ゾンビ、死す?
デンジャラス。
ゆっくりとだが、確実に近づいて来れた洋館内ではドタバタと音がする。
まだ生存者がいて、かつ安全な状況ではないんだろうと察することができる。
まぁそりゃそうか、流石にそこまであっさり死んだり感染者だらけになったりはせんか。
ゾンビは戦闘力としては弱い、厄介なのは人としての姿を維持してることだ。
知り合いがゾンビになって、簡単に殺せるだろうか……それが大事な友人や家族だったら?
俺でも躊躇すると思う、ただこの世界にそんなもんはいないから問題ナッシング。
……けど今の俺はゾンビ、寧ろ発見されたら即射殺対象なんよね。
悲しいなぁ。
「キャ、キャアアアアアアッ!!」
「逃げるんだ!早く!!」
“パンパンパンッ!!”
少女の悲鳴、男性の怒号、そして銃声。
ここで再び疑問が湧く、外人の言葉が理解できる。
資料を読んだ時は何処か外国の言語で書かれた文字で、解読できなかった……ギリギリ日付が分かる程度だ。
しかし彼らの話す言葉は、俺が理解できる唯一の言語たる日本語なのだ。
これはあれだろうか、アンフェールは日本語音声でプレイできたからだろうか?
……それにしては紙などの媒体だと全く翻訳されてないのは、あまりにも不親切じゃないだろうか。
この世界に対する謎が深まる。
「なに!?馬鹿なこっちからも……う、うわああああああああ!?」
“ガブシュッ!ゴボッ!ブシュウウウウッ……”
ああ、いかん……俺が頑張って移動している間にも被害が。
ゾンビの足ちょっと遅すぎんよ~。
早く変異したい、比較的早く動けるタイプに。
そう考えている内に俺はようやく屋敷に到着、不用心にも窓が開いてる場所がある。
多分あそこからウイルス持ちに侵入されたとみるべきかな?
俺は開いてる窓からのんびり侵入させてもらった。
“ガブリッ、ブチブチッ”
おっと、食事中らしいな……先ほど不意打ちを貰ってお亡くなりになった方が、三体のゾンビにお食事されてるようだ。
見た限りここの主だったのだろうか、手には拳銃が握られている。
クラシックなものだが、まだ使えそうだ。
俺は三体の邪魔をしないように、こっそり拳銃を回収。
アンフェールにもこんなシーンがあったっけな、食われてる人の近くにある銃をこっそり拾うイベント。
とった瞬間襲ってくるので、中々勇気が求められるものだ。
しかし俺は襲われない、ゾンビだからな!
何故俺が銃を拾ったか……多分フラフラしてるゾンビじゃ拳銃を扱えないかもしれない、けど人間ならば別だろう。
俺が使えなくても誰かが使える、なら持ってく意味もありそうだ。
……あの時食べた女性の銃もかっぱらうべきだったかな?と今更後悔。
俺は銃を持ったままフラフラと洋館内を歩く。
さぁ、誰か生きてる奴はいないかい?
……この外観でそのセリフじゃ獲物を探す悪役だな。
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暫く洋館内を歩くと分かれ道、チラリと右の廊下を見るとゾンビ……左の廊下を見るとゾンビ。
うん、これぞまさにサバイバルホラーな状況!
俺の鍛え上げた主人公だとナイフで通り魔が出来るんだろうけど、普通の人間にそんな真似できるはずがない。
ってことで脱出時に邪魔になるだろうと、排除することに。
まずは女性の使用人らしき左のゾンビの喉笛を噛みちぎる!
あっさり不意打ちをくらい、血を流してばったり倒れるのを見届けると今度は反対のゾンビをガブリ。
男性のゾンビだったために多少の抵抗はあったが、こちらに被害なしで致命傷を与えれた。
あとは勝手にくたばるのを待つだけなので、男性ゾンビは放置。
女性は……申し訳ないがその場で食わせていただく、放っておいたら他の奴に食われてしまいそうだ……勿体ない!
男性に比べると柔らかいから食べ終わる速度が速いのが強みだ、俺は女性ゾンビをモグモグいただく。
これで味やら香りやらがあったら滅茶苦茶抵抗があったんだろうけど、食う動作はするものの食ってるのは俺が憑依してるゾンビくん。
暫くしてあともうちょっとで喰い終わる……その時。
「助けてぇ!!」
助けを呼ぶ声が、しかも声からして女の子!
ゾンビになっても心は紳士、助けに行かなくては。
女性ゾンビを嬉々として食ってた事実は棚に上げて、俺は声が聞こえた方に向かうと……。
「お嬢様に近づくな、この野郎!」
必死に抵抗しているらしき声が、とある部屋から聞こえてきた。
ドアは力づくで破られたのか、ノブが壊れていた。
俺はひょっこり覗いてみると、デッキブラシで一体のゾンビを牽制して奮闘しているものの、倒すことができていない青年。
そんな青年に守られながら、後ろで震えているお嬢様。
ゾンビは年季が入ったしわがある爺さん、足元には幾体ものゾンビ……剣が落ちてる辺り、この爺さん捨て身で戦い抜いたんだろうな……結果ゾンビになっちまったわけだが。
相手が一体だからいいが、もしここにゾンビが沢山押し寄せたら……マジでひとたまりもないだろう。
ーーーーだがこれはチャンスだ。
人間の味方を得て、生存者を出来るだけ増やせるチャンス。
俺はデッキブラシと爺さんの物らしき剣以外の武器が存在しないことを確認したうえで、ゆったりと部屋に入る。
途端に二人の顔に絶望の色が入る。
「そっ、そんな……もう無理よ!」
「あ、諦めちゃだめです!」
お嬢様は目を覆い隠し、青年は先ほどより動きが悪い。
まずい、急いで救助しなきゃ。
俺はゆっくりと歩きながら、手に持っていた銃を青年とお嬢様側に放る。
転がった音にびっくりしてお嬢様がそちらに視線を向けると、目を見開く。
「拳銃、お父様の拳銃だわ!」
「まさか、何故旦那様のものが……!?」
やっぱりそうだったのか、三体がかりでムシャられてた男性はやはりお嬢様のお父さん。
安心しろ旦那様、俺があんたの娘さんを生かして逃がそう。
更に俺は爺さんの物らしき剣を拾う、拳銃より重くてブンブン振るうには難しい。
けれど、持ち上げて振り下ろすことならなんとかできる。
俺はゆっくりと必死に剣を持ち上げて、爺さんの背後に迫る。
「こ、このゾンビ……まさか……?」
そう、そのまさかさ!
俺は爺さんゾンビの脳天を、剣で勝ち割った。
確かな手応えと共に、うっかり剣を離してしまったけれど……それで十分だった。
爺さんはぐらりと横に倒れこんだ。
よし、これで大丈夫。
「ウウゥゥゥゥ……?」
俺は首を傾けて、青年を見る。
青年は驚愕しながら俺を見つめていたが、彼の瞳からは敵意が薄れていた。
「助けて、くれたのか……?」
ああ、ようやく人間を救えた。
そして孤独から解放されて、共に戦ってくれるように……。
俺は青年に頷こうとした、刹那。
“バァンッ!”
身体がビクンと跳ねる、青年の目が見開かれる。
俺は音のした方に目を向けると、お嬢様が拳銃を俺に向けていた。
何となく、身体を触ると生々しい音がした部分があった……胸だ。
たぶん、心臓を撃たれたな……ははっ。
俺のゾンビはゆっくりと倒れ、俺の意識がなくなった。