俺、ゾンビになった
この作品は、ノリと勢いで構成されています。
「ただいま……まぁ、誰もいないだろうけど」
俺は深川昌、25歳。
辛い辛い仕事を終え、寄り道なんぞせずにまっすぐ家に帰宅する。
帰宅するとシャワーを浴びて一息つきつつ酒をあおる。
「やってらんねぇよ……」
新卒で入った会社は、実はブラック企業でした~と言う地獄みたいな現実。
辞めたいと思ったけど、新卒で入ってすぐだった時は変な責任感から言い出せなかった。
そしてそのままズルズルと仕事してきたが。
もう限界だ。
「現実なんぞクソだ!」
疲労と酒の勢いで大きく声を出し、ふらふらと立ち上がってゲーム機を起動する。
中に入っていたソフトは、所謂ゾンビゲーでサバイバルホラーの“アンフェール”と言うものだ。
舞台は欧州の片田舎にあるアンフェール市で、極秘に研究されてたウイルスが事故で拡散。
市内のあちこちで感染した人間が、血肉を求めるゾンビになって周囲の人間を襲い始める。
そんなところに運悪くやって来た主人公が、クリーチャーだらけのアンフェールで生き残るために戦うって内容だ。
まぁ言っちまえばその手のジャンルでの定番、良く言えば王道って感じのストーリーだ。
ただゲームシステムはかなり変わってる。
定番なものだと主人公は攻撃を受けてもウイルスに感染しない、けどこのゲームだと普通にする。
感染状態だとどんどん体力が削られていく、それに対して主人公は二種類アプローチが出来る。
一つ目は薬でウイルスを抑制しながら、ラストダンジョンの研究所でウイルスを完治させるまで頑張る。
二つ目は食べ物で体力を回復しながらウイルスの猛威に堪えて、“主人公を強化する”。
正直一つ目の方が難易度としては楽であり、ストーリーをクリアするならそっちの方が無難である。
ただ二つ目だと別のEDを見れるし、ウイルスの感染に堪えているとステータスを強化する“進化ポイント”なるものが貰える。
ステータスの強化次第では鬼みたいな強さの主人公を作り出して、サバイバルホラーから無双アクションに早変わりさせられるのだ。
そういうのが好きな人は、このアプローチで極めようとする……まぁ実は俺もそういう人種。
「死ね死ね!雑魚どもがぁ!」
威力が低いが壊れないナイフが、銃器以上の活躍を見せる。
この壊れっぷりがたまらなく楽しい……ストレスの解消になるぅ……。
えっ、だったら最初から無双アクションやればいい?
バーロー、最初から無双できるゲームなんぞに意味はない!
理不尽な設定のゲーム内で、ちゃんと努力して強くなって無双してるから気持ちええんじゃい!
……いかんな、テンションがおかしい。
やっぱ疲れてるんだわ、俺。
「寝よう……」
セーフルームでセーブをして、ゲーム機の電源を落とす。
それからベッドに入り、お気にいりの抱き枕を抱いて横になる。
……明日もあそこで働くのか……嫌だな……。
どれだけ努力しても見返りがなく、仕事の遣り甲斐がない我が会社を思い浮かべる。
「頑張れば頑張るだけ報われる場所に行きたい……」
そう呟いて俺は深く深く眠りについた。
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ふと目が覚める。
暗く薄汚れた壁が目に入り、俺は首をかしげる。
だって俺は確かに自宅のベッドで横になったはずであり、こんな場所で寝ていたはずがないのだ。
疑問に思いながらゆっくり視線を動かすと、目が合った……死体と。
「ウオォォォオ……?」
俺は大声を出して跳ね起き……れなかった、上手く動かず腹筋しただけ。
それどころか大声など出せず、変な呻き声みたいなものが出た。
余計に混乱した俺は、ちょっと立ち上がってみようとした。
ゆっくりと、フラりとしながらもなんとか立ち上がる。
けれどフラフラしており、いつか倒れてしまいそうだ。
「ウウゥ……」
呻き声を上げながら周りを見渡す。
酷いありさまだ……死体があって、あたりに血痕が飛び散り、ゾンビが人を追いかけ……。
ちょっと待て。
この光景すんごく見覚えがある、そうついさっきまでテレビ画面越しで見ていた気がしてくる。
……もしかしてここアンフェール市なんじゃね?
いや、ゲームの世界にいるって発想は危ないってのは分かる。
けど……。
「オオォ……」
俺が出してるこの声……もろゾンビやん。
アンフェールで、それこそ腐るほど聴いた声だ。
周囲の死体を眺めても、アジア系と言うより欧州系ですし……。
間違いない、俺アンフェールにいる……よりにもよって、最弱のクリーチャーであるゾンビになって。
何でだよ!せめて主人公でないにしろ人間にしろよ!
あれか、俺が社畜だって言いたいのか!?
うるせえよ!分かってんだよそんな事は!
「オ、オオォォォォ……」
……理不尽だ。
俺は結局、何処に行っても最底辺なのだ。
己の運命を呪いながら呻き声を上げた。