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5-11 エピローグ:変わる世界の炎

 「……こういうのは、若い奴らにやらせるべきだと思うんだがなぁ……」


 ……といういかにもジジイの言いそうな言葉が口をつく。

 まぁ、実際ジジイだから仕方が無い。いくら心は中学生だとしても。


 僕がSSLに出会ってから、丁度40年が経った。今は2078年の4月。

 

 「生きている内には間に合わない、なんて思っていたが……なかなかどうして。間に合ってしまったなぁ」


 ジジイらしくしみじみとする。この僕、カギノ・ユウヒも随分と年を取った。

 今日は、素晴らしい記念日だ。こんな年になるまでIS社でヒィヒィ言いながら働いてきたことが、報われるのだ。

 「スキルシーカーズリンク」……略してSSLの初にして大規模なバージョンアップのテストプレイが行われるのだ。

 バージョンアップの内容とは……SSLの完全VR化である。


 VR……つまり、バーチャルリアリティ。今までずーっとSSLは画面の前のキャラクターを動かす、という形式の、今やこの時代では骨董品どころか化石レベルのゲームであった。未だに運営が続いているのは、単純にSSLが面白く、たかだか40年程度では遊び切れないほどのボリュームであるから……とは思うが、それにしたって奇跡的な話である。


 SSLを作ったのはノハナ・サエ、ミリ姉妹のお祖父さんだ。彼は「ハニー・プラネット」というトンデモ装置にSSLの全てのデータを詰め込んだ。その量、まさに天文学的。モンスター、フィールド、スキル……完全に頭のおかしい数であった。彼は恐らく人外だったに違いない。――その「ハニー・プラネット」の全データを検証し、SSLのVR化に伴い作業を行った今だとなおさらそう思う。血の色は緑色だったに違いない。


 僕とサエの二人で始めた、SSLのVR化のプロジェクトチームは、今や10万人を超えている。世代はバラバラ。共通点は、SSLに対する情熱のみ。チーム総出で、「ハニー・プラネット」に挑んだ。

 その作業は過酷を極めた。主に量的な意味で。底の見えないデータ量との果て無き戦い。しかもブラックボックスになっている厄介な部分も多数。あぁ、思い出したくも無い。いくら好きな事に関係しているからと言ってもあれは狂気的な仕事だったと言わざるを得ない。うえっぷ。これも戦いというヤツだろう。

 永遠に続くか、と思われた戦いは10年前に決着し、そこからの10年は実際に遊べるようにするための準備期間であった。

 今やVRではないゲームはSSLを除いて絶滅した。もはやVRであることなど宣伝にもならない。

 だから我々は、そのVRの精度を最高にまで高めるための努力をし続けた。

 本当に、その世界に入り込んだかのような感覚を提供する為に。

 踏みしめる地面を感じ、吹きすさぶ風を感じ、照らし温める光を現実と一切変わりなく再現することに全力を尽くした。もうやりたかねー。

 商業的に成功するかどうかは神のみぞ知る、という所だろう。宣伝部の活躍に期待したい。

 

 さて、そもそも2078年になって、人々のゲームに対する認識はどう変わったのか、というと……

 ぶっちゃけほとんど何も変わっていない。

 まーだ「ゲーム?たかがガキの遊びでしょ?大したことないって」みたいな感じの人が沢山いらっしゃるのだ。ぶっちゃけ馬鹿にされている。

 ああ、ああ、そうさ。遊びだよ。何せ名前からして「ゲーム」だもんな。

 「たかが」と言われるに相応しいモノだ。

 

 しかし、それがどうした。


 我々は本気だ。「たかが」遊びに使われるものだろうと、本気で向き合わなければならないと知っているのだ。そして、本気で作り上げたモノは、なんであれ制作者の誇りだ。

 だから、世間の生意気なガキから悟ったふりしたジジイやババアにまで、我々は自身を持って宣言してやる。

 この我々が作り上げたゲーム……例え無価値かつ無意味であろうと、お前たちが本気で取り組むのに相応しいシロモノである、と。


 ……ジジイが年甲斐もなく熱くなってしまった。――いや、自分がジジイかどうかなど、この際関係あるまい、きっと。

 この40年はきっと「青春」というやつだったに違いない。戦いの日々とはすなわち青春の日々である。多分。青春は永遠だー!!

 ……いやはや、今日は絶好調だ。素晴らしい。


 そんな事を思いながらニヤニヤしていると、扉をノックする音が聞こえた。


 「ねぇ、準備はできたの?早くいきましょうよ」


 少ししわがれた女の声が聞こえた。もう何十年も聞いている、サエの声だ。


 「あぁ、すまんすまん。すぐいくよ」


 VR用のヘッドセットをひっつかみ、急いで扉に向かう。

 40年前はコレに「VRスーツ」と言う物も必要だったが、時代が進歩し、脳波をどうちゃらこうちゃらするこのヘッドセットだけでVR体験ができるようになった。

 そう、コイツだけで自分の身体を丸ごとVRで作られた別の世界へ誘うことができるのだ。スゲー。僕も関わったけどスゲー。ユウヒ天才。


 扉を開けるとサエがそこにいた。勿論彼女も年をとった。ババアである。時の流れは無情である。

 しかし、なんというか、目の鋭さは若い頃のままだし、気品もある。良い年の重ね方ではないだろうか。

 年にしては声も体の動きも若々しいと思うぞ、うん。


 「さて、行くか。――ところで、今日の晩御飯は何だったかな?」

 「え?特に決めてないけれど、何故?」

 「いやぁ、今日は折角の記念すべき日なのだし。良い飯を食いたいと思ってな」

 「はいはい。手伝ってもらうからね」

 「あぁ。そうさせてもらうよ」


 今回、SSLのVRバージョンの初テストプレイをするのはこのジジイババアコンビである。

 僕は将来を担う若いヤツに、と思ったのだが、


 「ここはこのプロジェクトの創始者の二人にやってもらおうじゃねぇか!!」


 ……という声のデカいヤツの提案でこうなった。

 全く、アイツめ。僕をSSLに勧めた時とノリが変わっていないではないか。

 僕が中学生ならアイツは小学生だ。男はいつまでも子供、というヤツもいるが、アイツを見ていると賛成したくなる。


 「いやぁ、楽しみねぇ!まさか最初のテストプレイを任せられるなんて……血が騒ぐわねぇ!!」


 ……女もいつまでも子供なのかも知れない。隣のババアが目に見えてワクワクしていらっしゃる。

 いや、そうか、女とか男とか子供とか老人とか関係無いのか。

 彼ら彼女らは何かに本気になれる人間である、というだけの話だ。

 ……ふむ。僕も久しぶりに張り切るとしよう。


 用意された専用ルームに到着する。座り心地の良い椅子、最新型のホログラム・フォン、そしてプレイ中の我々二人の視界を共有するための巨大モニターが並ぶ部屋だ。


 「さて、始めるか。後は頼むぞ」

 「はい。いってらっしゃいませ、ユウヒさん、サエさん」


 傍に待機していた若い社員に声をかけた後、椅子に座り、ホログラム・フォンを起動し、VRバージョンのSSLのプログラムを開始する。

 

 「ヘッドセットを装着して下さい」


 立体画像に表示された指示に従い、ヘッドセットを装着。ほんの少しの時間を置いて、音声アナウンスが流れる。

 

 「VR開始まで、5、4、3、2、1、0。――ゲームスタートです。行ってらっしゃいませ」


 


 そして、気づけば僕は中世ファンタジーのような城下町にいた。


 「おぉ…………」


 素晴らしい。見慣れた筈の城下町だが、新鮮さに満ちている。

 まるで本当にSSLの世界にやってきたようだ。

 地面を踏みしめるこの感触。ドクン、と心臓が鳴った。


 目の前には、「サエ」がいた。


 「凄いわね……」

 「あぁ、凄い。とにかく凄い」


 凄過ぎて語彙が極端に少なくなっている。いやマジヤバい。

 サエが早速ブンブンと腕を動かしたり、走り回ったりしている。


 「あはははは!若返っちゃったみたい!!『ユウ』もこっちにおいで!!」

 

 現実ではババアなサエも、この世界でキャラクターとしての「サエ」になれば若く美しい女性である。

 ちなみに僕は、マッチョで怖い女性になっている。違和感が凄い。ただのジジイからマッチョ、アンド性転換。業が深い。

 だが、それが楽しい。最高に愉快だ。

 ……全く、やっぱり僕は40年前とたいして変わらないな。


 「『サエ』。とりあえず、フィールドに出るぞ。久しぶりの『ゴブリン』退治だ」

 「ええ、行きましょう!」


 姿こそ以前のSSLで使っていたキャラクターと同じだが、中身はテストプレイ用の初期状態のキャラクターだ。

 スキルももちろん初期のものだけ。ひよっこである。その為、まずは懐かしの最弱モンスター、「ゴブリン」退治からだ。

 非VRのSSLですら久しく足を踏み入れていなかった「初心の草原」に出る。

 おお、風が気持ち良いな。草花も本物の瑞々しさだ。

 歩く感触も城下町とは微妙に異なる。

 おぉ、素晴らしき仕事の成果。泣きそうだ。

 

 ……あと「ゴブリン」って近くで見るとこんなに怖いのか。泣きそうだ。


 「ヘタクソー」


 慣れないVR戦闘に苦戦して、SSLの最弱クラスのモンスターの「ゴブリン」を倒すのに随分時間がかかってしまい、「サエ」にからかわれた。


 「やかましい。こんな怖くて気持ち悪いのを間近にして初見で軽々倒しているそっちがおかしいんだよ」


 「サエ」の動きは軽やかだった。彼女の全盛期を彷彿とさせる、見事な動きだ。


 「ゴブリン」を何体か倒していくと段々慣れてきた。うむ、調子が出てきた。僕もまだまだ現役で行けるな。

 

 「あともう少しでレベルアップだな」

 「……あの辺り、丁度良い集団がいるわよ。よし、張り切っていくわよ、『ユウ』!」


 「ゴブリン」が徒党を組んで襲い掛かってくるのを、「サエ」と協力して返り討ちにする。

 我ながらなかなかのコンビネーションだったと思う。


 「はい、レベルアップ!」

 「よし、スキルを確認するぞ」


 レベルが上がり、新しいスキルを手に入れた。さて、何が増えたのやら。まるで初心者の頃のようにワクワクしながら確認する。


 「あ、私[ステップ]だった。地味だけど便利だよねー……『ユウ』、どうしたの?」

 「…………ははっ!」

  

 思わず笑ってしまった。またもや、コイツを引き当てるとは思わなかった。


 「……これはいい。よし、この世界でコイツを使うとどうなるか、見てみよう。良いテストプレイになりそうだぞ」

 「……え、まさか……」

 「そのまさか、だ」


 


 ――人差し指を空に向けると、その指先から真っ赤な球体が現れ、それがどんどん大きくなっていく。

 まさしくこれは「太陽」だ。SSLでずっと僕と共に有り、数々のトラブルと出会いと繋がりを呼び込んだ、死を極めた太陽がそこにある。

 つくづく縁が深いようだなぁ、僕とコイツは。

 指先を振り下ろした。それを合図に、「太陽」が全てを燃やし尽くさんと動き出した。


 







 この目に映るのは、燃え上る世界。

 今さっき自分が放った「太陽」が通り過ぎた後には、炎がごおごおと燃え盛っていた。

 そう、世界は一変した。


 これは、ゲームだ。

 そう、たかがゲームの話だ。


 雷が何本も落ちようが、大地震が起きようが、勇者が旅立とうが、魔王が倒されようが、だかがゲームなのだから、現実に生きる僕達には、何の意味も無い。何の影響ももたらさない。ソレとは関係なく地球は回り、世界は動き、時間は進み続ける。

 そう、無いんだ。意味とか価値とか、無いんだ。



 無いはず、なのに。



 その光景から僕は目を離せない。




 炎の熱を感じながら、僕は改めて決意する。

 SSLは、ゲームであるが、本気で作られた本物の世界だった。

 それをさらに進化させたのが、この光景だ。

 この光景を一刻も早く多くの人に見せたい。きっと度肝を抜かすだろう。

 ……ふむ、とっておきのイタズラを仕掛ける気分だ。愉快と幸福の極みだな。

 

 この世界で、新たなるスキルを、モンスターを、フィールドを、ライバルを、探すのだ。未来のプレイヤー達よ。

 それらが大切な繋がりになることを、僕は祈る。



 物語は、舞台を新たにして、再び始まるのだ。

 そう、未来の「本気」な「ゲーマー」達の物語だ。


「シーカーズ&ゲーマーズ~リンクライン~」 -完-

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