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5:回復剤の3C分析―その1


翌朝、俺は二日酔いで頭が痛かった。ジャッラさんの作った酒を美味しいと言ったら、アメリアやジャッラさんが滅茶苦茶入れてくれたおかげで、飲み過ぎたからだ。その時に、俺は俺が異世界人であることと元居た世界の話をした。中でも一番盛り上がったのが、俺の世界の道具についてだった。そんな話を聞いて興味が湧いたのか、翌朝からジャッラさんは色々な物を作り始めた。一方、アメリアは冒険者ギルドに行き、一人でも出来るクエストか人のよさそうな冒険者グループとの連携クエストを選んで、冒険者稼業に勤しんでいた。俺は、冒険者ギルドで経理の仕事をしながら、冒険者への聞き取り調査を続けていた。


「なあ、もっとウチで働かないか?」

「すみません。俺に住む場所を提供してくれた人に恩返しがしたいので…」

「頼む。ちょっとだけ!さきっちょだけ!」

「短期バイトのさきっちょってなんですか!?」


一週間続いた経理のバイトの最終日を迎えていた。相変わらず、ガラマさんは俺を長期のバイトにしようとあの手この手で勧誘してくる。娼婦の店に連れて行こうとしたり、良い酒を飲ませようとしたり、飯で釣ろうとしたり、給金を上げようとしたりとしてくる。そんなしつこい勧誘のせいで、ガラマさんの顔を見ると警戒するという反射反応が俺の中で構築されてしまった。


「俺の姪もあげるから!」


以前会ったことがあるが、女装したボブ・サップを体現したような女性だった。

あげるじゃなくて、それ押し付けるだよな?


「ガラマさん、そうやってしつこいから、娘さんに嫌われるんじゃないんですか?」

「マリーネ!そう言うけどな!娘に碌でもない男が寄り付くと駄目だから、俺はアレコレ口をすっぱくして言ってるんだ!」

「それじゃあ、結婚できませんね。晴れ着見れませんね。良かったですね」

「それも困るが…あぁ!神よ!私はどうしたら良いのですか!?」

「ほらほら、ツカサくん、今の内に帰りなさい」

「ありがとうございます、マリーネさん。これからは恩人のアイテム屋で働こうと思っているので、たまにここに来ると思います。ですから、その時はよろしくお願いします」

「そうなの?分かったわ。それじゃあね」

「はい、お世話になりました」


俺は頭を抱えて蹲っているガラマさんと笑顔で手を振ってくれるマリーネさんに頭を下げて、アメリアのアイテム屋へと向かった。


「おかえり、ツカサ」


アイテム屋の扉を開けるとアメリアが手を振って迎えてくれた。

ただ、アイテム屋に居るのはアメリア一人だ。そう一人。相変わらず店に客はいない。俺は陳列棚をみるが、全く同じ場所に同じ商品が置きっぱなしだ。全く売れてないのだろう。

そんなアメリアのアイテム屋の現状を再確認した俺は店の立て直しを改めて決意する。


「今日で冒険者ギルドの経理の仕事は終わりだから、本格的にこの店の立て直しをするぞ」

「それで、まずは何をするの?」

「アメリアがこの一週間で得た冒険者稼業の不満を教えてくれ」


俺はアメリアから色々な事を聞いた。

数日かかるクエストは特に色々辛い。具体的には討伐系の場合、長持ちする食料を大量に持っていかないといけないため、美味しくないし、重い。野宿で風呂に入れないため、汗の匂いが気になること。後、水魔法を使える魔法使いの居ない冒険者グループは水を運ばないといけないため、そのグループに参加した時水が重たくて仕方がない。


「後は…ポーションが不味いことかな」

「飲んだのか?」

「うん。なんかね……うーん、酸っぱいし、苦いし、微妙にネバネバしてるから、美味しくない。後…瓶が重たい。私と組んでいた冒険者も言ってた」

「なるほどな」

「だから、重たくなくて美味しいポーションっていうのが冒険者のうぉんつだと思う」

「うんうん。それはそうかもな」


俺も冒険者と話をしていて、ポーションが糞不味いという不満を良く耳にしていた。だから、俺もアメリアに近い答えが出ていた。

俺はアンケートのメモを机の上に置くと、ポーションに関するアンケートの集計を始めた。

アメリアにも手伝ってもらった。アメリアにはアンケートに答えてくれた人の性別、年齢、出身地、レベル、よくいくクエストの種類などの個人的なデータと、ポーションに関する答えを読んでもらった。

すると、ポーションの味について、「非常においしくない」または「美味しくない」に答えた人の割合は、男性より女性の方が、老いた人より若い人の方が、北や西より南や東の出身者の方が、高かった。だが、受注するクエストについては、あまり差が見られなかった。どちらかといえば、討伐クエストをよく受注する冒険者が他の冒険者より「非常においしくない」または「美味しくない」と答えていた割合が高かった。おそらく、討伐クエストはポーションをよく使用するからそうなのだろう。

また、ポーションの効能について、「全然効かない」または「あまり効かない」と答えた人の割合は、レベルが高くなればなるほど、増えていく傾向にあった。この理由はポーションの性能にあると俺は推測した。ポーションは1つ使えば、HPが100ほど回復する。一方、ハイポーションは1000ほど回復する。そのため、レベルが高くなり、HPの上限値が上がれば、ポーションを使うより、ハイポーションを使った方が効率よくHPを回復させることが出来る。だから、レベルの高い人はポーションよりハイポーションを使う。

だから、ポーションが全然効かないと答えたレベルの高い人は、代わりにハイポーションを使っているからポーションについてあまり興味がかったのだ。


「つまり、この街の冒険者で回復剤を使用する人はポーションを使う人とハイポーションを使う人の二つに分けられる」

「もっと、レベルが上がるとエクストラポーションやエリクサーを使うし、お金のない人は道端に生えている薬草を使うから、正確には回復剤を使う人は5つに分けられると思うけど、どう?」

「ほうほう、良い感じだな」

「ねえ、ツカサ、私たちは今何をやってるの?」

「市場細分化だ」


市場細分化という言葉がある。

市場と言うのは消費者によって構成されているため、似たようなニーズやウォンツを持った消費者を集めると、市場(財貨やサービスの需要と供給の関係)は幾つかに分けることが出来る。これが市場細分化である。

何故、このようなことをするのか、ハサミの市場を例に挙げて説明しよう。世の中には何種類ものハサミがある。それぞれのハサミには特徴があって、値段も違う。だから、「とにかく安いハサミが欲しい」というウォンツの人は100均のハサミを買う。そうすると、「とにかく安いハサミがほしい」というウォンツを持った人のグループとそうでないグループに分けられる。で、何故彼らは100均のハサミを欲しがるのかと言うと、あまり手持ちの金がなく、ハサミにあまりお金をかけられないからだ。このように分けると、客の性質やウォンツやニーズを発見しやすかったり、市場の大きさが分かったりする。

では、先ほどの回復剤の市場の場合、「ポーションが欲しい」というウォンツがある。彼らは何故ポーションを買いたいのかと言うと、「回復したい。ただし、ハイポーションほどの効能はいらない」というニーズが彼らの中であるからだ。そして、ポーションを求める人のほとんどはHPの上限値がハイポーションで回復できる量以下であるため、ハイポーションはいらない。一方、「ハイポーションが欲しい」というウォンツを見てみよう。彼らは「ポーション以上の回復効果のある回復剤が欲しい」というウォンツがある。だから、彼らはポーションではなく、ハイポーションを買う。


「やっぱり、この町じゃポーションの方がハイポーションより売れるのか」


回復剤は何を買いますかという冒険者にした質問を集計した結果、ハイポーションよりポーションを買う人の方が数倍ほど多いと分かった。このことから、ポーション市場はハイポーション市場より大きいと俺考えた。

つまり、回復剤を作るのなら、ポーションに似た効能を持つ回復剤を作るとたくさん売れるというわけだ。


「アメリア、ちなみに、エクストラポーションって言うのは?」

「それは、HPが全回復する回復剤で、エリクサーはHP全回復して状態異常も回復できてしまう代物だね」

「ふーん」

「ちなみに、エリクサーもどきは私の店で売ってるよ」

「そういえば、商品説明してもらった時に、完全回復できる飲み物があるって言ってたな。でも、もどきってどういうこと?」

「エリクサーもポーションと一緒で美味しくないから、私が美味しいエリクサーを作りました。でも、エリクサーと効能は同じだけどやっぱり違うモノなので、エリクサーもどきっていう名前で売ってるよ」

「え?味変えられるの?」

「うん」

「ちなみに、ポーションの味は変えられる?」

「できるよ。だって、私の持ってるポーション、イチゴ味だし」

「味変えたら、効能が落ちるってことは?」

「ないよ」

「……」

「どうしたの、ツカサ?」

「そのイチゴ味のポーションを売ろうって発想は無かったの?」

「はっ!そんな手が!」


アメリアは頭が良いのか悪いのか分からなくなってきた。


「それじゃあ、さっそく!」

「はい、ストップ」

「なんで!?」

「まだ、3C分析が終わってないから、後で」

「さんしーぶんせき?」


3C分析とは、自社を取り巻くビジネス環境を分析するときに手法である。

3Cとは顧客のCustomer、競合他社のCompetitor、自社の Companyそれぞれの頭文字から来ている。現在、俺たちがしているのは顧客の分析であり、現在顧客が何を欲しがっているのかや、今後どんな物を欲しがると思われるのかや、政治経済がどう変わってきているのかを明らかにすることが目的である。これらを明らかにすれば、今後その市場が拡大するとか縮小するとかを見定めることが出来る。俺はこの3C分析のところに市場細分化も入れて、細分化された市場が今後どう変化していくのかを分析した方がより見やすくなるのではないかと思ってこのやり方をしている。


「なるほどね。それで、要するにこの町とか国とか世界の動向を知っておくと、3C分析に有利なわけね」

「政治、経済、社会、技術でなんか気になることって言われても難しいか。……最近、この町の変化とかで気が付いたことってあるか?」

「そうだね。やっぱり駆け出し冒険者が増えたことかな」

「それは何で?」

「この国の王様、ダートン王が魔王を討伐した人に多額の報酬を払うって言ったからかな。一攫千金を夢見て冒険者になる人は増えたと思うな」

「今後も増えそうか?」

「増えると思うね。国王様の命令もあるけど、魔物の動きが活発になって来たから、魔王を討伐できなくても魔物退治で生計を立てようとしている人は増えると思う」

「なるほど。他には?」

「駆け出し冒険者が住めるように、安い宿がたくさん建ってるね。私の家の前工事してるでしょ? あそこも宿が出来るんだって」

「あー、あそこ宿出来るんだ」

「冒険者が増えたから、その影響でレストランとか武器防具屋とかアイテム屋が増えたね」


これまでのアメリアの話とマリーネさんや冒険者たちから聞いた話をまとめるか。

政治:

ユフテス王国のダートン王が魔王の討伐を国民に訴える。

魔王討伐に成功した者には多額の報酬が約束される。

経済:

冒険者に関わる産業を営む経営体(冒険者のための宿、レストラン、武器防具屋、アイテム屋)を減税の対象とする。(冒険者産業が発達するように)

イニーツィオに宿やレストランや武器防具屋やアイテム屋が増える。

社会:

駆け出し冒険者の町、イニーツィオに冒険者が集まる。

魔物の動きが活発になってくる。

人以外の生命体エルフなどに対する一部の人の偏見がある。

人に害を加えた言葉を理解する魔物が奴隷になる。

冒険者業に失敗して破産して奴隷になる人がいる。

技術:

インフラ整備が進む。


「こんなところか」


政治Politics、経済Economy、社会Society、技術Technologyの動向を調査して、今後の予測をする分析をPEST分析と言ったりする。


「回復剤に関係することで何か変わったことはあるか?」

「うーん……アイテム屋が増えたからか、ポーションの原料のタルル草が採れにくくなったかな?」

「それじゃあ、近々ポーションの値段が上がるかもしれないってことか?」


モノの値段は先述の通り、需要価格と供給価格や需要量と供給量、そしてそのギャップによって決定することが多い。だから、要素価格の上昇、つまり生産に必要な物の値段が上がれば、コストが掛かるため、生産されたモノの値段は当然上がる。供給価格が上がれば、需要価格とのギャップが少なくなるため、価格が下がりにくくなる。


「つまり、今後、ポーションへの需要は増えるし、供給価格も上がるから、値段は上がる」


すこし仕事がハードになってくるので、投稿がこれまで以上に遅くなると思われます。

楽しみにしている方がいれば大変ご迷惑をおかけすることになりますが、宜しくお願いします。

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