5-10 明日が待っている
「あーあ、何なんだよマジで!!『サエ』、お前これ以上強くなってどうするつもりだ!?」
「ゴウカ」がたまらず叫び出した。僕も頭を抱えていた。「リクワ」は何だか妙に楽しそうだ。
そして「サエ」は……恐らく画面の前で得意気にドヤ顔でもしてるんだろう。
ここは「天国酒場」。「ゴウカ」、「サエ」、「リクワ」、僕。すっかりお馴染みになったいつものメンツで気ままにグループボイスチャットに興じていた。
ここに来る少し前、「サエ」からPvPに誘われた。
グランドチャンピオンカップを3連覇したことで、新しいスキル習得の条件を満たしたらしく、それを試したいから、という話だった。
結果、「ゴウカ」も「リクワ」も僕も、その新スキルの前に敗れ去った。
超強力なカウンタ―技、[返しの極み]。……ふざけている。もういい加減にして欲しい。
……というか、今更だけどこのゲーム、「極み」って単語使い過ぎだろう。もはや様式美である。
「じゃ、諦める?」
楽し気に問いかけてくる「サエ」。その口調にちょっとサディスティックな気配すら感じる。
全く、この人は。この戦闘狂。社会不適合者。ばーかばーか。
「うるせぇ、絶対に攻略するっての!!」
「ゴウカ」がヤケクソ気味に吠える。
「気に食わない……絶対負かす」
僕も同じくヤケクソでそう宣言する。
「ふふーん、まぁセイゼイがんばりたまえー!!」
「サエ」が煽ってくる。
「んー僕は後でそのスキルを、[全知の眼]で調べさせてくれればそれでオッケーだなぁ」
「リクワ」さんがのんびりと言った。この人は相変わらずだ。最近、[スカウター]の上位互換、[全知の眼]を手に入れ、ますます精力的に新スキルの存在を知れば飛び回っている。
[全知の眼]では[スカウター]でも知ることが出来なかった[極死の太陽]の詳細データを明らかにすることができた。
今では、[極死の太陽]の完全な情報は、彼の運営する「SSL研究所」に掲載されている。
グランドチャンピオンカップが終わり、年も明け、しばらくの月日が経った。
相変わらず、僕は「リクワ」さんや「ゴウカ」、「サエ」と一緒にSSLを続けていた。
大体PvPをしているが……たまには外のフィールドに出て探索しながら気ままに遊ぶこともある。
次の目標は……とりあえず、次回グランドチャンピオンカップでの優勝だ。
僕の通う大学では新学期が始まっている。
アマノさんと久しぶりに会うと、随分上機嫌になっていた。
話してみると、アリマとヨリを戻したらしい。
「元の大好きなアリマに戻った」とのろけられた。ちょっとムカついた。
そんなアマノさんもSSLはまだ続けている。
どうやら彼女には才能というものがあったらしく、最近PvPでメキメキと力をつけている。
「サエ」を彷彿とさせる激しいインファイトで、「期待の新星」「『サエ』二世」「魔法(物理)少女」などと密かに噂されている。だから魔法使おうよ魔法少女。なんかキラキラしたヤツとか出そうよ。
何回か実際に戦ったことがあるけど、結構追い詰められた。その凄まじい様子を見てると、何故だかアリマは今後アマノさんに尻に敷かれる気がしてならない。頑張れアリマ。
そのアリマとは、まだ以前のように気楽に話したりはしていない。やっぱり、まだ少し気まずいんだろう。アマノさんは、「ケジメをつけさせよう、土下座させる」とコワい事を言ってきたが、断っておいた。
なんというか、もうそこまで焦ることも無い、そんな気がするのだ。
これからずっとずっと先の未来で、偶然顔を合わせた時に、何となく話せれば、それで良いと思う。
謝罪はいらない。
「――よくやったぞ、『ユウ』―――!!!」
あの叫びだけで、十分だ。
「――そういや、『ユウ』と『サエ』、一緒にIS社に就職するんだよな?」
「ゴウカ」が唐突に聞いてきた。
「まぁ、その予定だよ」
「……そうね。まだまだ先のことだけど」
実は、グランドチャンピオンカップが終わってすぐに、SSLの運営会社、IS社の社長でサエの妹、ノハナ・ミリと僕はまた連絡を取って、直談判したのだった。
「……え、マジですか?」
いきなり社長に電話をかけて、「御社に就職させてください。あ、あとサエさんも一緒に、なんてどうです?」とか言ってしまったので、ノハナ社長は相当困惑していた。
「あの『ハニープラネット』のデータを検証する仕事を下さい。やる気はあります、ええ、マジで」
……適当極まりない言い方だと自分ですら思う。
「正気ですかカギノさん。てかお姉ちゃんと一緒にって……」
「お姉さんが無職なこと気にしてたじゃないですかシスコン社長」
「……まーそうですけど」
「SSLに関する仕事なら大丈夫じゃないっすか。好きなことと関係あるんならやっていける。多分」
「えー……」
「グランドチャンピオンカップのファイナリスト二人ですよ?SSLへの情熱では、僕達二人に勝てるのってそうそういないと思いますよ。SSLの全てのデータが詰まった『ハニープラネット』の検証……貴方達が断念したその仕事、引き継がせて下さい。あ、でもプログラムとか素人だから社員さんに色々教えてもらいますけど」
「そ、そんなんでいいのかなぁ……色々と」
「大丈夫でしょ」
「お姉ちゃんには相談したんですか?」
「これからします」
「行き当たりばったり!?」
「大丈夫大丈夫」
「不安だ……大体なんでそんなことをするんです?『ハニープラネット』のデータを把握していなくとも、SSLの運営はできています。目的はなんですか……?」
そう問われて、僕はぼんやりと考えていたことを口にした。
「・・・・・・・・・・・・」
「駄目ですかね?」
「駄目っていうか……正気ですか?何年、いや何十年かかるか……」
「お祖父さんの残した全てを知り……それを新たなステージに押し上げてみたくはありませんか」
「……カギノさんって……なんというか……おかしいですね。頭のネジの本数は足りてますか?」
「……さぁ……」
「さぁ、って……あぁ、もう……」
「お姉さんの社会復帰のきっかけと思って。ついでに僕の就職活動を助けると思って」
「気楽か。気楽なのか。不安しかねー」
「大丈夫です、泥船に乗った気持ちでいて下さい」
「……酷い。色々と。あぁもう……」
そうして、無理矢理僕はIS社への就職をノハナ社長に約束させた。やったぁこれで就活という戦場から脱出できるいえーい。
サエさんにもそのことを連絡してみた。一週間ぐらい悩んでいたが、ノハナ社長とも実際に会って話し合った結果、僕と一緒にIS社に就職することに決めた。
「『サエ』もようやく無職から真っ当な会社員になるのかぁ。感慨深いなぁ」
「ゴウカ」がしみじみと言う。
「何で『ゴウカ』が感慨深くなるのよ」
「サエ」が不思議そうに返す。
「いやだってさぁ、何か見てるだけで不安にさせられてたからなぁ」
「『サエ』さん、良かったですねぇ……う、うぅ……ううう……」
のんびりとした口調の「ゴウカ」、そしてバレバレな嘘泣きを始める「リクワ」さん。
「アンタら私の父親かなんかか……」
こんな馬鹿な会話も、たまにはいいものだ。
「そういえば、『リクワ』さん。[神の怒り]についてなんですけど」
「おぉ、興味あるかい、『ユウ』君。やっぱりアレかい?思うところがあるのかな……同じ大規模スキルの持ち主としては」
[神の怒り]とは最近発見された消費SP500という、僕の[極死の太陽]以来の大規模スキルだ。
しかも、何の因果か……それを手に入れたのは、あの時の僕と同じような、右も左もわからない初心者だという噂だ。
僕は[極死の太陽]を手に入れた時に、色々とキツい事を他のプレイヤーから言われたものだったが、彼らにも何か心境の変化でもあったのか、今回はわりと気持ちの良い雰囲気で盛り上がっている。
「早くPvPに来ねぇかなぁ」
「正直羨ましいw期待の新人だわ」
「『ユウ』みたいになるのかね?楽しみ」
……みたいな。何だよチクショウ。
「僕の時とは違いすぎます。不公平じゃないですか。あんなの。ということでちょっといじめてきます」
「お前なぁ……」
「『ユウ』が頑張ったからでしょ。誇りなさいよ」
「もう僕は一度会ってるから。今からコンタクト、取ろうか?」
「――お願いします」
未来のライバル候補様にご挨拶といこうじゃないか。
日々は続いていく。明日が、新たな出会いが待っている。
そのことが今は妙に嬉しい。




