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1-1 2038年にもなって-7

 「……『ユウ』、今公式HPを確認した。今日のこの日付、この時間で……その[極死の太陽]の情報が公開されてる。『ユウ』、お前の名前と一緒にな。『ユウ』よ、今お前は、未だ誰も発見したことの無い、しかもそれまでの何よりも規模のデカい『スキル』を手に入れたこのゲーム唯一のプレイヤーになったんだ……」

 

 唯一のプレイヤー。その響きに、またも心臓がドクン、となる。


 「おい、『ユウ』よ……流石にここまでとは思わなかったが、これが『スキルシーカーズリンク』のデカい魅力の一つだ。『唯一のプレイヤー』……良い響きだろ。その中でもお前は格別だってことだ……どうだ?」

 「唯一……」


 その言葉にちゃんと返事が出来なかった。

 

 なんだ、コレ。


 よくわからんが……


 もしかして僕は、凄い興奮してるのかも知れない……


 「……使ってみよう」

 「……おう。やってみろ……」


 [極死の太陽]を『キー・ボード』のボタンに設定する。


 「丁度良い具合の奴()がいるぜ……」


 そう「ジクト」が言って、その方向を見る。その視線を追って、「ユウ」を動かして視点を変えてみると……

 

 「ゴブリン」が3匹くらい固まってこちらをじっと見ていた。まるで、こちらの動向を慎重に伺うように……


 「タイマンじゃお前に敵わねえ、と判断したらしいな、アイツらは。今度は徒党を組んでくる。だから……」

 「一発、この[極死の太陽]をぶちかましてみよう、ってことだね?」

 「おう。……見せてくれや。「スキルシーカーズリンク」で現在最大のスキルを……」

 

 最大のスキル。

 何だか実感があまり湧いてこない。

 なんせつい数十分前に始めたゲームで、そのゲームの中で最大の「何か」を手に入れた、なんてあまりにもワケがわからない。


 ――状況はどんどん僕を押し進めていく。

 徒党を組んだゴブリンがじりじりと距離を詰めてくる。

 彼らは、どんな運命を辿るのだろう。

 僕が手に入れた……「太陽」によって。


 [極死の太陽]を設定したボタンに少し震えた指で触れて、入力する。

 すると、ゲームの中の「ユウ」は人差し指をピッと空に向けた。

 その指先から、小さな真っ赤な球体が現れ……そしてそれが爆発的なスピードで巨大化していく。


 「う、うおおっ!!?」


 ホログラム・ディスプレイに表示されたゲーム画面を覆いつくす程の大きさに自分の口から驚きの声が漏れた。


 「な、なんだこりゃあ……」


 「ジクト」の呆然とした声が聞こえる。


 まさにそれは「太陽」だった。凄まじい勢いで炎を噴き出し続ける真っ赤で、巨大な球体。

 見ただけで、規格外の「何か」だと悟った。

 徒党を組んだゴブリン達も呆然とそれを見上げていた。

 不思議なことに……ゲーム内のモンスターでしかない彼らが、絶望しているように見えた。


 「ユウ」は空に向けていた指先をゴブリンの集団に向けて振り下ろす。

 その動きが合図になったように、「太陽」が動き出す。


 「ギ、ギギギギギギィィィッ!!!」


 危険を察知したゴブリン達が散り散りに逃げ出す。

 

 ――しかし、無駄だ。


 その「太陽」はあまりに巨大だったから。


 「太陽」が全てを飲み込むように直進していく。


 その進路上にある草花を全て燃やし尽くしていく。


 太陽から発せられる炎は、まるで世界を塗り替えようとしているかのように、この場所、「初心の草原」の全てに燃え移っていく。


 世界が、変わる。その炎で、「太陽」で変わっていく。


 まるでなんでもないように、ゴブリンの集団を燃やし尽くしていく。それでも「太陽」は止まらない。

 全てを燃やし尽くしながら、僕らの視界から遠ざかっていった――




 「・・・・・・・・・・・・」


 「ジクト」も、僕も、ほとんど何も言う気になれなかった。


 「……マジかよ……マジかよ……」

 という「ジクト」の微れた声。


 そして、


 「[極死の太陽]……」

 

 そのスキルの名前を心に静かに刻み付けるような、僕の呟き。


 それ以外の言葉は何も無かった。

 

 未だにこの草原を燃やし尽くしている炎はまだまだ消えないらしい。

 炎がメラメラと僕らの周り全てで揺らいでいる。

 そう、世界は、一変した。ボタン一つで、あの「太陽」によって、ここは炎が支配する世界になった。

 その「太陽」を扱えるようになった僕は、僕は、僕は……

 ……何を思っているんだろう。自分でも自分の感情に整理がつかない。

 


 「……ワケわかんねーよ……」


 ようやく、「ジクト」が言葉を発した。


 「そりゃ、僕もだ……」


 そう答えるしかなかった。 

 

 あまりの事に気が付かなかったが、……いつの間にか、「ユウ」のレベルが2から10になっていた。

 どうやら、さっきの太陽が、あまりに巨大だったため、この草原中のモンスターを巻き込んで倒してしまい、経験値を大量に得てしまったらしい。


 それを「ジクト」に伝えると、


 「すまん。俺、もう限界……ワケわかんな過ぎだぜ。まさか最初のレベルアップでこんなバケモンみたいなスキル引き当てやがって……このゲーム勧めた俺がビックリする羽目になっちまったじゃねーか……」

 「う、うん……」

 「まぁ、アレだ。こーいう全く予測のつかねースキルがいきなり手に入る驚き、新鮮感が魅力なんだぜ、このゲーム……お、面白いだろ?」

 「そ、そうだね。ちょっと今は色々ワケわかんないけどね」

 「そうだな、ワケわからん。ちょっと今日はもう俺ログアウトするわ。脳味噌がパニック状態だぜ、全く……」

 「そうだね……終わりにしよっか……でも、コレ……この状況、どうする?」


 未だにごおごおと燃え盛る「初心の草原」。これはオンラインゲーム……MMOなのだし、他のプレイヤーもここを訪れる可能性がある。というかもう訪れて僕らと同じように呆然としているかもしれない。


 「知るかよ……どうしようもねえよ、こんなの。別にお前が悪い訳でもねーし……ほっとくしかないだろ……とりあえず、またな……」

 「うん……」


 「ジクト」がログアウトしてその姿を消した。


 僕もすぐにログアウトしたかった。もう自分の脳味噌のキャパシティを超えている事態だ。もう休みたい。

 だけど、何故かそうできなかった。

 

 この炎に包まれた世界を創り出せるようになった、という事実。

 それが自分をここに縛り付けていた。


 これは、ゲームだ。たかが、ゲームだ。

 こうやって一面炎の世界にする力を手に入れたところで、僕らの生きる現実には何の変化も無い。


 だけど、この自分が創り出した炎の世界から目を離せなくなっていた。

 今時VRでも無い、時代遅れの筈の光景に、僕は確かに魅了されていた。



 この炎の世界は、このゲームの世界に生きる者の中で……

 ――この「ユウ」だけが創り出せるのだ。


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