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2-1 太陽を掴んだ後の話-1

 「ピピピピピ、ピピピピピ、ピピピピピ……」

 「――……うぅん……」


 やかましく鳴り響く「ホログラム・フォン」、略してホロフォの目覚まし機能を止めて、ベットから這い出る。


 「ふあーっ……」


 ――まだ眠い。もう一度ベットに潜り込みたい欲求に抗いながら、服を着替え、顔を洗い、髪を整え、大学へ行く準備をする。

 テキトーに準備した朝食を食べる。

 荷物が入ったバッグをひっつかみながら、一人暮らししている部屋の扉を開けて、カギをキチンと閉めて、歩き出した。


 大学まで電車に乗って30分ある。暇になりがちな電車内ではホロフォから照射される立体画面を見つめる人達が大半だ。立体画面のサイズを小さく調整すれば、他の乗客への迷惑にもならない。ホロフォは現代人の絶好の暇つぶしの為のツールだ。もちろん、仕事や勉強にも使える。一日中使っていても充電切れにならないので、現代人は心置きなく暇さえあればホロフォをいじっている。

 本当に革命的な発明だ。

 その例に漏れず、僕もホロフォを起動する。ネットに接続して「スキルシーカーズリンク」の公式サイトを開く。

 その中のに、「発見済みスキル」の項目を見つける。今までゲーム内で発見されたスキルの一覧がズラリと並ぶ。その一覧を「消費SP」順に並び替える。すると、一覧の一番上に、それをみつけた。


 <スキル名:[極死の太陽]/発見者:ユウ/消費SP:500/発見日時:2038/4/10・18:32>


 「……マジで載ってるよ……」


 昨日ジクト、もといアリマが言った通りだった。本当に公式HPに僕のキャラクターの名前が載っている。

 ――ゲーム内最大規模のスキルを発見した者として。


 「うおお……」


 ちょっとぞくっとなった。これはなかなか……どこかおっかないような、気分が良いような……


 その下、このゲーム内で2番目に消費SPが多いスキルも見てみた。


 <スキル名:[極みの拳]/発見者:サエ/消費SP:80/発見日時:2037/12/31・22:00>


 消費SPが多ければ多い程そのスキルは強い、ヤバい、というジクトの説明を信じるならば、この現在、ゲーム内で消費SP量第2位のこのスキル……それでも消費SP80だ。対して、僕の手に入れた[極死の太陽]は500。とんでもない差だ。……始めたばかりの僕にはどう考えても分不相応だ。ここまでのモノだと、喜んでいいのやらどうしていいのやら。


 次に公式HP内の掲示板にチェックする。――もしかして、と思ったが、[極死の太陽]の情報が公式HPに公開されてからの掲示板はすさまじい騒ぎだった。


 「500ってなんだよ!?」

 

 僕が聞きたいよ。


 「このユウってヤツ、何者だ?」

 

 ただの初心者プレイヤーだよ。


 「こんなもんどうやったら手に入るんだ?」


 知らん。


 「誰か実際に使ってるトコみたか?」

 「昨日『初心の草原』にたまたまいたらクソでけえ火の玉みたいなのが飛んでるのが見えたぜ」

 「『初心の草原』?まさかこの『ユウ』ってやつ初心者か?」

 「そう決めつけるのは早計だろ。つーか初心者でこんなもん手に入れるとか、ナイナイw」

 「[太陽」がぶっぱなされた後の『草原』はヤバいことになってたみたいだぜ。もうそこら中が燃えまくっててよ……」

 「フィールドにそこまで大規模に影響を及ぼすスキルなんて、初めてだよな……」 

 「流石消費SP500ってか?」

 「結局日付変わるまで『草原』の炎は消えなかったらしい……」

 「結局どうやったら手に入るんだよ!?羨ましー!!」

 「『ユウ』を見つけたら無理矢理にでも問い詰めようぜ」

 「やめろよ、そういうの。規約違反じゃない?」

 「てか『ダイレクトメッセージ』送れば良くない?」

 「もう送った!」

 「俺も!」

 「あたしも送った!」

 「おい迷惑だろーが」

 「いいじゃん別に。あんなモン手に入れたんだ、ある程度しょうがないだろ」

 「『ユウ』も災難だなw」

 「そうか?このゲーム内ぶっちぎりのスキルを手に入れたんだ、災難どころか幸福だろ」


 ……好き勝手言われてるよ、僕。

 どうやら、次「スキルシーカーズリンク」にログインした時は、最初に「ダイレクトメッセージ」とやらの処理に追われることになりそうだ。……ちょっと憂鬱。どれくらいメッセージが来てるんだろう?




 「あぁ、『ダイレクトメッセージ』?まぁ要するにお前宛てのメールだよ、ゲーム内だけのな。大体わかるだろ?」

 

 大学について即、アリマに相談したら、そんな言葉が返ってきた。


 「やっぱそうかぁ」

 「おうよ。プレイヤーネームさえわかれば送受信できちまうからなー……今頃めっちゃメッセージ来てんじゃね?」

 「なんか大変な事になっちゃったよ……」

 「……全くだなぁ」




 昨日、僕、カギノ・ユウヒはこのアリマ・サイに強引に誘われて、「スキルシーカーズリンク」というこの2038年には珍しいVR技術を使用していない、MMOアクションゲームを始めた。

 アリマのキャラ、「ジクト」に教えてもらいながら、僕は自分でつくった「ユウ」というキャラクターを使って遊んでいた。

 ――そして、最初のレベルアップと同時に、[極死の太陽]という、このゲーム内で最大の規模のスキルを唐突に手に入れてしまったのである。

 その情報は公式HPで公開され、一夜にして初心者プレイヤー「ユウ」……つまり僕はこの「スキルシーカーズリンク」というゲームの中で時の人となってしまったらしい。




 「まぁ今はよくわからないや……とりあえず、今日も大学終わったら『スキルシーカーズリンク』やろうよ、アリマ」

 「……へぇ?最初は乗り気じゃなかった癖に今日はそっちから誘ってきたか」

 「ん……まぁね。ちょっとだけ続けてみようかな、って気分にはなった。正直結構面白かったし」

 「……そーかそーか!そりゃあ良かったぜ!――でもわりーな。ちょい今日は無理なんだよ。用事があってな」

 「ん、そっか」

 「まぁゲーム内の『チュートリアル』でもやってみたらどうだ?俺、昨日大体教えたとは思うけど、まるまる全部ってわけじゃねーんだよ。……あんなことがあったしな」


 あんなこと、というのは、あの[極死の太陽]を僕が手に入れたことだろう。あのゲームの中でただ一人、僕だけが使える、あの巨大な太陽。その衝撃で、昨日はなし崩し的に解散になってしまった。


 「……そうだね」

 「まぁーそういう訳で、今日やるんだったら一人でやってこいよ、カギノ」

 「わかった。その『チュートリアル』ってのはどうやったらできるの?」

 「あぁ、それはな……」


 ――アリマに「チュートリアル」のやり方を教えてもらう。とりあえず、今日はこれをこなして、操作を復習しよう。


 「――わかった。ありがとう、アリマ」

 「……おお、頑張れよー」



 

 そう言って僕はアリマと別れ、大学の講義を受け、そして一直線に寄り道せすに一人暮らししている部屋に帰ってきた。早くゲームを始めたかった。

 あの「太陽」のせいで、普通とはちょっと変わったスタートだったけれど……あのゲーム、「スキルシーカーズリンク」自体は面白い……ような気がする。


 「もうちょっと……やってみるか」


 そう、もうちょっと、このゲームを見極めるため、続けてみるのも悪くない。



 思えば、この時点で僕は、いつの間にかこのゲームに強く惹かれていたのかも知れない――。

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