよね。
うん。ここで見てるよ」
どうやら俺は、
緊張感のある状況だと人が変わるらしい。
今はそれが俺の強みだろう。
だが油断せず進む。
この辺りは、地面に窪みが多いため、
窪みに向かって走る。
相手が銃を持っている可能性があるためだ。
馬に頼んで窪みから窪みへ移る。
それを繰り返して、
一気に敵の近くまで近づく。
敵との距離が200m程度になった時点で動きを止めた。
「お前はここで待ってろよ」
『ブルル!』
馬を撫でる。
これ以上近づくのは危険だ。
そのため、隆起した土に穴を開ける。
10秒ほどで穴を開けて、
筒状の棒を差し込んだ。
これで敵の姿が見える。
距離は100m。
少なくとも俺の知る銃器は、
有効射程(銃弾の精度が保証される射程)
が長くても100m程度。
土の裏に隠れれば大丈夫だと思う。
「ひとまず間に合ったな」
相手の足音に変化がなかったため、
走ってはいないようだが、
恐怖と興奮を感じる。
心を落ち着かせて、距離を把握。
「どこから来たのか聞いてみるか」
大人数で街に来ているが、
威圧しているだけで、
こちらが悪意を感じているだけの可能性がある。
俺の故郷である日華だと、
この時点で賊扱いだが、
ここはイタールアだ。
距離50m。
接敵まで30秒ほどだろうか。
「そこで止まれ!
代表の者に問う!
貴公の住居と目的を答えろ!」
大声を上げる。
すると、相手の動きが止まった。
「敵ではないのか?」
目的を聞こう。
「こちらはイタールア軍だ!
繰り返す!何か用か!?」
「収穫を行います」
収穫?
俺に一番近い奴の口から、
棒状の筒らしき物が突出する。
5秒ほどかけて出てきた筒は、
しっかりと俺の方に向いた。
「人じゃないのか!?」
『パオオォォン!』
『ボチュゥゥン』
目の前の塹壕に着弾した。
厚さ150mmの土を貫通した。
「ウグッ!」
あの距離でこの貫通力!?
貫通したのは銃弾か!
当たらなかったが・・・。
冷や汗をかく。
命の危険を感じるからだ。
「弾を回収するか」
冷静に状況を把握し、
後ろを振り向いて、
弾丸を見つける。
弾は・・・先端が小さくなっている。
「これは・・・」
通常(この時代では)、
弾丸は丸い球だ。
先端が尖っているのは、
比較的新しい、
薬莢(弾丸や火薬を入れる筒)
を利用した弾だけだ。
しかしまだ完成されたばかりの物より、
遥かに洗練されたフォルム。
「考えるのは後か」
息を止めて、死んだふりをする。
敵の防御性能も知りたい。
隙を見て発砲しよう。
送り蓋をしてしまったが、
通常発砲できるよう祈る。
距離が20m近くになった。
銃を構えてから、
引き金に指を当てる。
・・・今だ!
『シュッ!ボオォン!』
問題なく銃が発砲した。
不発する可能性も高かったが、
一安心だ。
状況確認しながら乗馬。
すかさず逃げる。
敵からの攻撃もなく、
30秒ほど馬を走らせて、無事に退避出来た。
「戻った」
「お疲れ」
俺とシャラの表情は良くない。
呆気ないのだ。
敢えて俺を、
『逃がした』ことがよくわかる。
「俺が死んでもおかしくない状況だったが・・・」
「私も、
正直一人で帰る可能性が高いと思ってた」
だが、敵意は確認できた。
「一度街まで行こう」
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再び15分ほどかけて街に戻る。
以前まで門だった建物は崩れ落ち、
壁だった筈のレンガは砂と化している。
土煙が低い位置に立っていることで、
空気が澱んでいるようだ。
外側から見ると、
内側から見た光景よりひどく感じる。
それより素早く戻らねば。
街の外側に陣地を張っているのが見える。
一言で言い表すと
『悲壮感』だ。
「デガルズ」
「旦那。待ってました」
「シキックス中尉」
「シャラさん。
数日ぶりで」
布でできた仮設の狭い建物に、
今回依頼主のデガルズが居た。
城きっての戦闘部隊であるバイキング。
彼はその隊長だ。
だがそれ以外にも、
他部隊の隊長が揃っているようだ。
隣に居るのは、
シャラの知り合い軍人である
シキックス中尉だ。
奥には戦闘担当の将軍が居る。
鋭い目つきが恐ろしい。
頼もしい人物で、威厳もある。
「バッドン将軍。
探偵に依頼していた1次調査です。
お聞き願います」
「今は敬語なぞ不要。
報告を頼む。
やはり大勢の人間がこちらに来ているのか?」
仰々しい言葉遣いと、
威厳ある佇まい。
彼はバッドン戦闘将軍。
約50歳。
この国きっての弓手だ。




