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猫もえ 大好き!
これは、猫が大好きな田中さんと、ある猫との物語です。
その日、会社からの帰り道、田中さんは近所の住宅地で、かわいい猫と出会いました。
とっても人懐っこい猫でした。田中さんは、余りにかわい過ぎるこの猫にチューしました。
この猫と田中さんとの接点はこのときだけ。
猫が去って行ったのを見届けた田中さんは、妻の待つ新居への歩みを早めました。
ところで、飼い主にドアを開けてもらって部屋に出入りしていたこの猫は、田中さんと出会うほんの数時間前まで、その部屋の中に十日間も閉じ込められていました。
しかし、飢えていたにもかかわらず、飼い主の手から餌を与えられることはありませんでした。
ドアを開けてくれたのは、午後三時頃、近所の住民の異臭騒ぎを受けて駆け付けて来た警官でした。
「死後十日というところか。自殺だな。遺書がある。だが酷い有様だ。何かに食い散らされている……」
そのとき、警官の足元を擦り抜けるようにして、猫は部屋から出たのでした。
ちなみに、“行って来ます”と“ただいま”のチューは、まだまだ新婚である田中家の習慣になっています。




