ゾンビ、不法侵入をする
俺たち人間食う、人間食ってウイルスから力貰う。
路地を抜けてモタモタ移動。
サバイバルホラーであるアンフェールのゾンビは、パニックホラーな走るゾンビとは異なる、歩くことしかできないゾンビ。
このゆっくり、しかし確実に殺意の籠った歩み寄りが恐怖を増長するのだとか。
無論ゲーム性からこういう設定にしてることも当然あるだろうが。
しかしこんなスピードじゃ、逃げることも襲う事も大変だろう。
正直脳天に弾丸をぶち込める実力の人に見つかったら、あっさり死んでしまいそうで震える。
「ウ……?」
家屋が並ぶ道を歩いていると、ふと一つの家屋が目に入る。
そこは窓が破られていて、高さ的にも簡単に侵入できそうだった。
俺はひょこひょこそこに近づいて、若干身体にガラスが刺さりつつ中に入る。
どうも、不法侵入です……仕方ないな、ゾンビだもんな。
俺は一人で勝手に納得すると、ゾンビとは思えない器用な動きでガラスを抜いて探索を始める。
始めてすぐ思ったことだが、既に凄惨な光景がほいほい目に入る。
銃で撃たれたのか、倒れているゾンビらしき死体。
そして銃が傍らに転がっていて、一体のゾンビにむしゃむしゃされている女性。
見た感じ失血死したみたいだが、状態が新しい。
つまりもう少し早ければ助けられたかもしれない、RTA動画なら多分再走要求のコメントが飛び交っていることだろう。
ごめんな、俺がとろいせいで……。
改めてゾンビの無能さを痛感しつつ、女性を食っているゾンビを不意打ちで噛みつく。
せめてもの情けだ、俺が食ってやろう!
……いやいや、これは中途半端にしてゾンビ化する可能性を危惧してだね……。
「オゴボ……!」
“ガブシュッ! ブシュウウウウッ……”
食べるのに必死だったゾンビ君、あっさり俺に喉笛を噛みちぎられて大混乱。
出血がひどく、体力が一気になくなって動けなくなった。
俺はそれを見届けてから、女性に手を合わせてからいただきますと魔法の言葉を唱えつつ齧り付く。
ふむ、何となくだが女性の方が柔らかくて食べやすいような気がする。
脂肪の割合が、男性よりも女性の方が大きいからかね。
いやまぁ、出来る事ならこういうのは避けたいけども……助けられる命は助けたい、俺ゾンビだけども。
腹が膨れ、さっき喉笛を噛みちぎったゾンビはくたばった。
女性もこれでゾンビになることはないだろう、やったね!
……気を取り直して、俺は探索を再開した。
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十分ほど探索して、資料を見つけた。
それには現在この世界の状況が分かるものだった。
1992年、8月15日(水)……。
これは驚いた、日付的にはまだパンデミックが始まって大して経ってない時期だ。
恐怖の死神主人公、名前をファルコと言うが……彼はまだこの町に来てないという事になる。
よかった、首の皮一枚つながった。
しかしこれは同時にまだ市内の警察組織が生きていることを意味していて、二日後にはアンフェール市警による対ゾンビ作戦が始まる。
こうなるとゾンビ側に多大な被害が出る、と同時に保護された生存者や警察の負傷者から新たなゾンビが出始めてどんどん感染拡大していく。
そして市内がゾンビに傾いてる状態の時に主人公がやってくる、確か今からなら十日後だったか。
……主人公がいなかったとしても、警察に殺されちゃ意味がない。
何とかしてその作戦から逃れなければ……。
そのためにもやはり、ゾンビのままじゃいかん。
強く、強くなるのだ……ただのゾンビにはまだ出来なくても、知能と知識がある俺なら活路がある。
ウイルスの力で成長、そして変異するのだ!