話じゃなくてケンカになるんだね
カマイルはあの後、
この街の案内をしてくれると言い出した。
なんでも、この街はとある問題を抱えているそうで、
街の偉い人と相談して欲しいとの話だ。
カマイルの案内でしばらく道を進む。
道の途中で養鶏所や公園、
犬の学校なんて珍しいものまで見ることができた。
のどかなこの街にどんな問題があるのだろうか・・・。
そう思いながら歩いていると、
突然カマイルが「あっ・・・」と声を出した。
カマイルの目線を追っていくと、
少年を超えたばかりであろう青年2人と、
鋼の鎧に身を包んだ男2人がもめている光景が見えた。
兵士一人は、わざと腕を見せているようだが、
二の腕がなかなか太く、血管も浮き出ている。
日頃から鍛えていることは見て取れる。
足の動かし方も速いし、体が遅れていない。
若く見えるが、いかにも強そうだ。
もう一人の顔は少し赤みがかっているな、
この街は皆白人だから、よその土地から来たんだろう。
見た感じあまり鍛えてはなさそうだが、
先程から指を器用に動かして青年を挑発している。
炸薬等、爆弾の扱いに慣れているのだろう。
「おい。おまえらの家にも犬が3匹いるんだって?」
「別にさぁ。犬を飼うなとは言わないよぉ?
でもさぁ、俺たちをこの街の警護に就かせてんだぃ。
毎月の税金くらいきちんと払えよぉ?」
道の真ん中で兵士たちの大声が響いている。
周りにいる住民たちは気まずそうに兵士を見つめているが、
誰も止めに入らないようだ。
まぁ実際、自分より強さうな人間が起こした荒事なんて、
そう簡単に止めようとは感じないだろう。
そう思っていると
「ちょっと!何をしているんですか!
まだこの二人は成人したばかりですよ!」
とカマイルが叫びながら止めに入る。
それが火種となり、周りの人々もようやく止めに入る。
「なんだ嬢ちゃん達?俺たちにケチ付けようってのか?
こいつらは成人してから一度も税金を払ってないんだ。
取り立てて何が悪いんだ?」
「知らないわよ!
大体そんなこと言ったら、
ここにいる人は皆払ってないんじゃないの?」
・・・え、誰も税金を払ってないの?
「はん。そう言っていられるのも時間の問題だぃ。
来週になれば俺たちの仲間が増える」
「そうそう。俺たち兵士の人数が倍になるんだ。
全部で50人だぜ?いい加減言う事聞きなよ?」
暗に『言うこと聞かないと痛い目見るぞ』
って言いたいようだな。
その態度に反発して皆金を払わないということだろう。
「・・・あん?そっちのチビ。てめぇ街の新入りか?」
俺の身長は約160cmだ。
全然チビじゃないぞ・・・御年27だから、
もう伸びる気はしないけどな・・・。
「本当だ。見せしめにこいつから金を取るか。」
そう言われてもなぁ・・・
あまり目立ちたくないのが本音だ。
調査対象になる可能性がある相手には、
あまり顔を知られたくない・・・
「ケレンさん・・・」
「ちっこいの・・・」
カマイルや街の人たちも心配そうに見ている・・・。
俺も俺の身長が心配だ。
次いでの話だが、
シャラは遠くで大きなあくびをしている・・・。
「へへ。痛い目見ても知らねぇぜ?」
そう言って両刃の大剣を、ゆっくりと俺に突き出してくる。
しかし俺は、こういう展開に慣れている。
ここで金を払ってしまえばカモとして顔を覚えられるため、
反抗することに決めた。
大体俺は、住民じゃない。
ここからは戦闘開始だ。
俺は相手から見て、
左肩が前に来るように体を横に向けて、
左腰から逆手で刀を抜く。
抜いた刀の刃は上を向いているため、下に向ける。
そして、抜いた刀を縦向きにしたまま左に動かした。
大剣の突くスピードが上がるが、今更結果を変えることはできない。
大剣の先から5cm程度奥の部分と、
刀の鍔から5cm程度下の部分がかち合う。
その瞬間に刀を、
曲がった腕を伸ばす要領で、
俺から見て左斜め下まで動かす。
結果、刃の先裏側と左足の太ももをくっつける体勢だ。
相手の剣は、俺から見て左下にある。
「てめぇ・・・」
兵士は怒っているが、
剣の切先は俺の斜め後ろを向いているし、
横薙に剣を動かそうとしても、俺の刀が邪魔をしている状態になっている。
俺に攻撃するためには剣を引く必要がある。
こういう男は少しでも引くのが嫌なタイプだ。
特に今の俺は、片手で剣を受けているように見える。
自分より小さい奴が、全然動かない光景。
それを見られるのは、さぞ恥ずかしいだろう。
『自分はいつも鍛えているから、こんな小男を楽に倒せる』
と思っているのだ。
真面目に戦えばもっと強いと思われるだけに少し勿体無いな。
今も懸命に剣を両手持ちして、俺を吹き飛ばそうとしている。
相手との体重差はあると思う。
俺は53kgで、相手は80から90kg程度だろうか。
相手は剣と刀の接地面のみを見ており、俺の右足に気付いていない。
つまり、彼の攻撃は『足』で受けられている事と同義なのだ。
と言うのは簡単だが、
手や足の位置を少しでも間違えると
たちまち俺は吹き飛ばされるだろう。
結局30秒程剣に力を入れる兵士だったが、
俺が吹き飛ぶことはない。
冷静になったもう一人の兵士が止めに入る事で
事態は収拾された。
戦闘終了だ。
恨めしそうに俺を睨みながら兵士たちは去っていった。
「す・・・」
「ん?」
す?
「・・・すごい!」
おぉ?
カマイルが興奮している。
俺は少し驚いてしまった。
「助けてくれてありがとうございます!」
「それにしても、あの騎士を攻撃せずに撃退するなんて!」
「素晴らしい!」
礼を言われたり褒められたりと、住民が騒ぎ始めた。
「いや、決闘用のピストルなんかで対決することもあるので、
この程度なら大したことないですよ?」
「ピストル!?あのダ・ビンチとか言う人が作った物ですよね!
あれって弾が外れたら銃で殴るってやつですよね!
そんな野蛮な決闘にも勝ったことあるんですか!?」
・・・うーん。
銃を知ってるかわからなかったからああ言ったけど、
西国の開拓地だと毎週のように
ウィンチェスターのライフルなんかで決闘するから、
ピストルの決闘は割と冷静に対処できる。
後ダ・ビンチが作ったホイールロック式の銃って、
不発することも多いから、大体最後は殴り合いになるんだよね。
と、今この話は関係ないな。
「えぇ、俺は探偵ですので、そういう危険な目には慣れております」
「探偵・・・」
「私が依頼しようかしら・・・」
色々と騒ぎになっているな。
普段なら良い宣伝になるかもしれないが、
今は先客があるようだから静まってもらおう。
「えーと、すいません。
俺たちはこれから、街の偉いお方と相談するように承っております。
なので、ご依頼される場合はまたの機会に・・・」
「何言ってんだ?」
ん?街の住民が揃って不思議そうな顔をしているな。
そっか、さっき「私が依頼」って言う言葉があったが・・・
「この街での依頼ってのは、あの偽兵士についての話に決まっている」
やっぱり。
皆同じ依頼なんだな・・・。
まだしばらくは初心者向けのアクションシーンですが、徐々に難易度を上げていきたいです・・・。