5-8 《!闘争の極み!》-5
空中で「ユウ」の拳が一筋の黄金の光になって飛び上がっていた「サエ」を捉える。
そのままひたすら「サエ」の身体に暴風雨のよう激しく拳を連続で叩きつけていく。
ユウヒの決死の秘策は成功した。後はひたすら[ラッシュ]の登録されたボタンを押しっぱなしにして、連打し続けるだけだ。
(――しかし……)
秘策が成功したにも関わらず、ユウヒの顔はまだ曇っていた。目線は画面上部に表示されたHPとSPの数値だ。
「サエ」のHPは、[カウンタ―:ヘルファイア]と[スマッシュ:ヘルファイア]を一発ずつと、要所要所で当てていた[ロングスピアジャブ]で元々300半ばまで減少していた。そして今、[極死の太陽]をキャンセルした時の特大の「キャンセルボーナス」と「サエ」が[一筋の黄金]を発動していたので「カウンターボーナス」も上乗せされた[ラッシュ]のダメージが「サエ」のHPを急激な勢いで削っている。
一方、[ラッシュ]は発動している間、時間の経過と共に自分のSPが減少していく。SPが0になってしまえば、この連打は止まってしまう。
見ると、「ユウ」のSPもそれなりのスピードで0へ近づいていっているのがわかった。
消費SP500の[極死の太陽]を放った直後で、しかもその前の攻防でもSPはかなり消費していたので、「ユウ」のSPは[ラッシュ]を始めた頃にはそれなりに少なくなっていたのだ。
(こっちのSPが尽きる前に、仕留めきれるか……?)
「サエ」のHPは確かに急激に減少している。ただ[ラッシュ]を打っているだけではここまでのダメージは出せない。ユウヒの策による各種ダメージボーナスの上乗せは確かに効いている。しかし、この状況に持っていくまでにSPを消費し過ぎた……
(これは……微妙な所だ)
「サエ」のHPが尽きるのが先か。「ユウ」のSPが尽きるのが先か。
判断がつかない。
……もし仕留めきれなければ、SPが無くなった無防備な状態を晒すことになる。
その瞬間を「サエ」が逃すとは思えない。
なら、一旦[ラッシュ]を止めて仕切り直すか?
――いや、それこそ勝ち目が無い。
長時間の戦いでユウヒの精神はボロボロだ。「ユウ」のHPはあと一撃……[極みの拳]でも食らえば尽きる危険域。
もう少し、今までの戦いで「サエ」のHPを削っておくべきだったか?
――いや、「ユウ」は間違いなく出来る限りの事をした。
もし仮に「ユウ」が強引に攻めていたとしても、「サエ」が相手では対応されて状況は今よりも悪化していた筈だ。
元々、これ以上は望めなかったのだ。
――覚悟を決めるしかない。
「……っ……ぅうおおおおおおおおおおっっっ!!!」
ユウヒは思わず叫んでいた。
勝つ……「サエ」のHPを削り切る、という強い意志が、叫びとなった。
画面の前の「ユウ」が「サエ」を連打している間、今までの思い出がフラッシュバックしてきた。
SSLを教えてくれた、友人だったアリマ。
自分に期待してくれた「リクワ」。
姉のサエを案じていたIS社の社長、ミリ。
力強く励ましてくれたアマノ。
準決勝で激しくぶつかり合った「ゴウカ」。
今まで戦ってきた多くのプレイヤー達……
そして、目の前の「サエ」を操る、自分がここまで上り詰めた一番の理由……「女王」、ノハナ・サエ。
陳腐な表現だが、自分一人ではとてもここまで来られなかった。こんな戦いを経験することは無かった。
ユウヒは今まさに、幸福の絶頂にいるような気分になっていた。
だから、だから、最後まで。
ボタンを押す指に渾身の力を込める。
全てを尽くして、戦い通すのだ。
「ユウ」のSPは残り少ない。「サエ」のHPも危険域に入る。
どちらが先に尽きるのか、全く見当がつかない。
しかし、どちらにせよ、勝負はほんの僅かな差で決まるだろう――!!
減り続ける数値。それを祈るような気持ちで見続ける。
「ユウ」のSPは、あと50……40……30……20……10……9、8、7、6、5、4、3、2、1……
――そして、0。
連打が、止まった。「ユウ」は放心したように落下していく。
それに追従するように、「サエ」の体も落ちていく。
――そして……「サエ」が黄金に輝く腕を振りかぶっていた。
「……ッハ」
ユウヒの口から、微かな笑いが漏れ出た。
「サエ」のHP……残り、8。
「……おいおい……ってことはあと一発だったんじゃないか……」
笑うしかなかった。
あと一撃。あと一撃で……
まるで物語のような、ドラマチックな結末。
「ひでぇなぁ、こりゃ……たまんないよ」
そう、たまらない。こんな冗談のような展開で負ける役に回るなんて、たまらない、としか言いようがない。
届かなかった。しかし、それでも、ユウヒはニヤリと笑って……
――黄金の腕が振り下ろされる。
……それを、受け入れた。
叩きつけられた「ユウ」の体。
HP、0。無機質で無情な表示を、ユウヒは見た。
「・・・・・・・・・・・・」
会場が沈黙に包まれる。見る者全てが、この光景に対しどんな言葉を発すれば良いのか、わかっていなかった。
「ユウ」はもう立ち上がらない。そして、「サエ」がそれを見下ろしていた。
2本の足で、地を踏みしめ、しっかりと立っていた。――それこそが、勝者の証明。
「……し……勝者、『サエ』選手……です」
実況がその事実を告げる。しかし、その声はあまりにも弱弱しく、役目を十分に果たしているとは言えなかった。
――その後、観客席がざわつきはじめ、そしてそれがだんだん大きくなり、いつしか大歓声となるまでには、永遠のような長い長い時間が必要だった。
……終わったのだ。カギノ・ユウヒとノハナ・サエの、お互いが全てを尽くした戦いは、ここに決着した。




