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?-? 《?2038年12月30日?》

 2038年12月30日の深夜のこと……

 闇夜に潜んで、とある者がIS社本社ビルに潜入した。


 (この日のこの時間のこの経路を行けば、誰にも見つからない、だったな)


 ――自分達の統率者の指示を思い出していた。


 彼は、地球人で言うところの怪物である。

 彼は、“蜜”の力を持つモノである。


 彼はエレベーターに乗り込んだ。行き先は、最上階。

 彼にとって、このビルの最上階に行くだけなら、こんなことをする必要は無かった。

 外から直接、最上階まで跳躍し、壁を破壊して侵入すれば良い。

 しかし……


 (まぁ、バレない方が良いに決まっているしな)


 彼に指示をした統率者は慎重だ。慎重すぎる、と言える程に。

 何故なら、前任の統率者は地球人の扱いを失敗して命を落としているからだ。

 もっと正確に言うならば、ある地球人に殺害された。

 その敵をとる為に、地球人に対して何らかの行動を起こす時には、できるだけ隠密に、露見しないように行動することが、今の統率者とその下の者達の基本方針となった。

 ほんのわずかな、というより確認する限りただ一人だが……地球人の中で、彼らを一方的に虐殺できる力を持つ人間がいる。

 その者の注意を引かないように、あるいは地球人の中から新たな脅威がこれ以上発生しないように、念には念を入れて行動しているのだった。




 エレベーターが最上階に到達した。扉が開き、彼は部屋の中に入っていく。機械類がずらりとならんだ部屋だ。それら自体は稼働しているようだが、部屋の明かりはついていない。真っ暗だ。

 しかし、彼の目は“蜜”の力によって暗闇の中でもしっかりと機能している。


 (……これが、「ハニー・プラネット」か)


 彼の視線は、部屋の中心の巨大な水晶玉のような物体に注がれていた。


 (戦いから逃げ出した下らない男の作った物だと聞いていたが……)


 彼は一目で「ハニー・プラネット」の異常性を感じ取った。


 (凄まじいな。“蜜”の力を強烈に感じる。これを作る力を戦闘に回されていたら……)


 彼は微かに震えた。


 (……臆病で助かったな。なんにせよ、確かにコレはおっかない。今は危険なことには使われていないが、将来的にはわからん。指示通り、破壊するか……)


 彼の腕にはいつの間にかナイフが握られていた。「ハニー・プラネット」に近づき、ナイフを振り上げ――


 「ちょ待てよそこのG野郎」

 「!?」


 彼の真後ろから声が聞こえてきた。――声をかけられるまで、まったく気配を感じなかった。


 (い、いつの間に!?)


 彼は動揺しながらぐるりと体を回転させながら、真後ろの人物を斬りつけた。しかし……


 (……刃が通らん!?まさか……まさかコイツは……)


 ナイフの刃が弾かれる。“蜜”の力を込めた渾身の一撃がその人物には全く通用しなかった。


 「イターイ。なにすんのいきなり。久々の再会だっていうのに酷くない?アタシの事覚えてない?印象薄いですかそうですか?」


 ふざけた口調で話す人物……彼女は、彼を見てニヤリと笑った。


 「お……お前は……」

 「そうアタシ。やっぱ覚えてるんじゃん。殺し合った仲だもんね。いやぁ、あの時は良い勝負だったネ!逆転に次ぐ逆転、もうどっちが勝つの!?ワカンナイーハラハラドキドキ!!みたいな。デショ?」


 彼女を見た彼は、ガクガクと震えていた。確かに、彼は彼女と殺し合った。しかし、その内容は「勝負」などと言えるものでは無かった。一方的な虐殺、というのが一番正しい表現だろう。


 「う、ううう……」

 「おいおい、そんな震えるなよーなんかアタシ悪人みたいじゃん。アタシはねぇ、この『ハニー・プラネット』を守れれば良いんだよ。まぁ、やるってんなら相手になるけど、アンタじゃアタシを楽しませられないから、勘弁して欲しいなー」


 彼は過去に殺された恐怖と必死に戦いながら、彼女に問う。


 「『ハニー・プラネット』をどうするつもりだ……!!」

 「別に何も。このままであれば良い。知ってるだろうけど、コイツにはとあるゲームのデータが詰まってる。それがそのままであれば良いんだ、アタシ。まぁ、そのゲームが終われば引き取って使おうかな?とは思うけど」


 彼女は優しい手つきで、「ハニー・プラネット」に触れた。


 「すごいよねぇ……アタシでもコレを作るのは苦労するだろうな。――相当な覚悟を持っていたんだろうね」

 「お前……たかがゲームの為にわざわざここを守っているというのか!?」

 「あぁ、そうさ。その『たかが』なんて言われるゲームの為さ。アタシは、コレを見た時に、その作り手の覚悟に感動したよ。そんなヤツが作るゲームには、興味がある。実はさ、アタシもやってるんだよね、そのゲーム。まぁ他のプレイヤーが戦ってるのを観戦してるだけなんだけど。そこには『本気』で戦うゲーマー達がいるんだ。それを見ていると何だか心が滾ってくるんだよ。それが今のアタシの数少ない趣味さ。実際に自分の体を使って戦っているアタシ。ゲームのキャラクターを通じて戦うゲーマー達。あぁ、この人達はアタシの仲間だな、なんて思えるんだ」

 「……何だと?」


 彼女の言葉の突飛さに、彼は一瞬恐怖を忘れていた。


 「俺やお前の『戦い』は負けたら死ぬ、という『本物』の『戦い』だろう。しかし、ゲームの中の戦いは負けても死ぬわけでもないし、勝利して実際に手を汚すわけでもあるまい。そんな『戦い』は『偽物』だ。取るに足らないものだ。そこには雲泥の違いがあるだろうよ……」

 「……まぁ、『ゲームだから』という理由でしょーもない『戦い』をするヤツは確かにいるさ。だけどさ……」


 そこで彼女は歓喜の表情を浮かべながら言葉を切る。


 「いるんだよね、たまに。遊びだろうがなんだろうが、やると決めたら本気でやらなきゃいけない……いや、やった方が良いってことをわかっているアツいヤツがね。そういうヤツ同士の『戦い』を、アタシは『偽物』って呼べないなぁ。そう、それは……『本物』の『戦い』だよ」


 そう語る彼女の顔を見ていると、彼はどうしようもなく我慢ができなくなった。ゲームの中の「戦い」と自分達の「戦い」を同じものとしてみている彼女は、それこそゲーム感覚で自分達を虐殺しているのではないか、と。

 「戦わなければならないから戦う」のではなく「戦うのが楽しいから戦う」と言う彼女の考え方は、前から気に食わなかった。彼の心は今、怒りで満たされていた。それこそ、感じていた恐怖が塗りつぶされる程に……


 「――幻想と現実の違いもわからず、義務ではなく欲望で戦っているお前らしい意見だ。最低で最悪。外道の極みだ。お前は命を何だと思っているんだ……クズめ!」


 あふれ出る感情のままに、彼は彼女を罵倒した。

 ――その言葉に反応した彼女は、彼に冷たい視線を向ける。


 「……確かに、アタシはクズでゲスなのかも知れないけれどねぇ。彼らがどれだけ『本気』で戦っているのか、アンタは見た事あんの?――たかだか命賭けてるぐらいで、偉そうに上から語ってんじゃねぇよ。アタシ達の『戦い』と彼らの『戦い』……『本気』である、という面で、そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!みたいな。……ふん、今のはワリとムカついたよ、ゴキブリ野郎。冷めたわ。とっとと消えろ。『違うのだ!!』とか言ったらぶっ殺すかんね」

 「貴様……」


 怒りに支配された彼は、「ここで退くことはできない」という結論に達した。戦力差は明白。それでも今、立ち向かわなければならない。正義の為に、ここで戦う……!

 ナイフを強く握りしめ、渾身の力を込めて彼女に突撃した。

 ――はずだったのだが。


 「……え?」


 彼女に彼が到達したその時、彼は異常を察知した。

 彼女に突き刺す為のナイフが、どこにも無い。いや、それどころか……


 「な……何だ、何だこれは!?」


 ――彼は腕を切り落とされていた。一瞬……そう、目にも止まらぬ、認識すらできない速さで。


 「う……うおおおおおおおおっっっ!!?」


 彼女の手には、一体いつ現れたのか――大鎌が握られていた。

 暗闇に立つ彼女の姿は、まさに「死神」であった。


 「やっぱ、弱い。アンタの言う『偽物』の『戦い』をやっているヤツらを貶す権利なんて無いよ、アンタには。なぁ、明日何があるか知ってるか?……決勝戦があるんだ。アンタなんかよりよっぽど根性のある二人が全てを尽くしてぶつかり合うんだ。『ハニー・プラネット』が破壊されちゃあ、それが見れなくなっちゃうじゃないか」

 「お、おおお……う、腕が……俺の腕が……」

 「……腕が無いんなら蹴ればいいじゃん。足が無くなったら噛みつきでもしたらどうよ。……ふん、できないの?やっぱアンタ弱いよ。力がどうっていう話じゃない。なんだかんだ言って、アンタは『戦い』に対しての意志が貧弱なんだよ」


 そうして彼女は彼から視線を外した。興味を失ったように。


 「この『ハニー・プラネット』の作り手は……一度は逃げ出したらしいけど、コレを見ればわかる。『ハニー・プラネット』を作る、という戦いをしていたんだって。それはもう、壮絶なモノだっただろうね。……それにアタシは敬意を表するよ。――おいゴキブリ、今回は殺さないでおいてやるから、戻ってアンタらのボスに伝えな。『ハニー・プラネット』はアタシがきっちり守る、壊させはしないってね。元々、ここが襲撃されたらすぐにアタシに伝わるようになってるんだ。それでも来るってんなら覚悟しとけよ?例えその時アタシが地球の裏側にいたとしても、アタシの力なら一瞬で駆け付けることができるんだってことを忘れるな。いいね」




 彼は慌てて逃げるように部屋から飛び出していった。

 彼女は、しばらくじっと「ハニー・プラネット」を見つめていた。


 「……『ユウ』に『サエ』。アタシはアンタ達に会ったことは無いけれど、『本気』で『戦い』に向き合っていることはわかるよ。アタシは、そんなアンタ達が誇らしい。だから、明日の決戦が終わっても、戦い続けるんだよ。――邪魔は入れないよ。アタシはロクでも無いヤツだけど、ここをああいうヤツらから守るぐらいのことはしてやれる。任しといてよね」



 「死神」の如き彼女は、誰にも知られず、感謝もされず、しかしそれに不満を感じることも無く……ひっそりと、「本気」で戦い続ける者達を守り続けている……

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