表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1:異世界のアイテム屋を立て直すことになりました。

皆さんは白昼夢を見たことがありますか?

ちなみに、現在、俺、森川司は現在見ている最中だ。なぜ、俺が白昼夢を見ているのかと言うと、数分前の出来事から話す必要があるな。数分前、俺は今日の大学のゼミを終えたので、大学の駐輪場から原付に乗ってバイト先に向けて出発した。ゼミが少し長引いたから、急がなければバイトの時間に間に合わないと思って、少し法定速度をオーバーして走っていた。以前ネズミ捕りに捕まってから、極力法定速度を守っていたのだが、バイト先の店長が煩いから仕方がない。ネチネチお小言が長い長い。この間先輩が遅れたのを見てたんだが、時間厳守できない奴は社会に出てから困るとか、時間厳守できないことでどれだけの人が迷惑を被るのか考えたことがあるのかとか言う。…正論ではあるが、それだけ長い間説教する暇があったら、仕事したらと言いたい。しかも、途中で脱線する。気が付いたら、何故アラフォーでハゲの自分は結婚できないのかという愚痴になっている。結婚できないと嘆く前に、清潔にして、身だしなみに少しは気を遣えと言いたい。

話がずれたな。まあ、そんな面倒な店長がいるバイト先だが、仕事の内容が楽な上に、色々学べるので店長の機嫌を損ねて首にされたくない。そんな感じで少し法定速度を10km/hほどオーバーして走っていた。そして、バイト先まで後500mぐらいの時だった。角を曲がった瞬間、目の前に熊が現れた。冗談だと思うだろう?マジなんだって。近くの里山から降りてきたんだと思う。そんな感じで目の前に急に現れた熊が俺に向かって凶暴な牙を見せて、立ち上がって威嚇してきた。このままだと俺は熊に突っ込み、熊に食い殺されるかもしれないと思った。この時期の熊は越冬のため、たくさん食うと聞いたことがあるからだ。だから、俺は原チャでUターンして逃げようと思った。だが、雨上がりのマンホールは滑りやすいため、そのうえでUターンすると当然スリップする。その拍子に俺は頭を打って気絶した。

そして、目が覚めたら、病院ではなく、どこかの古い建物のベッドの上だった。頭は痛いが、他の部分は無事だった。どうやら、熊に襲われずに済んだみたいだ。俺はゆっくりと立ち上がり、ベッドのある部屋から出ようとする。だが、ドアノブに手を掛けようとしたとき、ドアが勝手に開き、お盆を持った女性が入ってきた。

女性の見た目は20歳前後で、身長は165前後、細身で、サラサラの金髪ポニテ、二重で目がパッチリ青い瞳がよく見える。服装はヨーロッパの民族衣装…アルプスの少女ハイジとかで出てきそうな服装(見たこと無いけど)に近いものであった。童貞10人が彼女を見たら10人とも二度見するほどの美人と言えるだろう。モデルをしているといっても不思議ではないだろう。ただ、気になるのは、耳の形である。童話に出てくるエルフのように、彼女の耳は横に尖った大きな耳であった。


「もう、大丈夫?」

「え?…えぇ、ゆっくりできましたから、俺はどうしてここに?」

「覚えてないの?」

「はい。少し記憶があやふやで……」

「タースの森で倒れているのを見つけて、ウチに連れてきたの。あのまま放っておくと危なかったから」

「そうなんですか。ありがとうございます」


タースの森と言う地名を俺は知らない。知らない地名に見たことのない耳をした同年代ぐらいの女性を目にした俺は白昼夢を見ていると判断した。

よく、夢の中で頬を抓ると痛みを感じないと言うが、本当なのか試してみた。だが、残念ながら痛い。どうやら、夢の中でも痛いものは痛いらしい。わりかし本気で抓ったため、結構痛い。箪笥の角に勢いよく小指をぶつけて、つき指した時ぐらい痛い。


「ほっぺた抓って、どうしたの?」


エルフのような女性は首をかしげる。


「いや、頭がぼーっとしていたので、目ざましにと……」


夢を見ているみたいなので頬を抓ってみました、と言うと正気かどうか疑われてしまうかもしれない。かといって、美人がいるので夢かと思いましたなんて、キザな事を言うようなキャラではない。ってか、本気でこんなこと言う奴いるのか?いるとしたら、頭の中身はゆかいなことになっているだろう。とまあ、そういう理由で、こういう風に答えたのだが、これはこれでないなぁ。


「面白い人だね」


エルフのような女性は口元を右手で隠して、クスクスと笑った。ってか、笑われた。ギャグじゃなくて半分本気で言ったのだが、ネタ扱いされた。俺はそんなしょうもないことで若干落ち込む。


「ねぇ、これ、食べる?」


そう言って、エルフ風の女性はお盆を渡してきた。お盆の上には輪切りにしたフランスパンが数枚と見たこと無い果物とスープとフォークとスポーンが乗っていた。

量は少ないが美味しそうな食べ物を見た俺の腹から、ものすごい音が鳴った。


「すみません。お言葉に甘えます」

「はい。どうぞ」


俺はベッドの近くにあった椅子に座ると、ガツガツと一気に食べる。がっつく俺を女性は隣の席に座って嬉しそうに微笑んでいた。あのー、そんなに見られると食べづらいんですけど…


「やっぱり人間の男の人って食べるんだね」

「まあ、腹が減ってたんで……」


今、この女性…俺の事を人間の男の人って言わなかったか?俺は口の中にある物を飲みこむと、女性に質問する。


「さっきから、気になっていたんですけど…その耳って…」

「うん。私、エルフだよ」


……えぇーっと、俺はどう反応したら良いのでしょうか? コスプレ用のつけ耳ですって答えを期待したんですけど……。俺は返事に困る。下手に返事をすれば、不審者扱いされるか、余計に心配されるかもしれないからだ。このエルフの女性の言うことが本当なら、俺はこの人に助けてもらっているのだから、礼を返すべき立場であって、余計に心配されたり不審に思われたりするのは心苦しかったからだ。

ここは、適当にごまかすか……後後、自分の置かれている状況を理解してから何とかしよう


「ここから、遥か東の方から来たので、エルフを見たのは初めてなもんで……」

「そうだったの。もしかして、ミンリュー国から?」

「さあ、田舎の出なので、自分の国の名前すら知らない世間知らずでして…」

「そっか」


あのー、エルフの女性がすごい落ち込んでいるんですけど、なんか変に期待させて勝手に落ち込ませてしまったみたいなんですけど……とりあえず、一つ分かったことがある。ここがどこかのか全く分からないが、ここは地球ではないらしい。認めたくないが。

俺は受験で地理を選択して偏差値そこそこの大学に入学したため、ある程度の国の名前は把握している。だが、ミンリュー国なんて聞いたことがない。よって、ここは地球ではないと判断した。もし俺の考えが間違っていて、ここが地球だとすれば、ここは並行世界か俺のいた時代から遠い未来なのだろう。


「そういえば、…えぇーっと…名前は…」

「森川司です。名字が森川で、名前が司です」

「ツカサ…変わった名前だね。それに、名字が先に来るなんて、東方は凄いな。私はアメリア、アメリア・ローリエ。アメリアって呼んで。それで、ツカサの倒れていた場所の近くにこんなのが落ちていたんだけど、違う?」


アメリアはパンパンに膨らんだ茶色のバッグを俺に見せてきた。俺はそのバッグに見覚えがあった。なぜなら、そのバッグは俺の持ち物だったからだ。そして、バッグがパンパンに膨らんでいるのは、大学のゼミ発表のために図書館から本を借りたからだ。


「俺のです。ありがとうございます」

「良かった」


俺はアメリアからバッグを貰うとバッグの中に何が入っているのか確認する。バッグの中には数冊の経営学の本とスマートフォンとスマートフォン用のソーラーチャージャーがあった。


「この本の文字、変わった文字だね。読めるの?」

「えぇ、まあ」

「思ったんだけど、ため口で良いよ。見た目は同い年ぐらいだし、気を使われてるの、あまり好きじゃないし」

「そうですか。でも、助けてもらいましたし……」

「その助けた人が止めてって言っても?」

「分かった」

「よろしい。それで、この本はなんて題名なの?」

「マーケティング学」

「まーけてぃんぐ? 要するに、どういう本なの?」

「商売に関する学問の本だ」

「商売に関する学問が東方にはあるんだ。すごいね」


目を輝かせたアメリアは前に乗り出してくる。ってか、近いです。顔下数十cmの所で柔らかそうなメロンが揺れています。俺童貞なんで勘弁してください。殺すつもりですか?

マーケティングとは、最近の米国マーケティング協会の定義によると、組織と個人の目標を満足させる交換を創造するために、アイデア、財、サービスを作り出す活動や、価格、プロモーションおよび流通にかかわる活動を計画、実行する過程である。


「ねー、良かったら、その本に書いてあること教えてくれないかな。ちょっとだけで良いから…駄目?」

「まあ、良いですけど…」

「ありがとう!」


アメリアは俺に飛びつくように抱き着いてきた。アメリアさん、あのそういう風にですね。抱き着くとですね。健全な男子はですね。色々困るわけですよ。気があるんじゃないのかって勘違いしたりするわけですよ。ですから、抱き着かないでほしんですけど。

ヨーロッパじゃハグは文化として認められているし、そういう文化なのか?


「これでお店を立て直せる」

「店を立て直す?」

「うん、実はね…」


椅子に座ったアメリアは俺にこれまでのことを話してくれた。

アメリアは父親や弟と一緒にエルフの森に住んでいたらしい。だが、最近エルフの森の環境が変ったことで、森での生活が難しくなったため、森を捨てて、イニーツィオに移り住んだ。イニーツィオの町を選んだのは、この町が駆け出し冒険者の集まる町であるため、冒険者向けのアイテムを作って販売すれば、自活できると考えたからだ。事実、イニーツィオの町には多くのアイテム屋があり、繁盛している店が多いからだ。

だが、いざ商売を始めてみたら、全然上手くいかない。儲けが0の日なんてよくあるらしい。そのため、生活費はこれまでの貯蓄で賄っているのが現状らしい。

何故商売が上手く行かないのか分からないアメリアは途方に困っていたため、商売に関する学問について興味があるらしい。


「なるほど」

「だから、お願い!」


アメリアは手を合わせて頭を下げる。アメリアの口調や姿勢から必死さが伝わってくる。

助けてもらった上に、貧乏なのにご飯までもらったのだから、断るつもりはない。


「分かった。でも、この本の厚さだから教えるのに時間がかかる。それに、俺は流れ者で家もないし、収入先もないから、そういうのが落ち着いてからでもいいか?」

「私の家に泊まれば良いよ」

「あのさ…警戒とかしないの?」

「しないよ」

「俺若い男だよ?」

「でも、こうしていても悪いことしてこないし」


あの子のちょろすぎませんか?ここまでちょろいと心配になるんですけど……でも、まあ、住む所に困っているし、ここは甘えてしまうか。


「それで仕事だけど……」

「私の家のお店で働いたら良いよ」

「良いのか?」

「良いって言ってるじゃん」


アメリアは二カッと笑う。良い笑顔ですけど、収入0なのに大丈夫なの?と言いたくなる。

まあ、経営改善のためにコンサルタントを雇ったのだと思えば、アメリアの行動は合理的なのかもしれないか。となると、生活を成立させるためにも、なんとしてもアメリアの店が儲けられるようにしないとな。


「それじゃあ、これからお世話になります」

「うん。よろしくね。ツカサ」


俺とアメリアは握手を交わす。女の子の手って柔らかいな。ってか、手ちっさ!


「そうだ。お父さんを紹介するね」


そういえば、父親と一緒に住んでいるって言ってたな。

アメリアは俺の手を引いて、下の階の部屋に連れていく。廊下や階段を歩いていて思ったのだが、失礼な話、この家ボロい。日本の建築基準がどんなものかよく知らないが、違法建築だと診断されるほど、耐震性とか耐久性がやばいように見える。どんなのかよくわからない?限界集落にある廃屋になった農家の家みたいな感じだ。雨はある程度凌げるが、隙間風がすごそうな家だ。

そんな凄い家の一階の奥にある町工場の作業場のような工具だらけの部屋に俺はアメリアに連れてこられた。


「お父さん、ツカサと一緒に住むことになったから!」

「ツカサ?」

「私が連れてきた人」

「どうも、紹介いただきました。森川司と言います」


アメリアの父親は職人みたいな人だった。中肉中背で、目は細く、手は野球のグローブのようにごつい。顔の輪郭は逆五角形で、いかつい顔をしている。そして、エルフ特有の長くとがった耳がある。アメリアは父親にじゃなくて、母親似だな。


「ジャッラ・ローリエだ」


そう言うと机に向き直って作業を始めた。ちょっと!ちょっと!!娘さんが勝手に若い男が一緒に住むことを了承しているけど、父親として良いんですか!?

アメリアはまた俺の手を引いて、俺を家の中で連れまわしながら、台所やふろ場などの場所を教えてくれた。


「俺はどこの部屋で寝泊まりしたらいいんだ?」

「私の隣の部屋……ここを使って」


アメリアはある部屋の扉を開く。すると部屋にはベッドと机と箪笥があった。生活感がないが、埃がないことから、アメリアか父親のジャッラさんが掃除をしているのだろう。


「この部屋は?」

「私の弟のロイの部屋だったんだけど、アイテム屋なんて儲からないから俺は冒険者になるんだって出ていったから、今は誰も使ってなくてね」

「そうだったんだ」

「だから、自分の部屋だと思って使ってね。この家はこんな感じ。それじゃあ、お店の方に案内するね」


アメリアに連れられて一階の店舗に来た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ