異世界ドロップアルバイター
誤字脱字は諦めて下さい。
「ニカちゃん!こっちに、エールをもう一杯だ!」
「おうっ!俺にもだ!」
「はーい!ちょっと待ってて下さいね!」
「ワシはツマミじゃ!タイガーラントの甲羅焼きと、ピヨット鳥の唐揚げじゃ!」
「はいはーい!あっ!タンジットさん、また肉ばかっり頼んでますね?たまには野菜メインのオツマミにされた方が良いのではないですか?」
「ホッホッホッ。ワシの体調を気遣ってくれとるんじゃろうが、お断りじゃ!ワシは好きなときに好きなものを好きなだけ食うて死ぬんじゃ!」
「タンジット爺さん、せっかくニカちゃんが心配してくれてんだから、ちっとは聞く耳持てよなー」
「ああん?何じゃと、こんの若造がぁっ!例えば大好きな酒を、休肝日じゃからってお茶に代えろなんぞ言われても、お主は聞かんじゃろう?それと同じことじゃて」
「うぐぐっ……………………」
「そう言うことじゃー。さぁ、ほれほれ!甲羅焼きと唐揚げを持って参るのじゃっ!」
「ふぅ…………しょうがないですねぇタンジットさんは。店長ぉーオーダー入りまーす!」
客足は次々と衰える事無く増えて行く。
今夜も私がアルバイトするゴルゴニウスの酒場は、絶好調だ。
申し遅れました。私の名前はニカルゲニアーシェラ・ヴィ・フィアマータ、一応貴族の出ですがここでは通称ニカで通してまして、華も恥じらう15歳です。
朝は森で木こりのバイト、昼はギルドの討伐クエストのバイト、夜はこの酒場でバイトをし、日々の生活費を自分で賄っております。
えっ?一体いつ寝ているのかって?寝てませんが、何か?
元々私は保持している魔力量が、異常に多いのだが、残念な事に私は全く魔法を使用する事ができない。
なので溜まりまくった魔力によって、全然眠くならない身体になってしまったのです。
寧ろ少しでも身体を動かして発散していないと、重篤な魔力酔いを引き起こし、ぶっ倒れてしまうのです。
普通は魔力過多な場合は、虚空など他の人の迷惑にならない場所へと、魔力消費量が多い魔法をぶっぱなして、体内の魔力量を調節するのですが、私の場所はその頼みの綱である魔法が使用できない。
身体を動かすことにより、溜まった魔力を発散出来ると分かるまでは、良く魔力酔いでぶっ倒れてました。
赤い顔で突然倒れるので、家族にはずっと病弱だと、勘違いされていたみたいです。
現在はバイト先に通うのに、実家の邸からでは効率が悪いですし、外聞も悪いので下町で1人暮らしをしてます。
15歳の小娘が1人暮らしなのは、危険ではないのか?ですか?
ご心配には及びません。この世界では、日本のように20歳で成人では無く、15歳で成人ですから。
ああ、気付いちゃいました?そうです、私は元日本人………いわゆる異世界転生ってやつを経験しております。
最初は混乱しましたが、もう慣れましたし、日本には戻れないのだろうと直ぐに理解しまし、何よりもそれどころでは無かったと申しますか……………。
まぁ、父上や兄上は私の1人暮らしには猛反対されてましたので、半場家でみたいな状態で出奔してしまったんですが、定期的に生きているとだけですが、連絡はしてますから問題は無い。
しかし、前世は三十路まで生きていたので、今生合わせると既に四十路……ゲフンゴフン…………な私に心配とか必要じゃありませんし。
「おうニカ。このオーダーとったら、休憩に入りな!」
「はい店長。有り難うございまーす!」
元気良く店長へと返事をすると、オーダー表を所定の位置に片付ける。
うんうん。魔力消費量もボチボチですし、ご飯を食べてマッタリと休憩しますか。
チリリン
店の開閉式の扉についているベルが鳴り、新しいお客さんが入店してくる。
「いらっしゃいま……………………………せ……………」
私はまだ店内に居たため、微笑を浮かべながら挨拶を述べている最中に、そのまま凍り付いた。
「い、居たーーーーーっ!!」
「うきゃあっ!!」
そいつは私と目が合うと、指を指しながら猛スピードでこちらに近付いて来た。
そしてガシッと力強く両肩を付かんでくる。痛ててっ!放せ!
「やっと見付けたぞ!アーシェ!さあ俺と一緒に帰るんだ!」
「お断り致します!」
「っ!?………………な、何だと?」
「ですから、お断り致します!」
「ウ、ウム…………。俺の聞き間違いだな?帰るぞ?」
「聞き間違えなどでは御座いません。私は家になど帰りませぬよ、兄上?」
そう、現れたのは私の実の兄上である、ガラディアス・ロット・フィアマータ……………フィアマータ伯爵家の次男である。
「我が儘はよせ。この半年間好きに過ごしただろう?邸では父上と兄上と、そしてお前の婚約者様がお待ちだぞ」
「はい?こ、婚約者、ですか?」
我が兄上はボケ始めてしまったのでしょうか?私に婚約者など居りませんのに。ううっ…………か、可哀想に。まだ20歳だという若さなのに………もう………?
「ああそうだ。お前が成人である15歳になったら、嫁ぐ取り決めを、秘密裏にしていたタイラント侯爵家のご当主だ」
「タ、タイラント家当主っ!?」
っおぉぉぉいっ!!!
冗談もボケもほどほどにしてっ!
タイラント侯爵家当主といったら、あの300キロはあるデ………いえ、巨体の持ち主であり、おん歳五十路のバツ3ではなかったか?
しかも秘密裏に取り決めしてたんかいっ!ポロッとうっかり、とんでもない台詞を溢しやがったぞこの兄は。
いや、無理………無理無理無理。
そりゃあ私は、前世を合わせりゃ四十路ですけど、タイラント侯爵…………あれは論外でしょ?
せめて……せめて五十路だけだったら、まだ頷く余地はありましたが、侯爵の体重が最大のネックですよ。
前妻たちをその巨体で次々と、圧死に追い込んだってもっぱらの噂です。
そんな人の所になんか嫁に行けるかっ!私だって他の方たち同様に圧死して御陀仏だっての。嫌すぎる。
ってか、もしや私の1人暮らしに猛反対だった本当の理由はそれか?
ああ、なるほどなー。確かに侯爵家に嫁がせるのに、1人暮らしなんかさせたくありませんよね、普通。そりゃ反対もするよ。
溺愛されてるから、心配で反対されたのかな?って勘違いしちゃってたぞ、コノヤロー!!
「納得したか?さあ、帰るぞ?」
えっ?おい、ちょっ、待て待て待て。今の話のどこに私が納得する要素があったよ?
理由を伝えれば私が簡単に了承するとでも思ってるんですかね?馬鹿か?
ふんっ。それだけは断じて無いわー。
「………………っとく……………な…………………だろ」
「ん?何だ?ボソボソ喋るんじゃない。聞き取れないぞ?」
「……………って、その話の流れから納得出来るわけねーーーーーーーだろがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そう叫んだ瞬間、私は素早く腰を落とすと、兄上の隙だらけな足首に力一杯足払いをぶちかましてやった。
ズガンッ!!「おわっ!!」ドッシーン!!!
あっはっはっ!
面白いようにスッ転びましたよ。ざまぁ。
一応兄上、王族警護の近衛騎士団に所属してませんでしたっけ?
受け身もまともにとれない騎士って、何それ?必要?
所詮近衛など、貴族のお坊っちゃん連中しかおらんのでしょうね。
そんなのに王族護らせてて、本気で大丈夫かね、この国。
まあ、王族がどれだけ死のうが、私には直接関係無いからどーでも良いんですけどね。
うーん。それにしても結構な時間独白してますが、兄上は一向に起き上がりませんね。
もしかして今の足払いで、気絶とかしてませんよねぇ……………流石に。
あっ!あーーーー…………………。
白目向いて泡吹いてるよ。
マジか…………………どんだけぇ?
「おーうっ!流石はギルドの討伐クエスト、上位ランカー様たぜっ!」
「だなっ!外見に騙されると、痛い目見るぜぇ……ヒック」
「そうだそうだ!おじさんたちだって、ニカちゃんの尻を触るのは命懸けなんだぞー」
「細けーとこは聞こえなかったけどよぉ、つまりこの情けねぇあんちゃんは、ニカちゃんに袖にされたってこったろぉ?」
「おまけに気絶させられちまうなんて、クククッ……身体の割りに情けねぇ奴だぜぇ」
「ぎゃはははは」
「確かになー」
「よーし!情けねぇあんちゃんに、カンパーイ!!」
「がはははは、カンパーイ!!」
酒場のお客さんたちは、今のやり取りを余興程度にしか認識していらっしゃらなかったようで、寧ろ盛り上がって更にぐびぐびと美味しそうに酒杯を重ねていらっしゃいます。
はぁ……私のせいで、場が変に白けなくて良かった。
でも、もう流石にここのバイトも潮時ですね。
まだ半年位しか働いてませんが、兄上にバイト先を特定されましたので、申し訳ないけど辞めますか。
次いでに王都から離れて、他国にでも行ってみようかな。
そしたらもう追っては来れまい。
「店長……………以前からお伝えしておりました件ですが」
「おう。知り合いに見付かったら辞めるってやつな。残念だがしかたねぇ。そういう約束だったからな」
「はい。身勝手なお願いを聞いて下さって有り難う御座いました」
「構わねぇよ。お前さんが働いてたこの半年の売り上げで、お釣りがくらぁ!」
ううっ………。店長の漢気……………忘れません。
私は大きく一礼すると、店の裏手にある現在の住みかの部屋へと、足早に駆け込むと見付かった時のために纏めてあった荷物を背負うと、そのまま木こりのバイト先にも辞める挨拶に向かったのであった。
ちなみにギルドへは特に挨拶などは、必要ないので向かわない。基本冒険者って奴は根無し草だし、別にこの国じゃなくても討伐クエストは出来る。それにパーティーとか面倒なのは組んでなかったから自由だ。
他国も含め数年ぶらぶらしてたら、自動で婚約破棄とかになりますよね、きっと。
ま、破棄されなくても、適当に好みの男性が居たらそのまま結婚してしまうってのも良い案だと思うな。
もう成人しているから、親の承諾とか面倒なのは無いしね。
さあってとぉっ!
この国にも家族にも未練は全く無いですから、どこに行きましょうかね。
そうだ!とりあえず隣国の無法者共が集まる国、ダム・クオークにでも行って、アウトランダーたちとガチンコの腕試しするのも良いかもね。
楽しみー。
オマケのその後
ニカ→割りと直ぐに婿ゲット。相手も強いので、毎日魔力消費するため、手合わせとかしてる。その他諸々もしてる。
どんどん脳筋ワールドの住人になってゆく。
兄上→店が閉まるまで気絶したままだったので、酒場のお客さんたちの手によって道端に放置された。
その後彼の身に付けていた高価そうな物は全て無くなっていたとか、彼の大切にしていた(かどうかは不明だが)バックバージ○も無くなっていたとか、いないとか。
確かなことは起きたら明け方の道端の上で、高価な物が無くなっていたって事と、下履きが大きくずり下がっており、あらぬ場所がズキズキと痛んだということ。
タイラント公爵→幼い頃からニカに目をつけていた生粋のド変態。
口癖は「ほひっほひい」
結局ニカは手に入らず、違う若い娘を嫁にしたが初夜の日に心臓発作でアッサリと死亡してしまった。
侯爵位は息子が継いだ。ちなみに息子の口癖は「ふひっふひい」体格は言わずもがな。