理解に苦しむ栽培方法
仮眠室に戻ると、ベッドにシャラが座っていた。
「良いの?あんなに冷静さを失った状態で人と話して」
真剣な表情で話しかけられる。
確かに、ヨウエイ君と話した時には
いつもの冷静さを欠いていた。
「鎧から出てくる子供に度肝を抜かれただけだ」
「・・・庇うつもりなら責めないよ。
ただ、あの子は事務所から抜け出す気みたいね」
シャラが立ち上がって、窓の外を見ながらそう答える。
見える範囲では見張るつもりらしい。
「あの子はまだ子供だから、
私たちが無駄に干渉するつもりはないよ。
ま、勝手に出ていくのは礼儀知らずだと思うけど。
悪人じゃないみたいだし」
「でも、『持ってる力が強大』ってことだな?」
「あの神父と同じ程度にはね・・・」
だから探偵預かりにするって話だ。
キリーグ神父は現在、
城にある鑑賞動物用の檻に入れているらしい。
「国に内緒の事項が増えたな。
ヨウエイ君のことは報告してないんだろう?」
「まあね。警察にも探偵にも闇はあるのよ」
「お前だって子供だろうに・・・」
17歳にしては、色々と頭が回る。
さすがは称号持ちだ。
「ふーん。私の前には最年少称号持ちだったくせに、
よくそんなことが言えたわねぇ~」
「真面目な話はもう終了か?
やっぱガキには耐えられないみたいだな」
「残念。私はケレンみたいに年寄りじゃないの」
軽口を叩き合うが実際、
まだ体が本調子で動かない。
だが、俺を指名して依頼をされたんだ。
ベッドに思いっきり飛び込んで、
体が動かせることをアピールした。
何とか依頼をこなしたいってことを伝える。
シャラは少し口角を上げて、瞳を細くした。
意図は伝わったようだ。
「そういえば武器が壊れちゃったよね。
護身武器はどうするの?
・・・なんなら私が守ってあげよっかぁ?」
シャラがまた俺をバカにしたように言う・・・。
「じゃれ合いはもういいだろ。
今回もマロホシ持っていくから大丈夫だ」
「ふーん」
ベッド脇のリュックにマロホシや着替え、
食料、水を入れる。
その間、例の魔女『コーレル』のことも考える。
報告では件の鎧が、コーレルの姿を見たようだ。
だが、今どこにいるかはわからないらしい。
「あの魔女を探す方法も考えないとな」
「・・・だね」
そんなことを考えながら荷物をまとめる。
「さて、用意完了だ。
シャラもバカなこと言ってないで、早く用意しろよ?
明日の朝出発するぞ。
今回はシャラが俺の助手だぞ?」
「ふふん。実は探偵雇用試験が近いから、
私はケレンの活躍を評価するんだ。
腕がなるってもんよ!」
「・・・個人の意見は入れるなよ?」
今回の任務は、
俺が再び一人前の探偵に戻る為のテストも兼ねている。
気合を入れて頑張るとしよう。
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「さて、行くとするか」
「オッケー」
雨が少し降っている天気だが、
今回は銃を用意していない。
準備に影響は少ない。
今回の依頼は人物調査だからな。
戦闘は起こらないだろう。
俺たちは街の東側にある門を出る。
許可証を求められることは特に珍しくないが、
以前俺たちが関わった事件の影響が街に出ているようだ。
だが、現状を整理すると
『独立戦争が未遂に終わるが、
魔女騒ぎや邪教騒ぎが発生。
国に採用され始めた戦力を扱う犬笛に問題があり。
使用すると未曾有の火災事件が起こる恐れあり』
なんて状況だ。
国の出入りが厳重になるのは当然だと思う。
だが、しっかりと許可証を持っている俺たちには関係がない。
門の前で、目的地を再確認する。
男の家は、ここから道なりに歩いて40分程の場所にあるらしい。
歩道を歩きながら、今回の依頼についても再確認する。
「依頼主はオリガー。
城で礼儀作法の講師をしている。
調査対象はクセ・ハイル。
3か月前に越してきたらしい。
イタールア街に納めている税は、野菜か」
「農民ってこと?」
「そうだと思う。今は主にキャベツを収めている」
礼儀作法を学ぶとすれば、
店でも構えるのかもしれない。
「対象は年齢22歳。
結構若いな」
「他にはー?」
「あん?・・・てか、なんだこれ?」
「どしたの?」
俺はある文章を見て、
読み間違えたと思った。
だが、やっぱり間違いじゃない。
なんだこれ?
「彼は自分の肩でキャベツを育てるらしい」
「は?」
「彼はキャベツに愛されているらしい」
「いや、意味わかんないから」
シャラの言う事は最もだ。
意味がわからない。
だいたい食い物を粗末にするな。
「あん?」
葉っぱが俺の目の前に降ってきた。
地面に落ちる前に、掬う様にして手にする。
「キャベツ?」
「うわ~!ケレンあれ見て!
あの人キャベツ吹雪降らせてるよ!」
「は?」
目の前を歩く人は、肩の上からキャベツを降らせていた。
確かに、桜吹雪ならぬキャベツ吹雪だ。
「このキャベツおいしい!」
「いや、食うなよ。何考えてるんだお前」
「でもすごくシャキシャキしてるし、
匂いも土色だよ!」
匂いに問題なしか。
食べて異状もないのなら、普通の食糧らしい。
試しに空中のキャベツを掴み、
食べる・・・。
これは・・・確かにうまい!
甘みが微かに感じられて、歯ごたえも良い。
臭みもない。
「あなた方も、キャベツを愛する者ですか?」
男が話しかけてきた。
「はい!このキャベツおいしいです・・・」
「おかわり!」
シャラがおかわりをねだると、
男はキャベツをくれた。
肩から。
「フフ。どうぞ」
「冷静に考えると気持ち悪いな・・・」
「おいしー!」
「何故肩にキャベツを乗せているんですか?」
今一番気になることを聞いてみた。
文章にすると、これほどバカバカしい表現はない。
「地面で育てる野菜は、虫の餌になる恐れがあります。
だからキャベツに、私の肩で育つようにお願いしたのです」
彼の肩には、キャベツがあった。
だがただのキャベツではない。
キャベツとキャベツがくっついている。
まるで手をつなぐ人々のように、
キャベツたちが手をつないでいるのだ。
彼の言い分に説得力が増す。
「それでは、私はイタールア街に用があるので・・・」
「その前に、あなたのお名前を教えてください・・・!」
「私はクセ・ハイルです。それでは」
彼は去って行った。
「すごくうまいキャベツだった」
「もっと食べたかったね」
「依頼中だ。我慢だ我慢。
さて、依頼をこなしに行くか」
ん?
何か引っかかる・・・。
「依頼内容はなんだっけ・・・ん?」
「どうしたの?」
キャベツの美味しさで何かを忘れたような・・・。
「捜査対象クセ・ハイル・・・さっきの人もクセ・ハイル」
「あれ?」
「・・・あーーーっ!あの人だぁああ!」
「キャベツマン!」
しまった!
俺としたことが!
「まずい。調査対象と接触してしまった・・・」
「ケレン、なんてミスを・・・」
俺は頭を抱える。
シャラは口を抑える。
なんと言う失態だ・・・。
「顔を見られてしまった・・・」
「堂々と行っちゃう?」
「相手は何かがきっかけで怒るらしい。
慎重に事を進める必要がある」
こうなったら仕方がない。
「彼の家に向かおう」
「家に向かってどうするの?」
「隠れる」
「えぇ・・・」
こそ泥みたいな真似で恥ずかしいが、
これも依頼だ。
やるだけやってやろう。
シノビのスピンオフ、結局やるんですねぇ!




